【揺花草子。】<その1623:きみのことを願う。>
【揺花草子。】<その1623:きみのことを願う。>
Bさん「今日は七夕ではありません。」
Aさん「いや・・・うん・・・
なにその『ここは最後尾ではありません』みたいな言い方・・・。」
Bさん「とは言えまあ、ぼくらの街が違うってだけで、
全国的には七夕じゃないですか。」
Aさん「まあ、うん。」
Bさん「全国的にはタナバティビティ高いじゃないですか。
ベリータナバティブじゃないですか。」
Aさん「前に言ってた『クリスマシビティ』とかもそうだけど、
きみのその言語感覚はなんなの?」
Cさん「カタカナ語に対していい感じに適当な日本人っぷりがたまらん感じでしょ?」
Aさん「たまらん感じってなんですか!!」
Bさん「まあとにかくぼくらにとっては今日は七夕ではない。
言うなれば偽七夕です。」
Aさん「偽七夕・・・。」
Bさん「だから本当のお願い事じゃない、偽のお願い事をしようと思ったよ。
きっと偽の織姫様が聞き届けてくれるよ。」
Aさん「いやだから別に織姫様が願いを叶えてくれるわけじゃないだろ?
別に織姫様そんな万能感ないだろ?
と言うか、偽のお願い事ってなにさ?」
Bさん「例えば、本当は別に叶って欲しいと願ってもないことをお願いしてみるとか。」
Aさん「どうでもいい願いってこと?」
Cさん「そうじゃないわ。
どうでもいい願い事でも、叶えばそれはそれでちょっと嬉しいじゃない。
タナボタ的な嬉しさがあるじゃない。
七夕だけに。」
Aさん「だけに。とか言われても・・・。
そんなクォリティの低いダジャレでドヤァってされても・・・。
つまりなに、叶わないで欲しい願いってこと? そんなものがあるの?
願い事である時点で叶うことを心のどこかでは望んでるものじゃないの?」
Bさん「それはなかなかに哲学的な問いだね。
しかしその願いが叶うことで逆に別の問題を生むとしたらどうだろう?
叶うといいけど、叶ったら叶ったで次の厄介ごとに巻き込まれてしまう。」
Aさん「うーん・・・どう言うこと・・・?」
Bさん「例えば、阿部さんが宝くじですごい額を当てたとします。」
Aさん「ほほう・・・!」
Cさん「(あからさまな食いつきが浅ましいわ)」
Bさん「でもまあ、良く聞く話だけれども、高額当選者がカネに振り回されて
人生を踏み外すと言う例は枚挙に暇がありません。」
Cさん「散財に耽り数年で財産を使い果たしたり、
悪い人達に瞞されて、あるいは投資や資金運用に失敗して無一文になったり、
最悪なケースでは犯罪に巻き込まれて命を失ったり。
良く聞く話よね。」
Aさん「う・うん・・・そう言うのはまあ一部だとは思いますけど・・・」
Bさん「──でもぼくは、阿部さんがいざ『その立場』になったときに、
果たして自分が節制と自尊心と品格を保ち続けていられるか、
心のどこかで不安を抱えているのではないかと思っているよ。」
Aさん「いや・・・まあ・・・そう言う立場になってみないとなんとも言えないけど、
そりゃもちろん、絶対そんなことにはならないとは言い切れないよね・・・。」
Bさん「でしょ?
だから阿部さんはきっとこう思うはずだ。
『人生を狂わされるかも知れない3億円みたいな高額当選は御免だ。
せいぜい数100万円の当選が身の丈に合っている。』
連番とバラを半分ずつ買うガチな買い方をしつつも、
そんな風に思うわけだよ、阿部さんなんて言う小さな人間は。」
Aさん「あれなんだ唐突な個人攻撃か?」
Bさん「だからぼくは願うよ。嘘の願いを願うよ。
阿部さんの平穏が嘘にならないために。」
Aさん「お・おう・・・そうなの・・・?」
Bさん「阿部さんが高額当選した宝くじを
『身の丈に合わないから』と言う理由で
ぼくに譲渡してくれますように、と。」
Aさん「それはホントに嘘ってことでいいんだよね?」
もっとも浅ましいのは。
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