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終焉のコドク  作者: 百舌巌


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コドクウィルス

 松畑隆二は柴田医師と共に、パソコンのモニターを睨みつけていた。

「反応はどうですか?」

「……いや、全然無し」

何度目かの柴田の問いかけに隆二は答えた。

「……じゃあ、サンプルの200番代からやり直しますか」

柴田はため息をついて試験のやり直しを提案してきた。

 不死者ウィルスに対する抗体反応を調べているのだ。

有効な抗体反応が見つかれば、ワクチンを作成することが出来る。

 根本的な治療は出来ないにしろ、ワクチンがあれば不死者が増えることはなくなる。

「一休みしましょう、ヤツらをやっつける前に、過労にやっつけられてしまいますよ」

 ずっと、モニターを睨み続ける隆二と柴谷に、木村が休憩を挟むようにとコーヒーを持ってきた。

不死者を捕獲してから、夢中になってやっていると、時間の感覚がなくなってしまう。

女性陣や子供たちが、寝ているところを見ると夜中なのだろう。

”まだ先は長い”と、隆二は思った。


「ペニシリンの反応は無し、抗生物質への耐性は抜群に良い、長い時間かけても治せない筈だ」

柴田がサンプルへの投薬結果を見ながら言った。

「我々の赤血球内に侵入し、ヘモグロビン・タンパク質を取り込んで自身を複製する。複製された個体は他の赤血球内に侵入して同じ動作を繰り返す」

「DNAを見た限りでは、トキソプラズマとインフルエンザと他にも何か1種類のマップが見受けられますね」

「人間の脳内に侵入したアイベックは、倫理観を司る右脳に寄生し、自身たちを増やすために、他者に噛みつきたくなる衝動を起こさせます」

隆二は手に持った自分の所見を読みながら、推論を組み立てて披露した。

「……アイベック?」

柴田が隆二が発した言葉に質問をしてきた。

「はい、いくつかのウィルスの複合体みたいなので、そう名付けました。それに”ヤツラ”では呼びづらいですからね」

隆二はInsect venom codexインセクツ・ベノム・コデックス通称:アイベック(IVEC)と名付けたのだ。

 隆二は照れたように、アイベックの由来を説明した。

「最初は悪性のインフルエンザ擬きだったのが、感染を繰り返す内に、トキソプラズマに出合い、その特性を取り込んでいったのでしょう」

富田が電子顕微鏡を操作しながらぶつぶつと言う。

「じゃあ、その宿主を操る奴を、取り込んだウィルスですか……そう考えると、辻褄が色々と合いますね」

木村は疾病に関する知識は無いので、目で見たきた事でしか判断が出来ない。

「ワクチンが完成すれば、あいつらをやっつける事が出来るんですよね?」

温子が期待を込めて隆二に尋ねて来た。

「ワクチンは予防薬であって、治療薬では無いですよ」

隆二は苦笑してしまった。

とにかく増やさないようにしようと考えていたのだ。

「彼らは呼吸をしないから、ガス化や霧状にしての散布では効かないです」

生命としての活動をしないので治療は無理だと隆二は思っていた。

「DNA自体をぶっ壊せばいいんじゃね?」

柴田が事も無げに言う。

「バクテリオファージを使ってさ。複製される速度が速いのなら、それを逆手に取ってDNAの塩基列を破壊する因子を注入すればいい」

以前に見たロボットみたいなウィルスを、思い浮かべながら話してみた。

「自分で自分を喰わせるイメージですか?」

隆二は不死者たちが共食いする光景を思い浮かべていた。

「でなかったらさ、中性子線でDNAを直接壊せばいいんだよ」

柴田は自分の言ったアイデアが気に入ったようだ、ニヤリとしている。

「一片でも残っていると、そこから増殖してしまう、根本的に駆除するには中性子線で、DNAを破壊してしまうのが良いんじゃない?」

柴田があっさりと危険な事を言った、彼なら本当に実行しそうだ。

「中性子爆弾ですか……材料はあるんでしょうけど、作れる技術者がいないからダメですね」

倫理観がどうこうの前に、作れないから要らないという結論のようだ。

ずいぶんと物騒な話題だが、隆二は気にしていないようだ。

 柴田はナイスアイデアと思っていたらしいが、隆二に一撃で却下されたのでしょげてしまった。

「最初はインフルエンザの様に飛沫状で感染していたけど、次は患者そのものを乗っ取って、感染させるように進化したのですか……」

”このマッドサイエンテストたちは……”と、思った冨田は話題を変えるべくウィルスの話に戻そうとしている。

「つまりより強力に感染させる事が出来た個体が残った……と、いう事なんですかね」

アイデアをダメ出しされた柴田が、モニターから目を離さずに言った。

蠱毒こどくの作り方みたいですね」

 温子がポツリと言った。

大学の時に専攻した、中国史学の研究で読んだ論文に、書いてあった事を思い出したのだ。

「コドク?」

隆二が耳慣れない単語に、温子に詳しく説明してくれと頼んだ。

「古代中国で行われていた呪術のひとつですよ、色々な毒虫を器の中にいれて互いに喰らわせ、最後に残った毒虫を呪術用途に使ったとされています」

温子が論文の一部を思い出しながら隆二に教える。

「じゃあ、これは人類に対する終焉の蠱毒こどく……か」

隆二が、モニターに映るコドクウィルスを見ながら呟いた。


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