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終焉のコドク  作者: 百舌巌


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本当の敵

 府前基地司令室。 不死者群体大襲撃の少し前の時間。


 片山隊長は基地司令と共に司令官室に来ていた。

 司令官室には日本全国の主な基地と連絡が取れ、そのまま会議が出来る様にとモニターが置かれている。大形のモニターには臨時政府閣僚と警察幹部と自衛隊幹部が映し出されていた。それぞれが別の場所に居るらしく、画面は4つに区切られて表示されていた。劫火型不死者の発生とその対策方法を協議するためだ。

 この席上で府前基地の放棄と横須賀基地(鎮守部)への移籍が決定された。新種の不死者の発生や補給の困難さを考えた結果。今、在る貴重な戦力を反撃できるまで海上に逃がそうという事だ。

 会議室には府前基地司令と片山隊長、それと何故か府前市警察の私服刑事が居た。


 片山隊長は不死者への対処方法と、今後の指針を示唆される物と考えていた。事実、議題は劫火型不死者への爆撃と、それに従い関東地方の放棄の話が中心だった。自衛隊と日本に残っている在日米軍の合同で爆撃を行い、戦車や攻撃ヘリで不死者を一網打尽にしてしまう作戦だった。

 社会インフラが破壊され、流通網が駄目になっている現在、残存する僅かな部品を頼りに機材・設備の整備を行っている。近代化された兵器は膨大な量の後方支援設備が必要とされるのだ。有る程度部隊が動く内に荒ごなしに不死者の勢力を削いでおこうと考えたのであろう。

 ただ、まだ在宅している避難民も居るので、電子音響で不死者たちを一か所に誘導して殲滅する方法が取られる事になったのだ。

 これなら、まだ建物内に逃げ込んでいる、健常な市民に被害が及ばないと考えられていた。彼らをどうやって保護するのかも頭の痛い問題だった。臨時政府は橋梁などを落とし、本土から孤立させた淡路島に設営されている。北海道や四国など比較的被害の少ない場所で一時的に避難させる案も出ていた。


 世界でも似たような状況らしく、島嶼や半島を孤立させて安全地帯を作り、松畑隆二の開発したワクチンの増産を待つ方法が採られているようだ。会議でも世界の様子が報告と言う形で出ていた。

 日本で次々と発案される対不死者対策に世界中から問い合わせが来ているらしい。但し、対策方法を考えた人物の事は知らせていないようだった。

 また、食料不足が深刻化しつつあるようで、各国から余分な食料の供出を臨時政府は求められているようだ。


 だが、その席上で思っても居なかった議題が持ち上がっていた。栗橋友康と不死者たちの関係を疑っている者たちが居るのだ。


「……それでは何故に栗橋氏が現れ新種の不死者を倒すと、より強い新種の不死者が現れるんだね?」

 警察幹部と思われる人物が、手元の資料を見ながら片山隊長に尋ねて来た。

「結果を見るとそう見えてしまいますが不明です。それに栗橋氏の活躍と、それに従い不死者が強くなる事への因果関係を不明です」

 片山隊長は話が違う展開を見せ始めている事に気が付き始めた。

「そうだ、誰にも判らない。 だから彼を取り調べる必要があると言ってるんだ」

 最初は栗橋友康への賞賛が聞けるものだと思っていた片山隊長だが、話が妙な方向に向き始めているのに戸惑いを隠せなかった。

「そもそもコドクウィルスは彼が作り出したのではないのかね?」

 臨時政府の代表が全員を代表して質問してきた。発生源は某大陸国家であるとの断片的な情報はあるが、誰も詳しくは分からなかった。何しろ情報を収集する前にパンデミックを起こしてしまい、知っている人間も一緒に不死者になってしまったのである。そして、情報を握っていた政府関係者は逃げ込んだ護衛艦で不死者が発生してしまい、そのまま海に浮かぶ護衛艦の中に居る。

