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終焉のコドク  作者: 百舌巌


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抗不死者薬

 松畑隆二と柴田医師は抗不死者薬作りの為、薬品の調合に没頭している。

というか周りを気にする余裕が無いのだ。

 暇な時間に監視モニターを見ていた木村和彦。

だが、モニターで見る外の様子に違和感を覚えた。

「ちょっと、これ見てもらえませんか?」

 研究棟の敷地内に対して、侵入を図ろうとする犬を発見して、隆二たちを呼び寄せる。

「普通に犬ですよね? それが何か?」

 柴田が”それがどうしたのだ?”と言いたそうに木村に尋ねた。

「いえ、何か変なんですよ」

 何頭かの犬は、放置されている死体を食べているのだ。

普通ならとんでもない事なのだが、日常が崩壊している現在では、どうという事はない。

止めさせようにも、外に出るのは危険過ぎるからだ。

「たぶん、餌が不足しているせいでしょう、飼い主も見かけ無いという事は、飼い主も不死者はなったか、犬を置いて逃げ出したかしたんですよ」

 モニターに写る犬は何頭かいて、お互いに警戒しあいながら、倒れている死体を食べている。

食べている最中も不死者が近付くと、威嚇するように刃を剥き出していた。

もはや犬たちにとって、人は良き友ではなくなっているらしい。

「彼らも生き残りたいでしょうから、仕方の無い事ですよ」

 柴田はサンプルの合成に水を差されたので、急に眠気が襲ってきたようだ。

盛んに欠伸をしながら、椅子に保たれたまま背伸びをしている。

 木村はそうなのかなと思ったが、やはりモニターから違和感を感じていた。

その犬の横を不死者たちは、関心なさそうに歩いているのだ。

「……人間にしか興味を持たないみたいですね」

柴田に替わってモニターを覗き込んだ隆二は、木村の感じていた僅かな疑問に応えた。

「ああ、違和感はそれだったのか……」

隆二の関心はそこでは無く、そばを通り過ぎている不死者にあった。

 隆二は、”なぜ人間だけを識別まで出来るのか?”そのことに興味を持った。

「見た目なのか匂いかな、人間独自のホルモンの匂いかもしれないね」

そう隆二が呟くと、柴田は自分の白衣の匂いを嗅いでいる。

着替えていないので当然のように臭い。

「彼らの目は白濁してますから、匂いの可能性が強いですね」

柴田は匂いを嗅ぐ行為に勢いに付いてしまったのか、自分の靴の匂いを嗅いで顔をしかめながら言った。

 やがて遺体には犬の他にカラスもやってきて、ついばみ始めるようになった。

「うぇ……」

眉をひそめた木村は、監視モニターを他の場所に切り替えた。


「今度は旨く行きそうですね」

 隆二は試験サンプルをトレーに載せて、電子顕微鏡での撮影準備をしている。

抗不死者薬が機能しているのなら、コドクウィルスが壊れている筈だ。

 じっとパソコンのモニターを、見つめる隆二たち

するとぐちゃぐちゃに崩れた、コドクウィルスが表れた。

「……よしっ!」

隆二が珍しくガッツポーズをした。

「これで抗不死者薬が出来上がりだ」

柴田が満面の笑みをたたえて同じくガッツポーズをした。

 研究棟にいた生存者全員が歓喜した。

柴田が冨田とハグしようとしたが、華麗にスルーされてしょげてしまっている。

子供たちも訳も解らずにハイタッチに応じて喜んでくれている。

 しかし、問題があった。

本当に有効なのか確かめる方法が無いのだ。

 普通の臨床では動物を使うのだが、ここには居ないし不死者は人間以外に興味を示さない。

「……実験動物はこの棟にいなかったんでしたっけ?」

隆二は実験動物を使うことはあまり無い。

せいぜいマウスを使って症例を確認する時ぐらいだ。

「……居たとしても、騒動から結構日数が立っているから生きてるとは思えないですよ、誰も世話してないでしょうからね」

柴田は外科医なので、人間相手に切った貼ったしかやらない、実験動物がいるかどうかは普段気にしていない。

隆二はどうしようかと柴田と相談していると『自分がやりますよ』事も無げに木村が接種を受けると言い出した。

「だって、この中で可能なのは俺だけですよ?」

 確かに薬の改良と増産の為には隆二と柴田は対象外だし、看護婦の冨田と宮沢は医療関係者なので今後も必要だ。

子供たちは最初から対象外で、鈴木は子供たちの面倒を見るのに必要……

余ってるのは自分だけではないかと木村は言った。

「確実に効くという事が、保証できないんですよ」

 隆二は被験を行ってない危険性を説明した、最初の被験者は自分が成るつもりだったのだ。

「でも、誰かがやらなければダメですよね? それに、この薬の事を関係機関に連絡を入れないとならないでしょう」

木村は、家族の安否を確認したいとの理由を言った、万が一の事があるのなら後始末に行きたいのだと。

 そして、政府機関がまだどこかにあれば、この事を知らせたいとも言った。

自分一人なら不死者の間を、突破して行く自信はあるのだとも言った。

 元々、木村は警察出身の格闘家で、試合で痛めた箇所のシップ薬を取りに来ただけで、この騒動に巻き込まれたのだ。

「判りました、それでは注射の用意を……宮沢さんお願いします。」

注射器の用意を宮沢に頼んだ、隆二は医者だが注射が下手なのだ。

「鈴木さん。子供たちは別室に連れて行ってくださいね」

 もし、薬が効かない時には、木村が不死者化する可能性がある。

その時には木村を始末しなければならない、そんな行為を子供たちには見せたくなかった。

