懐かしい歌
綺麗なハープの音色とそれを追いかけるように歌うフルート。美しい緑に囲まれた中で歌う楽器と女達。
男達は楽器を奏でながら踊る女達に感嘆の声を上げ、そこからまた宴が続いていく。
毎日が美しいモノに囲まれていた遠い日の記憶。
それらに手を伸ばそうとアマービレが伸ばしたその手は。
「―――――っ……!!…は、ぁ」
その手は、届かない。
「は、、は…。こんな懐かしい夢を見るなんて。なんて不愉快な、朝の目覚め」
ありがちな悪夢からの目覚め。最後に伸ばした腕が何かに払われたような感覚で手に取ろうとしていた目の前の景色が殺風景な天井へと引き起こされた。
時間を見るとまだ少し早い。それでも再度眠る気にはなれずアマービレは身体を起こして井戸水を汲み上げているらしい水道へと歩いた。
水滴のはねる音をぼんやり聞きながらグラスに溜まっていく水を眺める。手に冷たい感覚が伝わった所で水を止めるとアマービレはそれを一気に喉へと流し込んだ。
「はー!!すっきりした。全く…昨日のアレが響いてるのかしら」
そう独り事を呟くのもいつもの事。昨日のアレとは城下町で会った少年と我が上官についてだったがそれ以上は考えないようにして慣れた手つきで朝食の準備を始めた。
昨日は先に司令部に帰されてから行っていたのは書類の分別のみ。その後いくら待ってもロキは司令部に帰ってこなかった。
何があったのか、なんて事はもう聞くつもりは無い。それでもあの退屈そうな目をした若い将軍がどんな顔をして帰ってくるのかを見てやりたかったのだ。
結局帰ってくる事も連絡もなかったその後。就業時間を追えてこの寮へと戻る道中でビートと話していたアマービレだがこのもやもやについては特に伝えなかった。
ビートはと言うとスカイと一緒に半日かけて物置になっていた部屋を片付けていたとの事。そんな気の抜ける仕事からのスタートだったが今日からは訓練所で剣術を学ぶといって少し張り切った様子を見せている。
そのお陰もあってか隣の部屋からはごとごとと音がする。基本的にぎりぎりにしか起きて来ないビートが動いているのは今日のそれに備えての事なのは間違いなかった。