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1話.少年の夢は踏み台になる事!

水切と申します。

もし宜しければ、よろしくお願いいたします。

こちらは、ちょっとずつ更新していきます。

 子供の頃、父さんから聞く冒険の話が大好きだった。それはオレをワクワクとさせる勇者様のお話。仲間達との熱い友情。可愛い少女達との恋愛。そして魔王やモンスターを倒す爽快感。そのどれもがオレを夢中にさせた。


 だから、オレも父さんの様な勇者に成りたかった。この世界を救った父さんの様に、立派な勇者となって歴史に名を刻みたい。心が躍る冒険の日々に身を投じたい。


 ……そう思っていた。


 オレは努力をした。立派な勇者になる為に、得意な剣術は勿論、嫌いな魔法の勉強も頑張った。


 だけど、努力していくうちに気付いてしまった。オレは勇者になれないと。


 父さんの様に威圧感だけで、モンスターの息の根を止める事なんて出来ないし、魔法を使う時に七色の後光が差す事も無い。オレに出来る事と言えば、威圧感でモンスターの動きを止める事が出来る程度。


 こんな実力では、瞬間移動を駆使し、吐息だけで辺りを焦土に変えてしまう魔王には到底勝てない。つまり、オレは勇者には成れない。


 それを悟ったのが、十歳の時だ。


 だが、オレは諦められなかった。オレが勇者で無くても、せめて勇者の冒険活劇の一部になりたいと思った。


 主役じゃ無く、脇役を目指す。方針を変更したその日から、勇者パーティに加われるように、努力を重ねた。


 ……だが、これも失敗に終わった。


 物語の賢者の様に、死者を蘇らせるなんて事は出来ないし、剣士の様に剣圧だけで山をぶった切る事も出来ない。盗賊の様に、粋な下ネタで場を沸かせる事も出来ない。


 精々オレに出来たのは、不治の病を治療出来る程度の治癒魔法と、剣圧で大地を割る程度の剣術。下ネタは、試してみたら場が凍った。


 どうやら、オレには勇者パーティとしての才能すら欠如しているらしい。


 それでも、オレは諦められなかった。どうにかして、勇者の冒険にオレも加わりたい。勇者の冒険碑の一部に成りたい。


 ……そして、オレは閃いたのだ。


 そうだ、踏み台になろう。


 オレの名前は高位文代(たかいふみしろ)。父に勇者を持つ、踏み台志望の一般人だ。











「ねえ、フミシロ。そんなに急いで何処に行くの?」


 今、オレに行く先を聞いてきた少女の名はアリサ。オレと同じ黒い髪を持つ少女だ。腰まで伸びた長い髪が風でふわりと揺れている。


「何処って決まっているだろう、アリサ。今日は勇者が決定される日だぞ。新しい物語が始まる日なんだ! オレが行かなくてどうする?」


「やっぱり、フミシロも勇者決定戦に出るんだね! 嬉しい! フミシロなら絶対に勇者になれるよ。フミシロの父さんより立派な、勇者に!」


 ふっ……分かってないな、アリサ。オレが勇者決定戦に出る? そんな訳無いだろう!


「違う。オレは勇者決定戦には出ない」


「えっ」


 キョトンとした表情を見せるアリサ。どうやらオレが何を言っているのか理解出来ていないらしい。


 ……いいだろう。ならば教えてやる!


「いいか? 勇者の敵は沢山いる。物語になるのはその一部だ。だからこそ、出来るだけドラマティックに! かつ派手に! 登場する必要があるのだ!」


「ええ……」


「良い踏み台とは、スペックが高くないといけない。踏み台のスペックが高い程、主役である勇者の力が引き立つ! だからこそ、オレは今日まで努力をして来た! さあ、行くぞアリサ!」


 最近、音を置き去りに出来る様になった自慢の足で勇者決定戦の会場に向かう。途中でアリサが見えなくなったが、まあそのうち来るだろう。


 アイツも、かわいい顔して結構な使い手だからな。


「待ってー!」


 ほら、追いついて来た。


「なんでフミシロは勇者にならないの?」


「そんなの決まっているだろう。オレが弱いからだ。何せ……待ってくれ。声がする」


 声の発生場所を探ると、簡単に見つけることが出来た。


「た、助けてくれー!」


「た、大変よ! フミシロ! 行商人の様な男がドラゴンに襲われているわ! ドラゴンと言えば最強のモンスター! 唯の行商人が勝てる道理は無い! このままではあの男はドラゴンに襲われて殺されてしまい、妻や娘はおろか、荷物を待っている人々も困ってしまう!」


 ドラゴンは男に向かってブレスを吐き出した。ドラゴンのブレスは超高温だ。人間が触れればすぐさま蒸発してしまうだろう。つまり、このままでは男は死んでしまうという事だ。


「せええええい!」


 一日に一回だけ使える瞬間移動を駆使し、男の目の前に一瞬で移動する。


「だ、誰ですか? 貴方は? もしかして僕を助けに?」


 高温のブレスがオレの身を焼こうと迫ってくる。流石に、これに当たったら一溜りもない。


「話は後だ……ウォーターウォール!」


 オレの踏み台スキルの一つ。ウォーターウォールを発動する。


「そ、それは水属性の魔法、ウォーターウォール! ああっ! でもダメだ! ウォーターウォールは前方に水の壁を展開するだけの技! ドラゴンのブレスの前では正に焼け石に水! その火力を弱める事は出来な……なんだって!?」


 ドラゴンのブレスが、オレのウォーターウォールを突破する事は無い。当然だ、何故ならこのウォーターウォールは特別性。父さん直伝のナイアガラウォールだ。ドラゴンのブレスで破られる訳が無い。


「す、すごい! ドラゴンのブレスを止めたぞ! ああ! でもダメだ! ドラゴンの本当の脅威はその鋭利な爪! あれが直撃したら一溜りも無い!」


 ブレスを防がれ、怒っているドラゴンがその鋭利な凶器を振り上げる。何もしなければ、男の死体が二つ並ぶ事になるだろう。


「ふんっ!」


 全身から、威圧感を発する。このドラゴンを撃退するのは簡単だ。だがオレはそれをしない。いい踏み台とは、無益な殺生をしない者なのだ。


 オレの威圧感に中てられ、ドラゴンはその振り上げていた爪を下ろす。そして、逃げる様に飛び去って行った。


「ああっ! すごい! 何故かドラゴンが西の空に飛び去って行った!」


「危機一髪だったな」


「貴方のお陰です! ドラゴンを倒すなんて……もしや貴方は勇者様ですか?」


 勇者だって? ふっ……そんな訳が無いだろう。


「オレは――踏み台だ。先を急いでいるのでな。これで失礼する」


 自慢の足で再び、勇者決定戦の会場へ向かう。


「踏み台……? いいや、きっと謙遜だろう。あの方こそ、次代の勇者に違いない」


 後方で声が、聞こえた気がした。

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