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第一章 動き出す非日常

 


 ――二○一二年。


「ふぁ……はぁ〜……」

 鳥の囀りと朝の暖かい陽光に眠気が誘われ、俺、崎米畔さきごめ ほとりは通学路を歩きながら大欠伸を漏らす。

 ここは住宅街だが、あまり人気は無い。明るく開放的な場所ではあるのだが、田舎の住宅街なのでこんなものだろう。

 そんなことを考えながらだるだるっと提げた鞄を背負い直し、少しだけ疲れた肩の骨をポキポキと鳴らした。

「ん?」

 その時、紅い何かがチラリと視界に入り、俺は何気なく振り向いた。

 見た先は、電柱の直ぐ隣に雑誌の束や箱などが積み上げられた、ゴミ置き場のようになった場所。 ちゃんとゴミ捨て場はあるのだが、ここにゴミを置いて行ってしまう非常識な人間が後を絶たず、ゴミ置き場のようになってしまっている場所だ。

 様々なゴミの中に埋もれて、こちらを覗いている人形が見える。それは、ややくすんではいるものの、綺麗な紅い着物を着た立派な日本人形だった。先ほど視界に入ったのは、この着物だったらしい。

(気味悪りぃな……)

 最初は何の変哲もないただの人形かと思っていたが、よくよく見るとどうやら違うようだ。

 艶やかな黒髪。べにで潤った唇に、白く柔らかそうな身体。そのどれもが生ある“人間”を思わせ、もの凄く気味が悪いのである。

 髪なんかは伸びてきそうだし。身体も人肌を感じさせそうで……。唇など、正に麗しい若い女性のそれだった。

 眉間に皺を寄せ顔を顰めながらも、人形を見つめていた俺は我に返って足を動かす。

 遅刻でもしたら大変だ。別に優等生ではないが、俺のクラスの担任はかなり煩いのだ。朝からグチグチとした説教攻撃を食らうのはごめんだった。

 俺は次の瞬間にはあの異様な不気味さを放った人形のことも忘れ、

(あぁ、怠りぃ……)

 などと一般的な学生らしいことを思いながら、学校に向けて歩を進めるのであった。



 三分前に学校に着いた。割とギリギリのような気がするが、まあ気にしない。

 俺がガラリと教室の扉を開けて中に入ると、

「ん。ふほり、んはほ」

 と実に奇々怪々なる挨拶をしてくる女の子と、

「オス」

 と一般的な挨拶をして来る男子が居た。

 廊下側の一番後ろの席に座っていた二人。先ず普通の人は何言ってるか分からない挨拶をしてきた女の子は、欠流永輝かける えいき

 俺は“ある人達”が植え付けたトラウマのせいで、基本的にあまり女子には関わりたくないのだが、彼女は恐らく一番仲が良いと言える女友達だ。

 こいつがかなりの大食いで、今日も朝から弁当を頬張っている。だからさっき挨拶が意味不明な感じになっていたのだ。

 そして弁当が入っているのは、弁当箱と言うにはデカ過ぎる入れ物だった。更に、食っているのは焼き肉弁当。

(朝から重ッ……!)

