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避難ロープ

更新が滞って申し訳ありませんでした

府前基地近郊。雑居ビルの階段。


 栗橋友康と前原達也は向かってくる劫火型不死者を迎え撃つべく雑居ビルの階段を登っていた。 劫火型不死者は背が高い。 高い位置からでないと劫火型不死者に攻撃が出来ないためだ。

 先ほど窓から見えた範囲では二体がこちらに向かっているが分かっている。 一度で全部は倒せないが出来る所から始めるのだ。 時間を稼いでる内に自衛隊の仲間がきっと駆けつけてくれる。

 そんな事を考えながら雑居ビルの屋上まで行こうとした時に、達也が途中階の一室を覗きこんで立ち止まった。 無人に近いとは言えビル内に不死者が残っている可能性はある。 安全を確かめるために主だった部屋はざっと見て回っている。 攻撃に夢中になっていると後ろから襲われるのは良く有る話だ。

「どうしたんですか?」

 友康は達也に不思議そうに尋ねる。

「いや、あれが使えそうだなと思ってさ」

 達也が指差す方に、火災発生などの時に使う避難ロープが有った。 これは非常時に中層階から脱出するのに使われるものだ。 避難ロープの送り出しをある程度制御されていて、避難ロープに繋がれている避難者をゆっくり降ろす装置だ。

 そうしないとロープ降下の訓練など受けていない、普通の市民には無理なのだ。 途中でパニックを起こしてしまい、最悪の場合には落下してしまう。 安価でメンテナンスも楽な為、消防法で避難装置の設置を義務付けられている、中高層の雑居ビルなどに良く設置されているものだ。

「あれなら劫火型不死者の真上から、すぐ傍に近付けて便利じゃね?」

 達也は避難ロープ降下装置のそばに寄って行って、装置の外側に貼ってある説明文を読み始めた。

「一階分降りるのにかかる時間…… 一分か…… これならなんとかなりそうだな」

 達也たちの居る雑居ビルは七階建なので、ビルの三階ぐらいの高さに頭がある劫火型不死者に取りつくのは四~五分後の計算になる。手榴弾を投擲する装置などなく、手で投げ込む方法しかないので、劫火型不死者の近くまで接近しておく方が確実性が増す。

 避難ロープはロープに重さが掛かっている限りはゆっくりと繰り出される仕組みなので、途中の階の窓べりに掴まって居れば、ある程度は降下速度を操る事が出来るのだ。

「…… 確かに。 ……僕が目を潰しますから、とどめは何とかしてくださいですよ」

 達也が説明書きを読んでいる間、友康は窓から身を乗り出していた。 そして、近づいてくる劫火型不死者を見ながら友康が言った。

 劫火型不死者より高い位置から友康がニートブラザーライト改で目をつぶして、怯んだ隙に避難ロープで接近した達也が、手榴弾を口の中に放り込んで、葬ってしまおうという荒っぽい作戦だ。 何しろ小銃弾では致命傷を与えることが出来ないので苦肉の策だ。

「おっしゃ! 任せておけ!」

 達也が片手を握りしめ、もう片方の手でバンと音を立てるように受け止めた。それから、避難器具に付属されていた補助ベルトで身体を固定しはじめた。 補助ベルトを避難ロープに取りつけるのは友康が手伝っていた。

 それから達也は無線機でこれからの行動を片山隊長に報告している。 小隊は此方に向かってると片山隊長は言っていた。



 二体の劫火型不死者が丘を乗り越えて来る。 かなり背が高いので直ぐに分かったのだ。 だが、予想外というか想定していなかった光景が現れ始めた。

 そこに見たのは数百体の歩行形不死者と、足下にかまわずに歩み続ける劫火形不死者だ。 友康も達也も、てっきり劫火形不死者が先行してやってくると思っていたので、その光景に唖然としてしまった。

”ありゃりゃ、数が多すぎる……” 二人が同時に思った感想だった。

 二体の内、後ろの劫火形不死者の肩に少女のような不死者が、ちょこんという感じで座っていた。 一見すると可愛らしい光景だが、だが彼女は有象無象の不死者たちを、総ている制御形不死者だ。 彼女の号令ひとつで不死者たちが人間を襲い喰らうのだ。

