序章
ある日。 突然にそれはやってきた。
空は曇り大地がおののく。海は荒れてその姿を変えた。
いくつかの大きな何か。 それらは国を荒らし多くの街を焼き尽くした。
王家は崩れ、逃げ惑う人々。
まるで世界の終わりかのように思えるほどの争いと混沌。人々の精神も少しずつ崩壊へと近づいていった。
しかし空から見えるは一筋の光。
ある英雄達の手によって滅びていった。
ある者は腕を失い、ある者は足を失った。
だが彼等英雄の働きがあり、今のネルタ王国がある。
――それが巷で語られる、ラグナロクの内容だった。
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「――…キ、ロキ!!」
穏やかな日の光と心地良い風。 それらに身を任せて横になっていた少年に、一人の 男が声をかけた。
一国ネルタの首都、オリュムポス。その中心に建っ ている城の中で、此処は唯一街を一望出来る場だ。
「あのさ、そんなに大きい声出さなくても聞こえてるから」
「じゃあ返事くらいして下さいよ…」
「で、用件は?」
「………」
寝転んだままで、こちらと会話をする気もない。
慌てて来た為に息があがっていたが、一気にクールダウンしてしまった。
だからと言って、毎度の事過ぎて怒る気にすらなれない。彼は常にこうなのだ。
「ロキの補佐になる予定の二人が到着したみたい。とりあえず顔合わせをするから、北塔に戻れってさ。…セイに頼まれたんだから早く来てくれよ」
「…気が向いたら行く」
こちらを向く様子もなければ、動く気配すらない。
そんな様子の相手と会話を済ませると、男は溜め息をついて走り出した。
そしてそこに一人残された少年は、起き上がって空を見上げると小さく笑った。
白い肌に光が当たり、尚更白く見える顔。その白さから、一つの傷がよく目立つ。
「俺の補佐、ねぇ」
"気が向いた"のだろうか。
そう一人呟くと、少年は立ち上がって先程男の歩いて行った方へと歩きはじめた。
黒くて長い髪が、さらりと風になびく。
細いそれらを欝陶しそうに一つに束ねながら、少年はゆっくりと歩いた。
城内を歩く兵士達は慌ただしく動き回っているというのに、少年は気にした様子もなくゆっくりと廊下を歩く。
だが兵士達は少年を見かけると敬礼をし、そそくさと離れていった。
「…おや、珍しいですね」
そんな少年に声をかけた一人の男。モノクルをかけ、白い服がよく目立つ。
彼は笑いながら、少年の隣に並んで歩いた。
「ロキが自分から来るなんて。…そんなに退屈だったんですか?」
「空眺めるのも飽きてきたしな」
「また君らしい理由ですね」
そんな会話を交わしながら、二人はある部屋の前に 立った。
大きな扉の中からは、何やら話声が聞こえてくる。
「さて、僕はロキを呼ぶよう言われていただけなので」
「入らないわけ?」
「仕事途中ですから。セイによろしくお伝えください」
「はいはい」
そう言って少年から離れて行った男。 残された少年はノックをする事もなく、大きな扉を開けた。