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終焉のコドク  作者: 百舌巌


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走り続ける戦士

 府前市と多間市の境界あたり


 前原達也は雑居ビルでの劫火型不死者と栗橋友康の戦いの様子を見ていた。そして、劫火型不死者が友康の相手で手一杯なタイミングで、雑居ビルに残っていた家族連れを連れて逃げ出した。

 逃げ出したといってもビルの周りには不死者たちが集まりつつあったのだ。達也は大通りにキッチンタイマーを投げ込んで囮に使い、路地裏を巧み利用しながら友康が戦う雑居ビルから離れていった。

 小隊の東雲隊員と合流できたときに三体目の劫火型不死者が倒されるところだった。

「くあ! 栗橋さんはたった一人であれをやっつけてるんですか!? しかも三体も!!」

 東雲隊員は呆れたように言っていた。そして、直ぐに応援に行こうと言い出した。

「栗橋さんがスーパーのアルバイトなんて、あれは絶対に嘘っすよ。 特殊作戦群に居たんじゃないですか?」

 そんな事を言い出す東雲隊員。

「S(自衛隊の特殊作戦群は通称エスと呼ばれている)はSでもスーパーのSだったんだろ。 今は避難民保護が優先だ。 行くぞ……」

 そう言って東雲隊員を雑居ビルから引き離した。友康が逃げやすくする為だし、余計な事に同僚を巻き込みたく無かったのだ。


 達也たちは避難民と共に小隊に合流した。小隊で待ち構えていた府前警察の刑事に”栗橋友康は逮捕したのか?”と尋問されたが、”無数に湧き出てくる不死者の相手で忙しかったんだよ!”と怒鳴りつけて追い返した。刑事は尚も尋問しようとしたが達也が無言でにらみ返した。

 二人は暫く睨み合っていたが刑事は諦めて立ち去った。その様子を心配そうに見ていた他の隊員たちには”何も聞かないでくれ、嘘をつきたくないんだ”と頼み込んだ。

 片山隊長は何も聞いてこなかった。ただ、達也は頷いただけだ、そして片山隊長もうなづき返した。それだけで通じた。



 友康が劫火型不死者をやっつけてから一週間が過ぎた。

 片山隊長の部隊は府前基地が壊滅したので、神奈川県にある海上自衛隊の横須賀地方総監部を替わりの基地にしていた。今は府前基地と横須賀を往復しながら逃げ遅れた避難民を救助して回っていた。達也はトラックの荷台から廻りを見回し周囲を警戒していた。

 自分たちと入れ替わりに、都内に向かって間に合わせの対不死者装備を積んだ高機動車が都内に向かって行く。不死者討伐が本格化しつつあるらしい。

 ストロボと赤外線フィルターを組み合わせた対不死者装備の威力は凄まじく、多数の不死者を始末するのに成功しつつあった。また個人装備品も開発が進んでいるそうだ。人間が再び日本を取り戻すのは時間の問題だろうと思われた。


 友康をどうやって逃がすかを考えていた時、遠くの方で不死者たちが移動しているのが見えた。胸にぶら下げた双眼鏡をそちらに向けると、不死者たちの少し先の道を、懸命に逃げている親子連れを発見した。

「右側、2時の方向に要救助者を発見!」

 達也は隊長に大声で報告した。

「くそっ、なんてこった……」

 片山隊長は困惑してしまった、もちろん助けたいのだが手が足りない。トラックには帰路に拾い集めた避難民の生き残りも居る。そして自分の戦闘小隊は武器弾薬の補給を受けるために基地に向かっているのだ。

 一番の問題は親子を助ける為に車両を入れるには状況が分からないのが問題だった。下手に救援に向かって車両が不死者に囲まれて動きが取れなくなる可能性が高い。そうなると共倒れしてしまう。

 片山隊長は考え込んでしまった。他の隊員たちは全員、黙って隊長と達也のやり取りを見ていた。

「駄目だ、我々は助けに行く事は出来ない。一旦基地に行って出直す事にする」

 片山隊長は達也の目を見ずに言った。確かに分隊の半数以上がケガ人だし、避難民達もいるし弾薬や食糧も残り少ない。まともに闘える状態では無いのは確かだ。そして片山隊長の判断は正しい。大勢の部下の安全を確保するのも彼の役目だからだ。


