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彼らが居た証

 疾病センターの入り口ホールが突破されてしまい、何体かの不死者たちの侵入を許してしまったが、栗橋友康の活躍でやっかいな強化不死者の動きを封じ込めた。

 強化不死者が開けた入り口の隙間は、他の不死者たちの骸で埋まりつつあると佐藤隊員が連絡してきた。

並の不死者は何かを登るという動作は出来ないので、ある程度の高さがあると入って来れないのだ。

『強化の奴はなぜかいなくなっちまいました』

 佐藤隊員は入り口付近に居るのは並の不死者だけだと伝えてきた。

「どこかに強化不死者を制御している奴がいるはずです」

 松畑隆二はパソコンから目を離さずに片山隊長に言った。

「はい、統制が取れているのでおかしいとは思っていました。 強化の次は制御か……」

 片山隊長は警備センターの監視モニターを目の皿のようにして見ている。

”全体を見渡せるとこに絶対居る筈だ……”

 月明りでは少し無理があるのか、ビルの黒い影が映っているだけだった。

「東雲。 ビルの屋上など疾病センターを見渡せる所を探すんだ、不死者たちを制御してるやつがそこにいるはずだ」

 片山隊長は屋上にいる東雲隊員にも制御者の探索を命じた。

『了解』

 東雲隊員は屋上からの狙撃を中止して周りを見回し始めた。

東雲隊員の狙撃用の小銃には夜間でもある程度は明るく見えるナイトスコープが装着されている。

それを使って探索しようとしているのだ。

「……なんだ? あれ??」

 片山隊長が監視モニターのひとつを見ているときに妙な事に気がついた。

その監視モニターは駐車場の入口から疾病センター全体を映し出している。

三日月のか細い明かりでも判る何かが、疾病センターの壁でわさわさと動めいているのが見えたのだ。

 片山隊長はゴミ袋でも引っかかっているのかと思い、監視カメラのズーム機能で動いている点を拡大してみた。

 しかし、その動いている物は人の形をしている。 強化不死者だ。

強化不死者たちが疾病センターのビルの壁に取り付いているのだ。

 その様子は大型の虫が壁にとりついてよじ登っているようだった。

「何てことだ! 不死者の連中は壁を登っているぞ!」

 片山隊長が隊員間で使っている携帯無線機に向かって怒鳴った。

「!」

 それを聞いた前原達也は慌てて下を覗き込んだ。

 すると強化不死者たちが壁に取りついて、次々と登ってきている1,2,……30以上。

その頑丈な手足を壁にめり込ませて登坂してきているらしい。

「ちきしょう……なんてヤツラだ……」

 達也は歯ぎしりしてしまった。

”ガシッ””ガツッ” そんな音を響かせながら手足を壁に叩き込み、それを足がかりにしている。

 入り口からの突入が難しいと思ったのだろう、屋上からの侵入を試みるつもりなのだ。

 達也は銃を構えて、まずは先頭の一匹に狙いを付けた。

「キシャァァァァッ!」

 自分が狙われたのに気がついたのだろう、先頭の強化不死者は達也に向って咆哮で威嚇してくる。

 だが、達也は構わずに銃撃した。

”ドンッ” ”キンッ” 頭に当たった銃弾は弾かれてしまったが、バランスを崩す役には立ったようだ。

 彼女は壁から剥がれてそのまま落下していった。

「よしっ、壁に穴を開けて足がかりにしているだけです、銃撃で落とせます!」

 達也は片山隊長に無線で報告しながら銃撃を続けた。

 しかし、下に落ちた強化不死者はまたビルの壁に取りついて登って来ている。

「くそっ、切りがねぇな」

 何体かは手足が故障したのか、登って来れないでうろついているのが達也に見えていた。

「ん? あいつかな??」

 その時、制御者を探していた東雲隊員は、ナイトスコープに映る少女の不死者を見つけていた。

疾病センターの通りを挟んだ雑居ビルの3階の窓にその少女の不死者は居た。

ツィンテールにした髪の下に半分崩れた顔があり、多くの強化不死者同様に笑ってる顔をしていた。

「制御者と思われる不死者を発見! これより銃撃します」

 東雲隊員は少女の居るビルを報告し、間を置かずにそのままスコープの中央に捕まえた少女を銃撃した。

銃弾はにやけた口元から侵入したらしく、後ろの壁にその少女の物と思われる肉片をばら撒いて、少女はそのまま崩れ落ちていった。

「……銃撃成功しました」

 東雲隊員は事もなげに報告した。

『了解、御苦労だった。 壁の不死者の始末を優先してくれ』

 片山隊長は労いの言葉も少なめに次の指示をだした。

「……了解」

 東雲隊員は達也の隣に陣取り壁に張り付いてる強化不死者の始末に乗り出した。



 一方、疾病センターの入り口ホール。

『……銃撃成功しました』

 佐藤隊員らは東雲隊員のボソリとした報告を聞きながら、入り口ホールに群がってくる不死者を始末していた。

「なんに成功したんだ?」

 佐藤隊員は首を傾げながら小山隊員に聞いた。

「……さあ?」

 小山隊員も首を捻った、自分宛の無線で無い限り注意深くは聞いていないものだ。

何しろ次々と湧いてくる不死者を始末するのに忙殺されている。

 その時、入り口ホールの壁が一段と激しく振動した、床が地響きを立てて揺れたのだ。

「ホールの事務室の壁が抜かれたぞ!」

 木村和彦が廊下の奥から湧き出てくる煙を見ながら言った。

「マズイ、囲まれる! 廊下の奥まで撤退しろ!!」

 佐藤隊員は、その場にいた全員に怒鳴った。

三池隊員は廊下の奥に移動する際に事務室の壁側をちらりと見た。

「あいつか……」

 超音波砲を放ったばかりの強化不死者は動けずに棒立ちになっている。

三池隊員はテルミット反応爆弾をスリングショットで突っ立ている強化不死者に投擲した。

”ボンッ! シュオォォォォン”

