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【揺花草子。】(日刊版:2016年)  作者: 篠木雪平
2016年9月
287/366

【揺花草子。】<その1721:炎の導火線。>

 【揺花草子。】<その1721:炎の導火線。>


 Bさん「『根本的な帰属の誤り』ってあるじゃないですか。」

 Aさん「いや・・・え? なに?」

 Cさん「『対応バイアス』とも言うわ。」

 Aさん「いや・・・あの、なんです? 全然解りません。」

 Bさん「社会心理学の用語なんだけどね。」

 Aさん「いや・・・ちょっとそれは専門外だなぁ。

     って言うかきみよくそんなの知ってるね・・・。」

 Bさん「どう言う意味か想像してみて?」

 Aさん「えぇー・・・。

     『根本的』な『帰属』の『誤り』で、『社会』『心理』・・・?

     あれかな、自分が所属する場所に強い違和感を覚える的な・・・」

 Bさん「うーん。全く違う。」

 Aさん「違うのかよ!!」

 Bさん「あのね、じゃあ例え話をするね。」

 Aさん「お・おう。」

 Bさん「例えば、あるお天気の午後、

     阿部さんが某ショッピングセンターの中を

     アホ面下げててくてく歩いていたとします。」

 Aさん「アホ面下げる設定は必要なのかな?」

 Bさん「すると、通路の向こうで何やら幼女が大声で泣いている。」

 Aさん「んっ。」

 Bさん「回りの人々は遠巻きにその様子を眺めては見て見ぬふりをして足早に駆け去るのみ。

     『義を見てせざるは勇なきなり』が信念の阿部さんは

     おもむろに幼女に近づきます。」

 Aさん「いやぼくそんな高尚な信念持ってたかな・・・。」

 Bさん「目線を幼女に合わせて阿部さんは

     『お嬢ちゃんどうしたのかな?』と尋ねます。

     すると幼女は『おかあさんとはぐれちゃって・・・』と

     泣きながらもきちんと答えてくれた。」

 Aさん「うーん、ありがちだけど大変だ。」

 Bさん「阿部さんは幼女の手を取り、迷子センターに連れて行くことにした。」

 Aさん「まあ、真っ当な対応だろうねぇ。」

 Bさん「けど、その途中で、娘を探していたお母さんが駆け寄って来ます。」

 Aさん「おぉ、よかった!」

 Cさん「迷子のお嬢さんを保護してあげたわけだから、

     阿部さん的には感謝の言葉のひとつも貰えるんじゃないかと思うわよね?」

 Aさん「そりゃまあ。」

 Bさん「けど娘さんを見失って酷く混乱していたお母さんは、

     怒りの形相でつかつかと近づいてくると、乱暴に阿部さんから娘の手をもぎ取って、

     『人の娘に何しようとしてるんですかこの変態!!』

     と口汚く阿部さんを罵ったではありませんか!」

 Aさん「っっっ!!!

     そ・・・それは・・・ちょっと心が挫けるねぇ・・・!」

 Cさん「そして誘拐未遂の男逮捕と言う記事が明日の朝刊の地域面に載るわけよ。」

 Aさん「酷すぎる!!!!! そんなのあんまりですよ!!

     ぼくは善意でその子を助けてあげようと思ってたのに・・・!」

 Bさん「でもその記事で語られる阿部さんの姿形を見て、多くの人々は

     『あぁ・・・こう言う人・・・』って思っちゃうわけ。」

 Cさん「『見るからに事案ジェネレーターって感じの人ね』って思うわけ。」

 Aさん「やるせなさすぎる!」

 Bさん「もちろん阿部さん自身はそんな風には思わないでしょ?

     いくら自分が幼女好きだからとは言え

     自らの性行に基づいて幼女を連れ去ろうとしたわけではなくて、

     迷子の幼女が困って泣いていると言う状況において

     正義と信念に基づいて幼女を保護しようとしたと言う確固たる思いがあるよね。」

 Aさん「いや、幼女好きとか言わないで欲しいんだけど・・・

     でもまあ、確かに、自らの正義に基づいて行動したと言い切れるよ。

     カツ丼食いながらちゃんとそこははっきり主張するよ。」

 Bさん「これこそが『根本的な帰属の誤り』。」

 Aさん「えっ・・・なに? 全然要領を得ない。」

 Bさん「まとめて言うと、ある人の行動を説明するにあたって、多くの場合、

     その人の気質や性格にその行動の理由を求めがちな傾向があるのに対し、

     自分自身の行動の説明にはその状況がその振る舞いをさせたのだと

     考えるようなことを言うんだよ。

     他者の行動の意図を誤って推測するような傾向のことと言うかね。」

 Cさん「さっきの例で言うと、

     幼女を助けたのは他人からしてみれば阿部さんが幼女好きだからだと思うけど、

     阿部さん本人は幼女が困ってたと言う状況があったから、と言うわけね。」

 Bさん「ものすごくかいつまんで言うと

     『あいつはああ言う性格だからああ言うことをするんだ。』

     『でも俺はそう言う状況だからそうせざるを得ないんだ。あいつとは違うんだ。』

     みたいな。」

 Aさん「あぁー・・・。なんとなく解るかも・・・。」

 Bさん「こう言う事象を『根本的な帰属の誤り』と名付けたのは

     リー・ロス先生と言うアメリカ・スタンフォード大の心理学者さんです。

     1972年のことだそうだよ。」

 Aさん「ほほう・・・。」

 Bさん「このような傾向は人の行動にバイアスをかけて見ることで、

     理知的ではないし公正でもない。

     人々の行動理由を性格とか特性とかに求めるんじゃなく、

     きちんと状況や背景を考慮しなきゃいけませんよと言う警句でもあるわけだ。」

 Aさん「なるほど・・・。」


 Bさん「それで、この

     デイヴィッド・リー・ロス先生は・・・」

 Aさん「デイヴィッド・リー・ロス先生では

     ないですよね!!???」


 噂によれば少しだけ日本に住んでたらしいじゃないですか。


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「Meister's Brief」から自動転送

http://www.studiohs.com/28if/brief/2016/10/13.html


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