 それでも、達也は双眼鏡で見た父親の絶望的な表情を思い浮かべた。無言になりお互いに睨み合う片山隊長と達也の二人……

「後悔して生きるのは、願い下げです…… すいません」

 達也はそう言って頭を下げると、自分の小銃を抱えてトラックから飛び降りた。そして走るトラックのスピードを相殺する為に地面に転がる。服に付いた埃を払いながら起き上がると、トラックの荷台で片山隊長が何か叫びながら戦闘バッグを落として行った。隊の仲間達も自分に向かって敬礼している。

 達也は答礼し、戦闘バッグを拾いに行った。中を見ると使いかけの弾倉や食いかけの食料が入ってる。トラックに残った仲間達が自分の分を入れてくれたのだ。

 仲間達の想いに達也は胸が熱くなった。あの親子を必ず助け出す事を心に堅く誓い、銃を構え直して路地へと入って行った。


 路地にはそこかしこに不死者がうろついていた。達也は慌てずに懐からプラスチック製の手鏡をとりだした。その手鏡で太陽光を反射して目つぶしに利用するのだ。友康と無線で話をしている時に、こういう方法もあると教えて貰っていた。これなら銃を使わずに済むので、不必要に不死者を集めないで済む利点が有った。

 他にも小型だが照光用のLEDをパワーアップさせた懐中電灯や、手のひらサイズのストロボを持っていた。いずれも対不死者対策用の無音装備だ。他の隊員たちも似たような装備を持っていた。でも今は昼間なので太陽も高く出ている。手鏡だけで対処出来そうだ。

 達也は親子に近付くのを最優先にしていたので、今回は目を潰した不死者には何もしないで通り過ぎた。いつもならハンドピッケルで頭を潰しておくのだが、時間が惜しかったのだ。こうしている間にも親子連れが襲われてしまう可能性があるからだ。

 目を潰された不死者は、ただ手を前方に突き出して呻いているだけで、達也の所在は分からないようだ。それでも身体の一部分でも触れると感付かれる恐れがあるので、しゃがんだり仰け反ったりしながら不死者を躱して路地を走り抜けた。


 通りから焼け野原に出ると親子連れが走っているのが見える。しかし、追い付かれそうだ、父親はすでに疲労が足にきているらしく、走るというよりは早歩きになっている。手を引いている男の子は後ろを見て、そして父親を見て、励ましながら走り続けていた。

 突然、射撃音が辺りに響き渡る。達也が先頭を走る不死者たちの一群れに、腰だめで小銃の弾幕を張ったのだ。その一連射は駆除では無く、足止めを狙うので照準は気にしていなかった。不死者たちも全力で追いかけていたので、次々と蹴躓いて転んでいく、旨く時間稼ぎが出来たようだ。

 次に達也は友康から受け取っていた、キッチンタイマーを鳴らしたまま自分の足元に捨て置いた。不死者たちは電子音に良く反応すると友康が言っていたのだ。


 親子は突然の銃撃音にびっくりしてこちらを見ている。不死者たちも不意な電子音に反応し、向きを変えて達也に向かいつつあった。達也は迂回するように大きく弧を描くように不死者の集団前を横切って親子に接近する。

「今のうちだ!  はしれ!  はしれ!!  はしれっ!!!」

 親子連れに大声で合図を送り自分は銃のカートリッジを交換し、更に不死者たちの群れに銃撃を行う。続けて手榴弾を群れの中に投げ込んだ。それから達也は父の手を引いていた男の子を抱えあげて走り続けた。目指す先にビルがある。ビルの入り口に針金でバリケードを作れば更に時間稼ぎが出来る。だから、達也は走り続けた。


 走り続けた。


 走り続けた。


 いつ果てる事の無い戦場を、達也は生きる事を目指して掛け抜けてゆく。



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