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終焉のコドク  作者: 百舌巌


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途絶する思い

 木村和彦は自宅に向かっていた。

ほんのちょっと前までは、何気なく通っていた道には、今では不死者たちが溢れている。

 いくら不死者たちに噛まれても感染しないとはいえ、出合えば戦闘になってしまうので、それを避けるために隠れながら進んでいた。

 木村の家は病院から歩いて15分くらいの普通のマンションだ。

 かつて警察に勤めていた時から引っ越しとかはしていない。

警察を止めて格闘家になってからは、地方巡業などで留守にすることが多かったので、引っ越しの必要性を感じていなかったのが原因だった。

 家には両親が居るはずだ、父親は木村と同じく警察官だったが、今は定年退職しているので自宅にいるはずだ。

何かと慎重に物事を進める父親だったので、恐らくは避難所に向かったと思うが、念の為に自宅に行ってみようと考えていた。

 マンションに到着してみると、エントランスの入り口が破壊されていて、中を不死者がウロウロしている。

木村は無用な戦闘を避ける為に、マンションの横に付いてる非常階段に回ってみた。

すると階段に人影は無く、このまま自宅のある3階まで行けそうだった。

 2階に上がり3階へ行こうと、踊り場を回ろうとした時に不死者に出合ってしまった。

”やはり、素直に行かせてもらえないか……”

「うがああああ!」

 不死者が呻き声を上げながら木村に迫ってくる。

 木村は一旦後ずさりして、いきなり襲い掛かって来た不死者をかわしてから、斧を上段に振りかぶって打ち下ろした。

”ガスッ”と音がして脳天に斧が突き刺さり、不死者はその場に崩れ落ちた。

 木村は突き刺さった斧を引き抜き、斧から滴り落ちる元血液だった赤黒い液体を不死者の服で拭いた。

「こいつは、お隣の旦那さんじゃないか……」

 改めて見てみると見知った顔だった。

 不死者になると、顔の表情が怒っているかのように固定されてしまうので、温和で優しそうだった隣人とは気が付かなかったのだ。

”まあ、判った所でやることは一緒だけどな……”

やりきれない思いで頭を振り、木村は3階まで上がり自宅の前のドアに立った。

 チャイムを鳴らそうかと思ったが、それだと中に不死者がいた場合に厄介な事になる。

チャイムを鳴らすのを止め自分の鍵で施錠を外して、そーっと玄関を開けて中の様子を伺った。

そして手に斧を構えたまま、自宅の中に入っていく。

 勿論、直ぐに逃げ出せるように靴は履いたままだ。

”おふくろに見つかったら大目玉だな……”

そんな事を考えながらも、ひょっとしたらと覚悟を決めて探索したが家の中は無人だった。

どうやら逃げ延びる事が出来たのだろう、リビングの机の上に自分あての書置きがあり”避難所に向かう”との走り書きがあった。

”……まだ生存の可能性があるな”

 木村は安堵のため息を漏らした。

普段の木村なら迷わずに両親を探しに行くのだろうが、今の木村には隆二たちが開発した薬を知らせる役目がある。

 木村は府前基地に向かう事を決めた、きっと両親なら自分の決断を理解してくれるに違いない。

自衛隊の基地ならば機能している可能性が高いし、然るべき機関とも連絡が取れるだろう。

 木村は身の回りの物と着替えを少し持って、基地に向かうべく道路まで降りて来た。

 通りの向こうを見ると、1人の警官が周りを警戒しながら歩いている。

彼なら警察の無線機を持っているはず、”おーい”と木村が声を掛けた所こちらに気が付いて手を振り返してくれた。

 ところが警官がアパートの前を通り過ぎようとした所で、横合いから女の不死者が躍り出て来た。

突然の事にあっけにとられたが、木村はその警官の元に行こうと駆け出した。

 ふいを突かれた警官が拳銃を向けようとしたが、不死者の女は警官を押し倒して一気に喉元に噛み付いた。

警官は必死になって抵抗しようとするが虚しく、不死者の女が喉笛を噛みちぎってしまった。

 噴き出してくる鮮血は、彼女の体一面にかかり女の細い身体が赤く染まっていく。

胴体からあふれ出る鮮血は、辺りの道路を真紅に染め、落ちていた枯葉をも赤く染めた。

 駆けつけようとした木村は、間に合わなかった事を悔みつつ、斧を振り上げて女に撃ち降ろした。

 女は壊れた人形のように倒れ込み、2度3度と痙攣して静かになった。

 木村は警官の首に指を当て脈を図ってみたが既に死んでいた。

”くそっ!”