 いや、いつものことで別に驚くことではないのだが。心の中で突っ込みを入れる。

 こいつには口に物を入れたまま喋る悪い癖があるが、大体なんて言ってるかは分かる。さっきのは「あ。畔、おはよ」だ。

 もう一人の横浜順よこはま かず小学生ガキの頃からの親友だ。

 痩せ型の俺と違って、ほどほどにガタイがよく背も高い男らしい奴で、マスクも甘く、優しい。

 ……別に嫉妬なんてしていない。

「はよ〜」

 二人に挨拶を返し、席につく。

 俺の席は廊下側の一番後ろ、後ろから二番目が順だ。詰まり俺の前が順。順の隣が永輝の席である。

「しっかし朝からよく食うよなぁ。順とかなら体格を見て納得できるんだけど……。つか朝飯を学校で食うなよ」

 俺がそう軽く突っ込みを入れると、

「ふほおひへ、たへほひへはほっ! おははへっはんはほん」

 と宇宙語のような常人には解読不可な言語をぶつけてきた。

「な、なんて言ってんだ……?」

「寝坊して、食べそびれたのっ! お腹減ったんだもん。……だろ?」

 俺がその宇宙語を訳してやると、永輝は口をモグモグと動かしながら親指をビシッと立ててグッドサインをした。

「よくわかるよなぁ、お前」

 順が腕組みをし、頷きながら苦笑する。

「まあな」

 三分過ぎても担任が現れないので、俺は二人と話しながら常備しているパックジュースにストローを差す。

「いっそつき合っちゃえば?」

「ブッ!」

 イチゴミルクを飲んでいた俺は危うく吹き出しはごった。ゲホッゴホッと激しく噎せる。悪い冗談にもほどがある……。

「何言ってんですか正気ですか馬鹿なの死ぬの狂気なの?」

 無表情で淡々とした静かな口調なのに恐ろしい雰囲気を纏った永輝が言う。

 弁当を食っている最中なのにいつものように口の中に物を入れたままではなく、ハッキリと普通の言葉を喋った。

「い、いやでもな……マジで噂あるんだぜ? お前らの色恋沙汰云々」

 そんな永輝に気圧され、両手をぶんぶんと振りながらも順が放った言葉に、

「はい!? 噂とか、どうせ誰かの妄想だろ。どうせならもっと現実味のある噂にしろっつの」

 と呆れながら答えた。

「…………」

 永輝は黙々と弁当を食べ続け、何も言わなかった。「……あ。じゃあさ! 今、極一部で話題の都市伝説? みたいなやつ知ってるか?」

「知らない。てか聞かない。すっごく嫌な予感しかしない」

 本能で危険を察知した俺は、即座に話を拒否する。

 ……入った部活がまずかったため、こうゆう話題は極力避けたいのだ。また変なことに巻き込まれるのはごめんだからな。君子危うきに近寄らず、だ。

 俺は、以前、部活の認可がおりないから入ってくれと泣きついてきた某さんを思い出して深い溜め息を吐く。正に俺にトラウマを植え付けた人物の一人である。

「まあ、いいじゃねえか。お前こうゆうの好きだろ? 心霊・オカルト・ミステリー研究会に入ってるくらいだもんな」

 俺の頭の中で轟音と共に巨大な雷が落ちて、周囲を破壊させた。

「……順。それは言葉では言い表せないくらい莫大な誤解だ。俺はただ、どっかの誰かさんに泣き落とされて“仕方なく”入っただけなんだ……。一体、何度死ぬかと思ったか……」

 絶望的な表情で俯き、重々しく物々しくかぶりを振りながら、俺は誤解を訂正する。

「お前……顔色が死人だぞ。青い縦線入ってるぞ。ジメジメして頭にカタツムリ登ってるぞ。室内なのにお前の上にひどい曇天出来て雨降っちゃってるぞ? でもまぁ聞けって。聞くだけ。実は結構、怖くてさ」

「……へぇ、怖いの? そんなに楽しそうな顔して怖いの?」

 順は楽しそうな顔をしてにこやかに笑っている。爽やかスマイルだ。……益々嫌な予感しかしない。

「ふふふ、実はな――」

「永輝、担任遅くね?」

 奴が話し出そうとするのを無視して俺は永輝に話し掛ける。

「モグモグ、そうらね〜。モグモグモグ」

「おい!?」

 順が怒って身体を前に突き出してきたところで、教室の扉が開いた。グッドタイミング。

 入ってきたのはあの煩い担任ではなく、別の教師だった。眼鏡を掛けた大人しい数学の教師だ。

「え……?」

 だがグッドタイミングなどと浮かれていた俺は、刹那、間抜けな声を上げていた。

「どーした?」

「いや……別に」

 俺が間抜けな声を上げたのは、違う教師が入ってきたからでも、その教師が暗い様子だったからでもない。

 俺が見ていたのは、その教師の直ぐ後ろ――。

(今、一瞬……紅いものが……)

 考えてからブンブンと頭を振った。有り得ない。見間違いか、そうでなければ疲れてるか何かだな、きっと。

 教師は溜め息を一つ吐いた後、遅れてしまったことへの謝罪の言葉を一言述べてから話し出す。

「さっき警察の方から連絡があってな。みんなの担任のマチダ先生が事故に遭って病院に運ばれたそうだ」

 教室がざわつく。なんてことはない、よくあること――ではないが、有り勝ちなことだ。

 ダラダラ、ヘラヘラとしていた教室内の緩い空気が少しだけ重くなる。それ以外は別段かわりない、普通の教室。

 ただ、見回す限り二名に、明確な変化が見られた。

 一人は、永輝。流石に弁当を食べるのはやめているが、そうではなく彼女は何か恐ろしいものでも見たかのように表情を強張らせていた。

 もう一人は、確か尾澤廉華おざわ れんかとかいう名のクラスメイト。この子はよく知らないが、日本人形のように整った顔と常に無表情なのが印象に残る子である。だが今、彼女は表情を険しくさせ、熟考するように床を睨んでいた。

(なんだ……?)

 不審に感じて、

 怪訝を覚える。

 不意に、尾澤とかいう女子が顔を上げた。その時、違和感を覚える。

 そして恐る恐る尾澤の目線を辿った。それはあの数学の教師。いや、違う。数学教師の――後ろ?

