【揺花草子。】<その1536:め組。>
【揺花草子。】<その1536:め組。>
Bさん「『消防署の方から来ました。』って言う典型的な詐欺があるじゃない?」
Aさん「あぁ・・・うん。ありますねぇ。」
Cさん「『消防署の方』って言う曖昧な言い方であたかも
消防署の職員であるかのように装って消火器を売りつける詐欺の手法よね。」
Aさん「ええ、そうですね。」
Bさん「そんなわけで阿部さんの家には消火器が10本ぐらいあるんだよね?」
Aさん「ないよ!!? なに言ってんの!!?
騙されるにも程があるだろ!!」
Bさん「この『消防署から来ました』って表現はさ、
もうすっかり詐欺の例文みたいなポジションを確立しちゃってますね。」
Aさん「まあ、確かに。」
Bさん「これは消防署界隈では忸怩たる思いなんじゃないかと思うよ。」
Aさん「うーん・・・どうだろ・・・。
まあ不当に名を騙られてるんだから、確かに腹立たしいだろうねぇ。」
Cさん「そう言うことじゃないのよね。」
Aさん「えっなんです?」
Bさん「『消防署の方から来ました』と言う言葉そのものが、イコール詐欺師のセリフと
無批判に結び付けられている現状をこそ嘆いているんだよ、ぼくは。」
Aさん「えぇ〜・・・? なにそれどう言うこと・・・?」
Bさん「例えばさ、阿部さんの家が火事になったとするよ。」
Aさん「イヤな例え出さないでくれる!!??? やめてよそう言うの!!」
Cさん「まあまあ。あくまで例えだから。そんなに青筋立てて怒らないでよ。」
Bさん「所詮は平行世界の出来事だから。」
Aさん「たとえ平行世界でもぼくの家が火災に遭うなんて起こって欲しくないよ!!
そんなIFものゴメンだよ!!」
Bさん「良いから、そこをぐっとこらえて、とりあえず聞いてよ。
とにかく、阿部さんの家から出火したとします。」
Aさん「うーん・・・おう・・・。」
Bさん「シチュエーションは、そうだね、阿部さんが夜コンビニに買い物に出掛けて、
ほんの10分くらい家を空けてた間に何者かがゴミ置き場に
放火したと言うことにしようか。」
Aさん「うう・・・微妙にあり得るシチュエーションだな・・・。」
Cさん「それは例えが少し甘くないかしら?
阿部さんが家を空けている間に何者かが窓から火炎瓶を投げ入れたって方が
よりリアリティ増すんじゃないかしら?」
Bさん「ああ、いいねそれ。すごくあり得そうだね。採用。
じゃあ阿部さんの家に火炎瓶を・・・」
Aさん「ちょっ!! なにその例え!!? この話で放火の手段そんなに大切!?
と言うかなんで火炎瓶投げつけられる方がリアリティ高いの!!?」
Bさん「まあまあ。
いかがわしい雑誌やらなんやらが散乱している阿部さんの部屋は文字通り燃料だらけで、
火の手はあっと言う間に勢いを増して阿部さんの家は
見る見るうちに紅蓮の炎に包まれた。」
Aさん「いやいろいろツッコミポイントあるけど・・・まぁ・・・」
Bさん「さて、コンビニから帰って来た阿部さん、その現場を目にしてどうする?」
Aさん「えっ? い、いや、そりゃもう、消防を呼びますよ。」
Cさん「果たしてそんな冷静でいられるかしら?
阿部さんが雀の涙ほどの収入をつぎ込んで買い集めたフィギュアやら円盤やらが
目の前でどんどん灰になっていく様を尻目に、冷静に消防に電話できる?」
Aさん「できますよ!? て言うか雀の涙とか言わないで欲しいんですけど!!」
Bさん「でもね意外と人間追いつめられると気が動転しちゃって
なかなかうまくいかないものだよ。
きっと阿部さんは震えてうまく電話できないと思うな。
仮に電話できたとしても、オペレーターさんに上手く伝えられないと思う。」
Aさん「うーん・・・。まあそう言うシチュエーションを経験したことないから確かに
きちんとできるかどうかは判らないけれども・・・。」
Bさん「でも、幸いなことに、出火にいち早く気付いた近所の人が
阿部さんより先に消防車を呼んでくれていた。」
Aさん「お・おぉ・・・それはありがたい・・・」
Cさん「おかげで火災はボヤで収まって、被害はわずかで済んだわ。」
Aさん「よ・良かった・・・。」
Bさん「呼ぼうと思った消防が、呼ぶ前に先方から先に来てくれた。
そんなとき阿部さんはなんて言うだろうね?」
Aさん「えっ。・・・あぁー・・・。」
Bさん「なんて言う?」
Aさん「・・・『消防署の方から来ました』?」
Bさん「ほらぁ〜! 言うじゃ〜ん!」
言うけど。
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