 しかし、このままだとこの警官は不死者になってしまう。

仕方が無いので、斧を振りかぶってとどめを刺してやった。

 木村は警官に”間に合わなくてすまん”と手を合わせてから、その手に持っていた拳銃を回収した。

 それから死体の制服のポケットから予備の銃弾を取り出し自分のポケットにしまった。

 警官が持っていた無線機で通信を試してみたが、バッテリーが無いのか反応が無かった。

それを外して自分の荷物の中にしまった、後でバッテリー替わりになるものを探して使うためだ。

万が一、故障していても病院の先生方なら何とかするかもしれない。

 そして、木村は近くの商店の店内に入り、中の安全を確認してから2階に上がった。

手にした拳銃を検分する為に、外で不用意にぼーっとしながら、調べる訳にはいかない。

 不死者たちに見つかると面倒だからだ。

 手にした拳銃はスミス&ウェッソン社製のM37エアウエイトだ。

 これなら警察官時代だった時に、取り扱ったことがある。

取り扱いは自動拳銃に比べらればリボルバーの方が遥かに簡単だ。

グリップの上ぐらいにあるシリンダーラッチを、横にスライドさせるとシリンダーが左に出てくる。

そしてシリンダーの穴に一発ずつ装填する、穴は5つだから装弾数は計五発だ。

 シリンダーを元に戻し、木村は小振りなペットボトルの口を銃口に嵌め込んだ。

前に見たアクション物の映画で発射音を軽減化するのにやっていた方法だ。

 木村は銃を構え、転がっている人形に目掛けて引き金を引いた。

”ポン!……カラカラカラ……”と、くぐもった音がしたのと同時に、ペットボトルも一緒に飛んでしまった。

「ああ、そうか、テープで固定しなきゃ駄目なのか……」

 映画のように一発で上手くできないものだなと木村は考えた。

 それと意外に音が大きかった、以前のように雑音だらけの雑踏なら問題にならないが、今のように静まり返った環境では意外に響くのだ。

不死者を倒すのに使うのに、却って呼び寄せてしまっては本末転倒だ。

「まだ音が大きいな……ボトルに何か詰め物してみるか……」

近くに有ったクッションの中身を、ボトルに緩く詰め込んでみた。

それを銃に取りつけ、今度はガムテープで固定した。

「……今度は大丈夫」

木村は先程の人形を狙って再び引き金を引いた。

”ポシュッ!”

発射音は完全には消えないが、さっきの音に比べると格段に小さい。

「……ん、……まあ、素人の作ったもんだからこんなもんか」

 額に穴のあいた人形を手にとって、その威力を確かめた。

遠距離では役に立たないが、接近戦では銃の存在は心強い。

 その上消音の意味合いは大きい、余計な不死者たちを呼び込まないで済むからだ。

木村はポケットから予備の弾を取り出し数えてみた。

「予備の弾は5発か……もう少し欲しいな、警察署に行ってみるか」

 小柄な大きさのM37エアウェイトに、ペットボトルをくっつけた拳銃は見てくれは悪くなった。

”まあ、カッコイイから不死者が余計に倒せる訳では無いしな……”と木村は思い気にしないことにした。

それから室内の電灯にぶら下がっていた紐を利用して、拳銃を首からぶら下げた。

拳銃のホルスターが無いし、消音機替わりのペットボトルが邪魔なので、ズボンに差し込む事が出来ないからだ。

 商店を出て府前基地に向おうとした時、不死者たちが群がっている車を発見した。

方向から考えるに警官がやって来た方だ。

 木村はそーっと不死者たちの後ろに近寄ると、車の中から助けを求める子供たちの姿が見えた。

”……見捨てる訳にいかねぇな”

 木村の決断は早い、斧を上段に構えたまま突進し、手短な不死者に突き立てる。

頭から赤黒い液体を流しながら、最初の不死者は倒れた。

そのまま斧を横に薙ぎ払い、右隣の不死者の首を撥ね飛ばし、体をくるりと回転させて左隣の不死者の頭に真横から斧を突き立てた。

 斧は突き刺さったままにしておいて、木村は首からぶら下げた拳銃を構えた、車の反対側にも不死者はいるからだ。

 車の反対方向にいた不死者には拳銃で頭に鉛玉を撃ちこんでやった。

距離が2メートル足らずであろうと、練習をしている者としていない者では命中率は違う。

警官時代の練習の賜物であろう、全ての弾は不死者に命中した。

 この間、ほんの2分だ。

中の子供はあっけにとられている。

「さあ、もう大丈夫だ」

車のドアを開けると中から子供たちが5人飛び出してきた。

皆、興奮状態なのか思い思いに好き勝手に泣き喚いている。

 木村もそうだが、多くの独身男性に取って子供は扱いにくい存在だ。

どうすればいいのか判らないからなのだが、それでも木村は優しく”もう大丈夫”の言葉をかけ続け頭を撫でてやった。

「詳しいことは後で聞くから、とりあえずここを離れよう……ヤツラが来る」

 木村の視線の先に不死者たちが、のそりのそりとやって来るのが見えていた。

”無線機を使えるようにして、連絡を取る事も出来るし、取り敢えず一旦病院に戻ろう”

 一度、病院に戻って体制を立て直してから、基地に向かう事にしようと木村は考えた。

子供がいてはこれ以上の戦闘は無理だし、子供たちの安全を優先するのがベストだと判断したのだ。

 木村は子供たちを引き連れて通りを走って行った。


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