 出欠確認を終えた数学教師は出席簿を抱え、重そうな足取りで教室を去る。

「……」

 間違いない。奴は去って行く教師の背中をずっと見つめていた。

 先ほど一瞬だけ見えた、教師の直ぐ後ろに“居た”アレが、チラリと脳裏をよぎる。ゾワリとした悪寒が体中を走った。

 ――俺は順の言葉を思い出す。

「今、極一部で話題の都市伝説? みたいなやつ知ってるか?」

(もしかして俺は……既にとんでもないことに巻き込まれているのかも……?)

 この時、俺が自分の思考に気を取られていなければ……斜め前方で永輝が小さく息を呑んで、

「惨殺事件……」

 と意味深な言葉を呟いていたことに気付いていたかも知れない――。



 何だかモヤモヤした気分のまま、あっという間に放課後になった。

 太陽は沈み、教室の影が濃く大きくなっていく中、鴉の鳴き声を背景に俺は順に話し掛ける。

「なぁ、順」

「ん〜?」

「朝の話……聞かせてくれないか?」

「朝……って、あの都市伝説?」

 他の生徒と同様、帰り支度をしていた順は少し驚いたようにこちらに顔を向ける。

「ああ」

「あんだけ嫌がってたくせに。まあ、話してやる。あのな……?」

 そう言って順が話してくれた内容は、次のようなものだった。


 ――これはある一体の人形の話。

 それは何の変哲もない市松人形なんだそうだが、この人形が“ある事件”に関わっているらしい。

 海外で起きた、とある連続殺人事件。

 それは明らかに他殺だったのだが、それは奇妙なものであった。

 死に方はランダム。被害者の遺体はどれも目を覆うほど凄惨で、たとえばそれが何なのか判別がつかないほど破壊されていたり、とにかく明らかに拷問された後のようだったという。

 それだけを聞けばサイコキラーか何か、連続殺人犯の仕業だと言える。

 しかし遺体の中には、まるで雑巾を絞った後のように全身が捻れていたりした者や、自宅という何もない場所で、家族がちょっと出掛けている間にプレスしたようにペシャンコになっていたりした者など、他殺以外有り得ないが他殺は不可能な、自殺も不可能な、事故も不可能な、病気や自然死も無理がある奇妙な死に方ばかりであるのだ。

 警察は奇妙なことだと思いながらも、本腰を入れて調査した。その結果、“犯人”は見つかった。

 犯人は、一体の“人形”だったのだ。

 警察官の中にも、「動く人形を見た」という人が現れ始める。

 ――そして、最初はバカバカしいと相手にしていなかった警察も青ざめる事件が起きた。

 人形を見たと主張していた警官が、全く違うランダムな場所で同時刻に全く同じ死に方をしたのだ。

 そしてその周りや警官の遺体には、蕾が花開くように乱れ広がる、艶やかな黒髪が散りばめられていた。

 以来、頭を抱えた警察は、知る人ぞ知る、力の強い霊媒師に人形を引き取ってもらったのだそうだ。

 それ以降、連続殺人事件の続きは起こることがなかったという。

 ――猶、その人形は“綺麗な紅い着物”に、“生きている人間のように生々しい容姿をしている”と言われている――。


「…………」

「何だ、そんなに怖かったか?」

 無言になる俺に、順がニヤニヤと笑いながら顔を覗き込むようにし、訊いてくる。いつもならここで憎まれ口の一つでも叩いてやったものだが、今は言い返せそうにない。

 所詮、よくある在来りの都市伝説。この手の話を信じない人には怖くはないだろうし、信じる人でも怖くはないかも知れない。飽き飽きするだろうと思う。実際、俺もそうなのだ。

 が、しかし。今は違う。こんな在来りの都市伝説を聞いて、言葉も出ないのは――。

「……順」

「ん?」

「俺……今朝、それ……」

 突如、俺の言葉を遮って教室の扉が開く。入ってきた人物を見て俺は青ざめて絶句し、雷に打たれたような衝撃を受けた。

「畔さん、遅いと思って捜しに来たらやっぱりまぁだ教室に居たんですか。今日は部活がある日だというのに、全く。高校生にもなってしっかりして下さいよ」

 トテトテと可愛らしい歩き方でこちらに寄って来たそいつは、両手を腰にあてたエッヘンポーズで立ちはだかる。

「……美故兎……」

 俺は深く深く心の底からうんざりした様子で、そいつの名を呟いた。

 ――藤谷美故兎とうや みこと。コイツに説明など要らない。要るとしたら一言。


 変人。


 心霊・オカルト・ミステリー研究会にオレを引き摺り込んだのは他でもない、こいつだ。

「さぁさ、行きますよ畔さん」

「……悪い。俺、ぜってぇ外せねぇ用事がある」

「用事? 嫌ですねぇ、私より大事な用事があるんですか?」

 軽く顔を顰め、片手を顔と腹くらいに大振りに振りながら、「またまた〜」とでも言い出しそうな仕草でそんなことを言う美故兎。

「いや、そもそもお前大事じゃねぇから」

 俺は目を細め、冷ややかな視線を投げかけながら正直に伝える。

「照れることないじゃありませんか、ここには私とあなたとあなたの親友しか居ないんですから。素直になれないあなたが正直に想いの丈を伝えて下さると言うのなら、私は真剣に訊いてあげますよ。仕方なくですけど。それで大事な私より大事な用事とは一体? ……まさか……相当際どいアブノーマルな内容のDVDでも観る予定なのですか……?」

