【揺花草子。】<その1641:三千世界の。>
【揺花草子。】<その1641:三千世界の。>
Bさん「昨日お話しした新作『阿部さん連続殺人事件』だけどさ。」
Aさん「いやだからそんなの思いつかないで?
もう腐臭しかしないんだけど?」
Cさん「そう言う腐臭じゃないんだけど。」
Aさん「そう言う腐臭ってなんですか!!?
あなたが言うとそう言う腐臭にしか聞こえないんでやめて欲しいんですけど!!?
なんで阿部さん同士でそう言う腐臭の話になるんですかね!!?」
Bさん「登場人物は全て阿部さんです。
斬新じゃない?
同じ顔の6つ子どころの話じゃないよ。
同じ人間がたくさんだから。」
Aさん「いや・・・そう言うの探せば良くあると思うけど・・・。」
Bさん「阿部さんは阿部さん同士特に干渉し合うこともなく、
個々にぼっちライフを過ごしていた。
しかしある日、ある阿部さんが惨殺されているのが発見された。
そしてその傍らには『全ての阿部を殺す 阿部』とのメッセージ!!」
Aさん「えっ・・・なに突然あらすじ話し始めたけど・・・。
そしてなに犯人も阿部さんなの? どう言うことなの?」
Bさん「LINEの阿部さんグループは大騒ぎになります。
『阿部さんを殺したのはお前だろ阿部さん!』
『いやお前に違いないこの阿部さん!』
飛び交う怒号と誹謗中傷!」
Aさん「阿部さんのLINEグループはあるんだね!?
特に干渉し合わずに過ごしてたわけではないんだね!?」
Cさん「こう言うジャンルだと、たとえ全ての阿部さんが同じ由来だとしても、
あくまで個別の阿部さんである以上、
置かれた環境によって多少なりとも個性が生まれたりもするわよね。」
Bさん「中には友人に恵まれた阿部さんもいるかも知れないし、
極貧に喘ぐ阿部さんもいるかも知れない。
あり得ない話だけど、恋人と幸せに暮らしている阿部さんもいるかも。」
Aさん「いや・・・うーん・・・。
それをあり得ない話とされちゃうと・・・。」
Bさん「とは言え同じ精神を宿す以上、根っこは同じ。
基本的な考え方は変わりません。
全ての阿部さんに阿部イズムが貫徹されています。
便宜上ここでは集合としての彼らをアベーズと呼称しておくよ。
そして単価は18万円だよ。」
Aさん「アベーズ語呂悪い!!
そしてどこのシスターズ!!」
Bさん「そんなわけで、ある阿部さんが他の阿部さんに先んじて事件の解決に挑んだ。
容疑者である阿部さんをひとりひとり洗い出し、
シロの阿部さんとクロあるいはグレーの阿部さんを選り分けていく阿部さん。」
Aさん「いやもうなんだか・・・阿部さんがゲシュタルト崩壊して来そうなんだけど・・・。」
Bさん「そして事件の核心に迫りつつあった矢先、第二第三の阿部さん殺人事件が発生。
その亡骸のそばには例の『全ての阿部を殺す 阿部』のメッセージ。
再び混乱に陥る阿部さん界隈。
全ての阿部さんがお互い阿部さんを信用できなくなり、
阿部さん業界は一触即発の状態になってしまいます。」
Aさん「むむむ・・・!」
Cさん「そして阿部さん同士の暴発的な抗争が多発。
自分以外全ての阿部さんが敵と言う状況で、犯人の目論見通りか否か、
阿部さんは自ら殺し合いを演じてその数をどんどん減らしていってしまう。」
Aさん「うわ・・・随分キナ臭い感じになって来た・・・!」
Bさん「なにしろ根っこは同じアベーズの一員。
それぞれが置かれた環境は異なっても、
大局的なものの考え方や振る舞いは似通っている。
ある阿部さんが他の阿部さんを出し抜こうとした時、
その阿部さんを相手の阿部さんも出し抜こうとしてるわけだ。
そんなわけで、相討ちみたいなことも頻発し、
加速度的に阿部さんが減っていく。」
Aさん「うーん・・・なんだか・・・。」
Bさん「そして最後に残った阿部さん2人。雌雄を決するとき。
相手が最初に阿部さんを殺したものかどうか、
自分が最初に阿部さん殺しを暴こうとしたものかどうか、
それはお互いにももう判らなくなって来てしまっている。
それぐらい彼らの通った道には、阿部さんの屍が累々と積み重ねられて来た。
この血で血を洗う阿部さん千日戦争を終わらせたい。
ただそれだけが、阿部さんの望みだったんだ。」
Aさん「はぁ・・・。」
Bさん「そして最後の戦い、阿部さんは敗れ、阿部さんが勝利した。
この世界に唯一無二の阿部さんとなった阿部さん。」
Aさん「(ややこしい・・・)」
Bさん「その勝利の余韻の中で、阿部さんは自ら命を絶つ。」
Aさん「命を絶つの!!? なんで!??」
Cさん「それが阿部さんの望みだったからよ。願いだった。祈りだった。
『全ての阿部さんを殺す』。
それは言うなれば、阿部さんと言う概念の存在しない世界。」
Aさん「えぇー・・・。」
Bさん「そして世界に平和が訪れたよ。」
Aさん「いろいろ釈然としないねそれ?」
その世界が望ましいかどうかと言われるとそれはそれで。
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