 その制御形不死者の特徴は、髪の毛は肩ぐらいまで伸びていて、その毛色は全体的に白くなってしまっている。 そして、肌は抜けるように白い。 顔立ちは博多人形を思い起こさせるように整った顔だちだ。 不死者になっていなければ美人さんだ。

 普通の人間と違うのは、その目が燃えるように赤く光っている事だった。 何故、光るのかは不明だが、恐らく友康を見つけたせいなのだろう。 怒りに満ちているように感じられるからだ。

 彼女は首を廻し周囲の様子を伺いながら油断無く捜している。 もちろん捜している者は友康だ。 府前基地でオスプレイを追いかけ回して遊んでいる時に不意に現れて姿を消した不倶戴天の敵。 時々、口を開いては”キィーッキィーッ”と聞こえる甲高い声を出し、そこかしこを指で示して、他の不死者たちに指示を与えているように見える。

 劫火形不死者の足元をのそりのそりと動く歩行形不死者は、その声に合わせて建物にはいったり、道を空けて劫火形不死者を通したりしている。



「ちょ、ちょっと数が多いですよ?」

 ビルの窓から見た光景を前に友康が達也に嘆いた。

「ちょっとどころじゃないな…… あの家族を連れて逃げるのは結構しんどいな」

 横合いから下を覗き込んだ達也が言った。 時間を追う毎に不死者の数は増えていってる。

「……」

 土石流のように押し寄せてくる不死者の群れを見ながら、友康はしばし黙りこくってしまった。

「どした?」

 そんな友康の様子に気がついた達也が尋ねてくる。

「……僕には無理ですよ、今までは自分一人だから逃げ遂せたけど、他人の命まで預かる覚悟も技量も僕には無いですよ」

 友康は口ごもりながら答える。

「……じゃ、どうするんだよ」

 達也は目が泳いでしまった。 聞きたくない答えを聞かなければ成らないからだ。

「避難ロープを自分にください」

 達也が手に持っている避難ロープを取り上げた。 達也は抵抗する事無く避難ロープを友康に奪われてしまう。

「決まってるじゃないですか、達也は目の前の家族連れの保護を優先してくださいよ」

 友康は笑いながら答えた。 自分の役割ぐらい判っているつもりだ。 今回は出来ない事の言い訳では無い。 必要な選択なのだ。

「ああ、その通りだ。 まったく頭に来るくらい正解だ」

 達也は頭を振りながら答える、本当は自分が行きたかったのだ。

「…… だがな、俺の目の前で死ぬんじゃねぇぞ?」

 達也は手に持っていた手榴弾を友康に手渡した。 あの劫火型不死者を潰さないと家族連れを助けながら逃げる事は出来ない。 しかし、歩行型不死者が群れになっている所に、家族連れを置いていくわけにもいかない。 女と子供しかいない集団では一分も持たないだろう。 だから、傍に居て手助けする人物が必要になるのだ。

「そんなつもりは無いですよ。 そっちこそ簡単にくたばらないでくださいよ?」

 友康は補助ベルトを体に取りつけながら答える。

「……片山隊長が此方に向かって来ている。 なんとか時間を稼いでくれ …… また …… 後でな……」

 友康のロープの固定具合を確かめてやりながら達也は笑いながら答えた。 そして、友康と握手した後に、小型無線機と何かの紙片を友康の胸ポケットにねじ込んだ。

「ええ。 じゃ、ちょっくら不死者どもをやっつけに行ってくるですよ」

 友康も屈託なく笑いながら答えた。 窓から顔を出すと劫火形不死者がすぐそこまでやってきている。 その凶悪な顔を見ると少しぶるってしまうのを堪えて身を乗り出した。

「それっ……」

 掛け声と共に脱出ロープに上手く体重が乗るようにしながら、友康は劫火型不死者に向かって窓から降下を始めた。


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