「そ、そうなのか!?」

 順が一歩後退して、距離をとる。

「ねぇよ!! 興味ねぇし持ってもいねぇよ! 勝手に引くな! お前も本気にするなっ!」

 ドン引きの眼差しを送る二人に俺は激しく反論する。だから嫌なんだ、こいつは。

「大丈夫です、黙っておいてあげます。思春期の男子――この年齢ならば、若気の至りでついそういった危ない道に目覚めてしまうのも仕方のないことですから……」

 美故兎は、五指をぴたりとくっつけた手を悲しげに頬に添え、哀れむように、察してあげるように、優しい口調でそんなことを宣う。

「……人の話を聞け」

「それより、早く部室に向かいましょう。今日はメンバーが久しぶりに全員揃いましてね。みんな待っていますよ!」

 話を聞かない美故兎が俺の手を握り、強引に引いてくる。俺は深い深い溜息を吐いた。

「いや……だからさ……」

 そこで俺は恐ろしい事実に気付き、やや前のめりに力が抜けていた体を起こす。

「……って待てよ? 全員……? ま、まさかあのおっそろしい世木積先輩もっ……!?」

「誰が恐ろしいって?」

「っ!?」

 俺は気配もなしにいきなり背後から掛けられた馴染みのある声に、顔を引き攣らせながらゆっくりと振り向く。

「せ、世木積先輩……」 そこにはミス研の部長、世木積揚羽せきづみ あげは先輩が片手を腰に当てて颯爽と立っていた。

 最近、なんか用事があるとかで顔を合わせていなかったが、ふくよかな双丘を作る胸以外は相変わらず完璧なモデル体型である。

 かなり端正な顔立ちに、豊かな胸元、くびれ、スラリと長い脚、高い背丈。少し出歩いただけでも目立つ、高校生なのに女の子というよりも“女性”という印象を与える人だ。

 ちなみに美故兎は副部長だ。

「あぁー……。お、お久しぶり、ですね……」

「悪口を言うときは、何処かで本人が聞いていないか確かめてからにしましょうね」

 剣呑に目を細め、薄ら笑いを浮かべながらそう言われた。勿論笑っているのは口元だけが僅かに、眼は笑っていなかった。正直、かなり怖い。

 そしてお久しぶりの部分はスルーですか……。

「すみません、部長。早く連れて来ようと思ったんですが、畔さんが用事があるとか言って断るので……」

 右手首をクルクルと忙しなく回す意味不明な動作をしながら美故兎が言うと、ベテラン刑事のようなギラついた目を向け、先輩が尋ねて来る。

「そう。それで用事っていうのは何なの?」

「えーっと……」

 まずい。美故兎だけだと思っていたので、用事があるとは告げたが明確なことはノープラン。まさかこの人が来るとは……。

 俺は助けを求めるように順に視線を送った。

「……あ……じゃあ俺は失礼します、世木積先輩。じゃあね、美故兎ちゃん」

 目があったがスルーされた……。おのれ、順め。裏切り者。

 美故兎はさようならと緩く答えて、世木積先輩も無表情に頷いていた。

 順が居なくなると、先輩はゆっくりと腕を組み、少し頭を傾けながら呆れた様子で言葉を紡ぐ。

「それで用事っていうのは嘘なのね。やりたくもない部活動をするのが嫌で、用事があると言い訳したものの明確なことまでは考えていなかった。そして美故兎にメンバーが久々に全員揃ったことを聞いて私の悪口。そしたら私が現れた、ってとこかな?」

(……何で? 何でそこまで正確にわかるの……?)

 怖い。やっぱりこの人怖い。この世木積先輩こそ、俺に美故兎と共にトラウマを植え付けた張本人なのだ。

「それくらい分かる」

「エ、超能力者エスパーですか……!?」

「あんたが、見ただけで分かるような顔してるだけ」

(どんな顔だよ……)