それで鈴木に別室に連れて行ってもらったのだ。

 やがて注射の用意が出来て、隆二は更に木村に最後の確認を取った。

「……いいですね?」

木村はニッコリと微笑んで返答した。

「ちゃっちゃといきましょうよ、ヤツラみたいになったら、躊躇しないで始末してくださいね?」

柴田が斧を構えて、ニッコリと笑いながら言った。

「大丈夫、僕。 上手ですから」

冨田と宮沢がげんなりした表情でお互いに見合った。

 そして、木村の腕に注射の抗不死者薬が静かに注入されていく。

……しばし、沈黙する一同であった。

注射針を木村の腕から抜いて1分経ち、それが5分経った頃に隆二が木村の顔を覗き込んだ。

「気分はどうですか?」

木村の様子を観察し、腕を取って脈拍を図ってみる。

 そして木村の目に白濁の様子は無い、心拍も普段通り変化がない事を確認した。

「何ともなさそうです……隣の研究室の不死者で試してみますか?」

 木村は念のを入れるために提案した、どちらにしてもやらなければならない事だ。

本当に不死者に噛まれても大丈夫なのかを、実際に実験してみない事には話にならない。

隆二や柴田の性格を考えると、言い出しにくそうだから木村から提案したのだ。

「……はい、お願いします」

 隆二は自分の考えが見透かされていたのを感じていた。

 もちろん、対不死者でのテストは、実際に噛ませてみるのだ。

薬が失敗していれば”死”だけでなく、不死者になってしまうリスクがある。

それを非常になってでも頼めない所に、学者としての隆二の弱さがあった。

 一同は隣の研究室に移動した。

ここにはサンプルを採取する為に捕獲した不死者を拘禁してある。

中に入ると木村はシャツの右手の袖を捲りあげた。

「いえ、そちらではなく左手でお願いします、利き腕が使えなくなると困りますからね」

隆二は足と腕を体に固定するためにロープを持ちながら木村に言った。

「ああ、そういえばそうですね」

木村はテレ笑いしながら左手の袖を捲りあげた。

足と右手を体に密着するように縛り、左手だけを自由にしておいた。

 不死者の拘禁室に縛られたまま転がしてある。

隆二に体を支えてもらって、木村はその不死者の口に腕だけを当てがってみた。

「がぁああああ!」

不死者は唸り声を上げながら木村の腕に噛みついた。

「うっ!」

腕からは血があふれ始めてる、苦痛に木村は顔をしかめた。

深く噛まないように、木片を入れているのだが、それでも噛み千切りそうな勢いだった。

木片がバキバキと音を立ててる、そして木片に邪魔をされた歯が音を立てて折れ始めた。

「い、今、引きはがすから……」

 隆二と柴田で不死者の口を無理やりこじ開け、噛まれていた木村の腕を解放した。

口を無理やりこじ開けたので、不死者の歯がほとんど折れてしまったし、顎も外れてしまったようだ。

「肉が千切れた様子は無いですね、ちょっと強く押さえていてください」

 隆二が傷口を見た後に止血用の布をあてがい、富田が包帯と消毒薬を持ってきて治療の準備を始めた。

消毒薬はウィルスには効かないが、雑菌の感染を防ぐためである。

 何しろ不死者の口は汚い、見た目だけでなく異臭がするほど臭いのだ。

人間の口臭は、唾液が潤滑に流れる事によって防げるのだが、不死者の場合は唾液が円滑には流れないので口臭が酷くなるのだ。

 木村は黙って床に座って居る、そこを冨田が腕に包帯を巻いてやっている。

 柴田は斧を頭上に構えて、いつでも対処できるように待機していた。

 宮沢は顔を伏せている、緊張に耐えられず泣いているようだ。

 そして隆二は腕時計と木村の顔を交互に見ながら、木村の脈拍を図っていた。

隆二の今までの観察だと、最初の変化が現れるのなら1分後だ。

突然苦しみだして、全身がけいれんを起こした後に不死者となるのだ。

……1分経った、しかし木村の様子に変化は現れない。

「成功したと考えられます、このまま15分経過を観察させてください」

隆二は大丈夫だと確信しているが、念の為に観察を長くすることにした。

「……ええ、構いません。 これでヤツラに噛みつかれても平気ですね」

 木村がニヤリと笑いながら返事した。

 隆二は歯が折れてしまった不死者に抗不死者薬を注射してみた、不死者にどの程度有効なのか知りたかったのだ。

不死者は注射してから、暫く痙攣した後に静かになった。

 隆二は不死者に2度目の死を与える事が出来たのだ。

「反応が何もありません、活動停止状態になりましたね」

柴田が不死者の体を斧で突きながら言った。

 隆二としては人間に戻る事を期待していたが、一度死んでいるので無理なようだった。

「これで不死者たちに直接打ち込めば、何とか彼らを駆除出来る事が判りましたね」

 だが、不死者たちには致命的な薬のなのは解ったので、何らかの方法で不死者に施術出来れば殲滅が可能であろう。

不死者たちは呼吸などはしないので、ガス化して振り撒く方法は使えないが、液化して氷結させ打ち込む方法も使える。

 今のように物理的に破壊するのでは、手間がかかってしまってしょうがない。

 その辺の事は武器を作成する人たちが、考えてくれるのを期待しよう。

隆二にできる事は、この薬の量産体制を整える事だ。

「じゃあ、もっと薬を沢山作る方法を考えましょうか」

隆二と柴田は薬の増産方法について話を始めた。


 翌日、血が止まっただけの木村は、柴田愛用の斧を譲り受けて、自宅に向かって出発して行った。



いつも読んで頂きありがとうございます。

これからも頑張りますのでお付き合いのほどお願いします。

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