 眩しい光を散らしながら強化不死者は燃え出した。

「よっしゃ!」

 三池隊員がガッツポーズを取る。

だが、その強化不死者の後ろにもう一体いるのに気がつかなかった。

「油断するな! 逃げるぞ!!」

 佐藤隊員が三池隊員の肩を掴むのと同時にその音は聞こえてきた。

”キュィーーンッ パゥンンッ!”

「しまっ…………」

 佐藤隊員の罵りは途中で途絶え、佐藤・三池のふたりは疾病センターの廊下に霧散してしまった。

そこに彼らが居た証は天井・壁・床に飛び散っている血と肉片だけだ。

「……え?……」

 いきなりの出来事に木村は呆気にとられてしまった。さっきまで共に笑い闘った戦友たちが消えたのだ。

「悲しむのは後だ! まずは生き残るぞ!!」

 小山隊員が木村の背中を自分の背中で押しながら叫んでいる。

入り口ホールのバリケードも崩れて不死者たちが入り始めているのだ。

その不死者たちを小山隊員は銃撃しながら木村にしっかりしろと言っている。

 木村は気を取り直してテルミット反応爆弾をスリングショットで、突っ立ている強化不死者を始末して走り始めた。

 しかし、その攻撃の間にも強化不死者が、超音波砲を放とうする音が煙の向こうから聞こえてきていた。



 疾病センターの地下にある警備室。疾病センターが振動し埃が天井から降り注いでいる。

制御していた不死者を銃撃した後から攻撃が激しくなっているようだ。

「……今の衝撃は大きいですね」

 柴田医師が首をすくめながら言った。

「あと少しで夜明けなのに……」

 冨田看護師が恨めしそうにモニターに映る不死者を見ていた。

「制御していた奴が居なくなって、強化不死者たちが出鱈目に攻撃しているせいですね」

 隆二はパソコンのモニターを見たまま、指を動かしながら何やらテキストを打ち続けている。

「恐らくは栗橋さんを始末するのに戦力を集中しようとしていたのでしょう、それを指示する者が居なくなったので攻撃が出鱈目になっているのだと思います」

 隆二は現在の戦闘の様子を詳細にレポートにして世界中に発信しているのだ。

「不死者たちはどうして入り口に戦力を集中しなかったのですか?」

 冨田看護師が隆二に聞いてきた、夜間で良く見えないはずなの手薄な屋上を攻めようとしている方法に疑問を持ったのだ。

「入り口付近に栗橋さんが居て、彼女たちの攻撃の邪魔をしたせいでしょうね」

 栗橋友康は入り口ホールを見渡せる2階にいたのだ。

「そこで突破は無理と判断したのでしょう」

 隆二は友康が超音波を無効化する対策で、強化不死者たちを”また”怒らせたに違いないと思っていた。

「……でも、どうして屋上が手薄だと考えたんですかね?」

 柴田医師が聞いてきた。

「……赤外線が知覚出来ているのではないでしょうか? そうであれば人数の違いから屋上が手薄だと判断出来るかと思います」

 隆二は不死者が濁っている眼で、どうして健常な人間を識別出来るのか不思議に思っていたのだ。

通常の可視光で無ければ紫外線か赤外線、不死者の体温は無いに等しいので、体温を発する健常な人間なら赤外線で区別が付くのではないかと推測していた。

 今回の攻撃で手薄な部分を攻撃できたという事は、赤外線で探知していたと考えるのが妥当だ。

「……」

 柴田医師は絶句してしまった、体温がある限り不死者から逃れる術が無いからだ。

その時、ビルに衝撃が走り埃が舞い降りてきた。

「くそっ、穴ぼこだらけにされたら疾病センターのビル自体が持たないぞ……隣の病棟に避難しましょう」

 多くのビルがそうであるように疾病センターもビルの壁に全体の重さを分散する造りになっている。

近代建築のビルは柱だけで立っているわけでは無いのだ。

 そして、警備室は地下にあるのでビルが崩れると閉じ込められてしまう。

そうなる前に移動しておく、病院棟の屋上にも急患搬送用ヘリポートがあるからだ。

「柴田さんと冨田さんは退路の安全を確保していただけませんか? 松畑さんは一緒に避難民の誘導をお願いします」

 冨田看護師と柴田医師は頷き、お互いに斧を手に持つと廊下に出て行った。

とりあえず渡り廊下を開放しておき、病院棟にいる不死者を掃討しておくことにしたのだ。

 片山隊長は隆二と共に奥の避難民たちを誘導しに行った。


戦いはまだ終わらなかった、次のステージが始まったに過ぎなかったのだ。



いつも読んで頂きありがとうございます。

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