 結局、俺は世木積先輩と美故兎に部室まで無理矢理引っ張って連行されたのだった。



「どぉも、お二方。お待たせしてしまって申し訳御座いません〜」

 部室の扉を開けるなり開口一番に一言謝罪を入れた美故兎。俺はその後ろで死んだような顔をしていた。

「畔はまたサボる気だったの?」

 窓側の席に座り、黒魔術的な本を読んでいた女の子が、本を閉じながら顔を上げて尋ねる。

 留導鶴羽るどう つるは。この子はどちらかというと、ミステリーというよりは心霊・オカルト系としてここにいる。この部活は総合なのだ。

 手を見るといつも必ず何かしらの本が握られている。黙読といったらこの人、とイメージがつく女の子だ。

 顔立ちは美人な方であり、肌も抜けるように白かった。

 煩い美故兎などとは対照的に物静かであったが、陰気な印象は感じさせない、寧ろただ鋭い雰囲気を持っている。

「いや……だってさ……」

「……それより今日の活動はなんだ」

 廊下側の一番前の席でひっそりと座っていた西原日向さいばら ひなたが振り返ることもせず無愛想に訊いている。

 日向は色はやや白い方だがガッシリとした身体で、如何にもスポーツマンタイプといった厳ついナリをしているのに、低音でボソッという喋り方でほぼ無表情である。印象を訊くと、誰に訊いても“淡々としている”という返答がくるであろう男だ。

「実は最近、気になってることがあってね」

(うっ……なんかすっごい嫌な予感がするんですけど……)

 能面のような無表情で放たれた世木積先輩の言葉に、俺は背筋にゾワッとした寒気を感じた。


「ある日本人形について、なんだけど」


 的中……。それは一番、聞きたくなかった単語だ。

「部長。それはもしかして一部で語られている連続殺人事件の人形のことですか?」

「うん、そう」

 そうして、美故兎の言葉に頷いた世木積先輩が的確に無駄なく語ってくれた話は、先ほど教室で順から聞いた都市伝説と全く同じものだった。

 その話を聞いた俺の顔には死相が出ていただろう。いっそ、このまま消えてしまいたかった。

「で私は、勿論この部のメンバー以外にはシークレットで、この事件の真相を追究したいと思う」

(正気だろうかこの人……。いや、狂気だな)

 狂気。そうだ、狂気だ。俺は決め付けた。そんな狂気な先輩に、周りは――。「やや! それは命の危険が伴うことじゃありませんか。しかし私はやりますよ! 久々に血が騒ぎます」

 一人は拳を握り締め熱く燃え、

「……面白そうだな」

 一人は腕を組んで意味深に微笑し、

「久しぶりに楽しそうな活動じゃない」

 一人は頬杖をつき嬉々と悠然と。

(おかしい! この人達、おかしい!!)

 どうやらこの部活でまともなのは俺しかいないらしい。

「それでなんだけど既に私が調べてみた結果、あることがわかったの」

(私が調べてみたって調査済みかよ! んで、俺がやるかやらないかは訊かないんですか……)

 つまりは強制ってわけである。涙が出てくるほど、素晴らしい話だ。

 しかし先輩が話そうとした、その時だった。

 ――コンコン。

 突然のノック音に一番大きく反応したのは俺だった。しゃっくり上げたかのように身体をビクリと痙攣させ、肩が何センチか上がった。

 鶴羽は扉の方に振り向くだけ。美故兎も同様に扉の方へ振り向き、きょとんとした表情になっただけだった。くそ、恥ずかしいな。

 日向や世木積先輩など、無表情のまま微動だにしなかった。

「はいは〜い?」

 気の抜けた声で返事をし、美故兎が扉を開ける。

「すみません、ミス研の部室ってここですよね?」

 和風の女性を連想させるような澄んだ声のそいつは、あの日本人形のように整った顔をした、クラスメイトの尾澤廉華であった。

「そうですよぉ」

「私、二年A組の尾澤廉華です。実は、心霊系のお話があるのですが」

「あ、大歓迎です! どうぞどうぞ」

 にへらと頬をたごませるように笑った美故兎が、片手を意味もなくひらひらと振りながら尾澤を部室に通した。

 彼女は無駄のない動きでこちらに歩み寄り、失礼しますと一言掛けてから近くの椅子を引いて座った。

「あなた方はもしや、かの連続殺人事件に関わった日本人形について調べているのではないですか?」

「はい」

 先輩が答える。何故か敬語で。

 心なしか、尾澤を敬うような物腰な気がした。その様子に、不自然というか、少し違和感を覚える。

 尾澤は両手を膝の上に乗せ、疲れないかと心配になるくらい背筋をぴんと伸ばした綺麗すぎる座り方で、一度、愁いめいた目を伏せる。

「矢張り、そうですか。……こんな話をしても不安を煽るだけかも知れませんが、あなた方のお力になれば幸いかと思いまして。最初にお訊きしますが、あなた方は人形を見ましたか?」

「いいえ」

 また世木積先輩が答え、それに便乗するように他の者は首を振った。

「そうですか。では先ずは私のことから話しましょう」

 尾澤はそう言って、驚愕の事実を告げたのだ。

「不自然な惨殺事件が多発し、捜査した警察が行き着いたのは一体の人形。そして警官の中にも“動く人形を見た”と主張する人間が現れ始め、人形を見たと主張していた警官が全く違う場所で同時刻に全く同じ死に方をする事件が発生しました。ミス研は優秀なようですし、極一部で噂になっている手前、ここまでは皆さん存じているかと思われます」