「彼は府前市内にあるスーパーのアルバイトだと言ってました。 とてもコドクウィルスを作り出せるような化学者ではありません」

 友康の身上はある程度は知っているし、世界征服を狙ってテロを起こすような人物では無い、片山隊長は友康の弁護に必死だった。

「それでは、次々と現れる不死者の新種に、何故に迅速に対応できたのかね? しかも非常に効果的な対処法まで携えて……だ」

 警察幹部の疑念は当然だった。友康は余りも都合良く不死者の弱点を看破しすぎていたのだ。もっともこれは友康の持っている強運の成せる業なのだが証明する手段が無い。

「不死者の特性が解っていなければ無理だろ、我々ですら散々手こずった相手だぞ?」

 自衛隊幹部が渋面を作って片山隊長に設問してくる。

「一介のスーパーのアルバイトに手におえる相手では無いと判断できるのだがね」

 警察幹部と思しき男が資料から目を離さずに言っている。彼の中では結論は出ているようだ。大型モニターの向こう側で喧々諤々の議論が起こっていた。

「……」

 警察幹部の問いかけに片山隊長は言葉に詰まってしまった。何とか友康が果たした役割を説明したかったのだが、急な事なので理論整然と言い返せない。


「奴らの一味では無いと言うのなら、まずはそこからの説明が必要だろ?」

 政府閣僚の白髪頭の男が両手を揉みながら言ってきた、この議論が無駄だとでも言いたげだった。

「栗橋友康を逮捕し、ここに連行して来給え。 取調べは我々警察に任せてもらおうか」

 警察幹部の男は背もたれに深く身を預けながら慇懃無礼に言い出した。”コドク禍”事変の解決が見えて来たのだ。今回の事変の解決では政府や警察は何も寄与しなかった、失地回復のためにもわかりやすい生贄が必要なのだろう。

 片山隊長は、ここまであからさまな幹部たちの態度に、その事に気が付いた。

”こんな奴らの自己保身の為に、命を懸けて戦ったのでは無い……”

 片山隊長はギリリっと歯を食いしばった。 余りにも理不尽な命令だからだ。

 元々、官僚と言うのは保身術に長けている種族だ。冤罪を作り出し無実の人の人生を破壊したのに、警察官や裁判官が罰せられた事など皆無なのが証拠であろう。

 臨時政府とは言え、日本の国家運営を握る事が出来るチャンスだ。彼らは分かりやすい生贄にしようとしている。


「……彼の果たした役割は非常に大きいものです。 その代償が”逮捕”ではあんまりですっ!」

 片山隊長は憤りを隠せず思わず大声になった。モニターの向こうに居る彼らは頑丈な建物の安全な会議室に居て、警備に護衛されながら指示を出すだけだ。現場で仲間の死を間近に見てこなかった彼らに何が判ると言うのだろうか。

「君…… これはお願いではないのだ。 命令だ。 速やかに栗橋友康を逮捕・拘束したまえ!」

 その警察の幹部は慇懃無礼に命じて接続を切った。本来なら警察の幹部と言えども、自衛隊に所属する片山隊長に命令する権限など存在しないのだが、他の政府閣僚と自衛隊幹部は警察幹部の勢いに圧倒されたのか何も言わずに席を離れた。つまり、警察幹部の言い分を認めて友康を逮捕するのは既定事項となってしまっていた。


「……片山君、私としても心苦しいのだが、此処はなんとか穏便に頼むよ……」

 基地司令はおでこに浮き出た汗をハンカチで拭きながら片山隊長に告げた。しかし、片山隊長は敬礼の代わりに、ギリギリと強く拳を握って踵を返した。そして、モニターを睨み付け、司令室のドアを乱暴に開けて出て行った。

”正式な命令書の発行を要求しよう…… それならある程度時間を稼げる”

 その間に友康の処遇改善を臨時政府に求めるのだ。片山隊長は雑多な事を考えながら廊下を歩いて行った。その後ろを府前市警察の私服刑事が慌てて追い掛けていた。恐らく栗橋友康逮捕の実行を見届ける為だろう。片山隊長に油断のならない目つきを向けている。



 片山隊長には、本当の敵が何なのか分らなくなって来ていた。



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