 髪を耳にかけ、無表情のまま尾澤は続ける。

「以来、頭を抱えた警察は、霊力の強い霊媒師に人形を引き取って貰うという形でこの事件を締め括りました。それ以降、連続殺人事件の続きは起こることはなくなったのですが、実はその引き取った霊媒師、私の親戚なのです」

「え……!?」

 俺は驚愕して素っ頓狂な声を上げた。

「その方は主に海外で活動していた優秀な霊媒師だったのですが、実はこの霊媒師の方の訃報が先日届きまして」

 みんなが表情を険しくさせた。淡々と語る尾澤は眉一つ動かさない人形のような無表情を貫いている。

「フホウ?」

「死亡の知らせのことよ」

 首を傾げる俺に、世木積先輩が鋭利な刃のような突き刺さる視線を向けて教えてくれた。

「え……」

 これが、驚愕の事実だ。

「その方の遺体は有り得ないほどねじ曲がっていたのです。――問題は、彼の死後、人形が跡形もなく消えていたことです」

「……脱走、ってところ?」

 静かに放たれた鶴羽の言葉に、尾澤は徐に頷いてみせた。

「詰まり、何処かにその人形が“居る”ってことね」

 長く美しい髪をかき上げ、耳に掛けながらこともなげに先輩は言う。

「はい。アレは霊力の強い霊媒師をどうにか打ち負かし、逃亡した人形――。あなた方にも命の危険性があるので、それを伝えに来た次第です」

 俺は露骨に顔を歪ませ、上腕を押さえて身震いした。これが本当なら、流石にまずいだろう。

「私は霊媒師の親戚として、そして人形師一族の尾澤家の一員として、人形の捜索にあたり接触しようと思っております」

 この人も正気だろうか。接触? 警察やらを惨殺した人形に? 狂気だ……狂気だな、うん。

「なら私達も無論、加勢させて頂きます」

 世木積先輩の有り得ない言葉に、三人は黙って力強く頷いてみせた。

「え、ちょっ、待って下さいよ! こういう話を聞いたら普通、退くもんじゃないですか!? 警察とか関わってんですよ!? 自殺行為じゃないっすか! 高校生ごときが関わっていい件じゃないと思いますよ!?」

 その驚愕の選択に、俺は堪らずに非難の声を上げる。当たり前だ。確実に死亡フラグだろう。

「崎米くんの言う通りです。命の危険があるのですよ? 私はただ、人形の情報を仕入れられないかとここを頼っただけであり、また、もしこちらが人形に関わろうとしているのならそれがどれだけ危険か知らせようと訪ねただけです」

「そのような話を聞いて、ミス研の一員として放ってはおけません。私達も手伝います」

 そういう先輩に、更に反論しようと口を開いた、その時だった。

 振り返った世木積先輩の顔が、あまりにも……。

「っ……!? や、やりますやりますよ、そりゃ……。命の危険があるって分かっていて、女の子一人に任せるなんてしませんよ……!」

 両手の平を相手に見せる形で固まり、勢いでそう言ってしまった。うわ何この強制。誰か助けて……。

「忝ないです」

 尾澤が頭を下げる。もうこうなったら腹を括るしかないか。彼女だって、さっき知ったが人形師の家系で霊媒師が親戚で色々あるのだろうが、仮にも女の子だ。助けが欲しくないという訳ではあるまい。

(てか人形の捜索とか言ってたけどもしかして今朝、俺が見た……)

 違う可能性もあるが、どうする。ここで言っておくのが吉か。

「尾澤さん。その人形が着ているのって、紅地に淡い朱色の椿模様と金糸でヒトガタのような刺繍の入った着物で間違いない?」

「はい」

 先輩と尾澤のその会話に、俺ははっとする。

(え、あれ? 今朝、見掛けたあの人形って確かそんな感じじゃ……)

「じゃあみんなそれらしき人形を見掛けたら、取り敢えず私達の誰かに連絡して伝えておくこと」

 全員が返事をすると、尾澤が優美な手付きで制服のポケットから携帯を取り出した。

「それでは私の携帯番号も教えておきます」

 みんなが尾澤の番号を電話帳に登録し、俺も彼女の番号を、分からなくなりそうなのでフルネームで登録する。

「そういえばさっき先輩が言いかけた、私が調査してみた結果ってなんなんですか?」

 尋ねると、先輩は目を細めて平然ととんでもないことを言ってみせる。

「ああ、それはもういい。今の尾澤さんの話と大して代わりないから」

(どんな調査能力だよ……)

 結局、この日はこれで解散になった。



 帰り道、学校から住宅街まで来る頃には空はもうすっかり群青色に染まっていた。

 やや憂鬱な気分で、アスファルトと靴が奏でる音をぼんやりと聞きながら歩く。

(やっぱり言っといた方が良かったかな。っていうかこの件に関わりたくなかった……)

 そう思いながら暫く歩いていると、不意に現れた。

 何の前触れもなく。

 何の兆候もなしに。

 近付いてくる気配すら全くなかった。頭を垂れて歩いていた俺が、顔を上げた先――。総レースのブラウスを着て、その下にシンプルな黒いTシャツ。ショートパンツにガーターベルトのニーハイ。その服装の全てが漆黒で統一された、少女が一人。

「やあこんばんは。今、帰りかい?」

 ゴスっぽいファッションのそいつは、いつものように変わった喋り方で話し掛けて来た。

 ……いつからだろう。この西洋人形のように整った顔立ちの少女が、俺の周りを彷徨くようになったのは。しかも時間帯は決まって夜に近い夕方か、夜。

 この少女が俺を好きって訳じゃないのは分かるが、何を言ってもやってもしつこいしストーキングだとかストーカーだとか言ってもいい存在と思うが、家まで来た訳でもなければ、番号やIDを調べて連絡をして来る訳でもなく、害をなす存在ではない。ただこの少女は――

「どうしたんだいそんなしみったれた顔をして? 君はただでさえイケメンとは決して言えないのだから、笑ってみてはどうだろうね。そんなでは幸運も逃げて行くよ?」

 いつもこうして一方的に話し掛けて来るだけだ。

「お前には関係ないだろ。いい加減、ストーキング止めろよ」

「むむ大分心外なことを言われた。ストーキングではなく、私は君を付け回している訳ではなく、ちゃんとした用があるから来ているのだよ。ストーキングなんて折角の時間を無駄にする愚かな行為だ怪しからん」

「俺には、俺にこうやって無駄口叩きに来てるお前のがよっぽど時間を無駄にしてるように見えるけどな」

 毎度毎度、意味が分からない。無視するのが一番なのだろうが、何故だろう。たまに無視することも勿論あるが、完全無視はできない。俺の性格故なのか?

「そうそう知っているかね? どうやら最近、殺人事件のニュースが多いが実はそれは――」

 尊大に、杯を掲げるかのように片手を掲げ、また何か語り出した。

 最近、殺人事件のニュースが多いのは知っていたが、俺は別にそういうのに興味がある訳ではない。無視して帰ってしまおうか、と思った。

「とある人形の仕業、らしいよ?」

 だが、止められる。止められてしまった。

 その台詞に。

 その言葉に。

 少女を見れば、その顔に性悪そうな笑みを浮かべて喋々と口を動かしている。吸い込まれるような闇色の、まるで宇宙のような漆黒の双眸を俺に向けて……。

「公にはただの殺人事件として、有り得ない死に方をしていた部分は伏せて報道しているらしいが。いわゆるマスコミ規制ってやつだね」

(何……?)

 俺は固まって頭が真っ白になっていたが、そんな俺の様子に構うことなく少女は流暢に続ける。

「いや、日本の警察もやっとアレに辿り着いたというかアレの危険さに気付いたってことか。まあ法律だけに有効なそれ以外の効力を持たない霊力もない人間の集団が辿り着き気付いたところで成す術ないと思うが。いやはや警察という組織は国家のドッグとしては大変優秀で特に金銭的な事件においては侮れないものだが、こういった霊的な事態においては無力に等しいのだから全く笑えるね」

 視界に入るのは、少女の笑顔。折角そうそう見られない、そこらの男共が飛び付くほど可愛い顔をしているのに、その整った顔を歪ませる、邪悪としか形容できない嗤いを崩さない。

「……どういうことだ?」

「そんなこと、訊かなくても分かっているのではないかね?」

 まるで全て見透かしたように、少女は言う。

「ところで告げるべき前置きも告げたことだし、そろそろ本題に入ってもいいかね?」

 少女が一歩、近寄る。それは後退りしそうな姿で、それは救いを求めたい雰囲気だった。

「先ず、君のことは調べさせてもらった。実に見逃せない面白そうな事態に陥っているそうじゃないか。無論、“生きた人形”のことだが。あの“偽白ぎはく”なんかにとられて堪るか、この物語は私のものだ」

 その全てが意味深に、少女は言う。両手を天秤のようにして肩をすくめた、お手上げの時のような変なポーズで。

 ギハクとは何なのか。判らない解らない。ただ、一つ。今、分かることは――俺は、こいつから逃げられないということだ。

「いいかい崎米くん。これは依頼であり、同時に忠告でもあるのだよ。私は君にそれを渡してくれと頼みに来ているが、私は君に危険を忠告している」

 少女が、また一歩近寄る。俺はそんな異質とも思える女の子を前にしても、動かなかった。動けなかった。ただ硬直し、少女を見つめる。

「この手を取り給え。その体を預け給え。私を信じ給え、私に委ね給え、私に渡し給え。君の、物語を――。私は私の全尊厳をかけて、君を救おう」

 少女は、任せれば恐らくなんとかしてくれるであろうと思わせる魔力を持ち、甘美に妖艶に俺を誘惑している……。

「俺、は……」



 数分後、俺は先ほどと同じようにやや憂鬱な気分でぼんやりと歩いていた。

 俺は――結局、あの少女の手を取らなかった。それは何者か分からぬあの少女が不気味なのも怪しかったのも勿論なのだが、安易な選択はいけないと考えた結果でもある。

(全く……美故兎といい、世木積先輩といい、さっきの女子といい、なんで俺の周りには変な人間が多いんだ……)

 項垂れ、深く溜息を吐く。

 その内、例のゴミが積み上がっている場所がやや遠くに見えてきて、あの人形を思い出し軽い寒気を覚えた、その時。

(ん?)

 よく見てみると、ゴミ置き場に人が居た。ジジジ、チカチカと今にも消え入りそうな弱々しい街灯に照らされ、黒い服を着た人物がじっと立ち尽くしているのだ。俯いてゴミを見下ろし、何をするでもなくボーっと。

(気味悪いな。もしかして幽霊じゃねぇの……?)

 まあ、あまり見ないように足早に立ち去れば問題ないだろうと、歩を進める。

 ――しかし。場所が場所で、しかも夜であるため最初は、こんな時間にどうしたのだろう、不気味だな、と思っていたのだが、よくよく見るとその人物は見知った顔であることが分かった。

(え、あれは……)

 その人物はもう直ぐ近くで、そう思った瞬間、

「こんばんは、畔」

 とやや低めの声で、低めといっても女の子の声であるからそんなに低くはないのだが、生気の感じられない声音で挨拶された。

「……何してんだよ、こんなとこで。家……反対方向だろ?」

 俺はその人物に――欠流永輝に、そう返す。そう、それは永輝だったのだ。

 俺にそう言われた彼女は、被っていたパーカーのフードをパサリと取った。

 それと同時に、弱々しく灯っていた街灯は命が尽きたらしく、消えてしまった。辺りが一気に暗くなる。といっても街灯はぽつりぽつり点在しているので真っ暗ではないのだが、前後の街灯は遠いため、丁度闇に飲まれてかなり暗い。

 それでも、山の中でもない人工の光が灯る住宅街は月明かりが照らしてくれており、照らされた永輝の顔は妙に美しく、それと同時に威圧感があった。

「……迎えに来たの」

「迎え……?」

 不穏な空気。

 危険な匂い。

 永輝の様子がおかしいのは確実だ。だが俺はこの場から逃げようとは思わなかったし、寧ろ永輝の言葉にちゃんと耳を傾けてあげたかった。

「あのさ」

「……ん?」

「畔はさ。私のコト、どう思ってる?」

「どうって……えっと……」

 俺が言葉に詰まると、永輝は生気の抜け切った真っ黒な目をゴミ置き場に向けた。

「私のコト……可哀想だと思う?」

「どういう……」

 尋ねようとしたが、遮られる。永輝がゴミの中から、ある一つを拾い上げていた。

 あの生々しい、人形を――。

「ほら……この子、可哀想でしょう?」

「それ、は……」

 俺は無意識に一歩、後退る。目が、顔が、雰囲気が、心が、普通じゃない。

 異質な人形を抱き、

 異様な空気を放つ。

「ねえ、畔……。私のコト嫌いじゃないならさ、一緒にこの子を守ってあげようよ」

 あの日本人形をまるで我が子のように胸に抱き、慈しむ。俺はそんな永輝の両肩を掴んで揺さぶった。

「何言ってるんだよ……? どうしたんだよ!?」

 永輝の様子は正気の沙汰じゃなかった。瞳には明確な狂気を宿しているように見える。

「だって……まだ幼いのにこんな所に居なきゃならないなんて、可哀想でしょう……? ああ、こんなに汚れて……」

「永輝、落ち着け。それを離すんだ」

「どうして? どうしてそんなことを言うの……?」

 永輝は悲しげな、憎々しげな、怒り混じりの視線を向け、強く人形を抱く。

「“それ”だなんて……そんな……物みたいな言い方っ! 酷い! 畔は……凄い優しい人の筈だよ……」

(ここで……ここで永輝を刺激してはいけない、か……)

 今の永輝は普通ではない。ここで粘っても、変に刺激して、もしかしたら錯乱して凶行に出るかも知れない。そう考えた俺は、

「……分かった」

 と呟くように言った。

「……本当!?」

「ああ。だから永輝、取り敢えず今日はもう帰るんだ。てゆうか送ってく」

「うん、分かった。約束だよ?」

「ああ」

 俺は永輝を家まで送ってやった後、若干項垂れて家に帰ったのだった。

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