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終焉のコドク  作者: 百舌巌


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人生は平均値

 期待して、たどり着いたスーパーだったのだが、中には何もない空間が、広がっているだけだった。

恐らく近隣の生存者たちが、漁って行った後あろう。

 栗橋友康は、まだ残っている物がないかと、中に入って物色しようと、ガラスの割れた入り口から入った。

スーパーの中は静まりかえり、友康が歩く都度、バスケットシューズのゴムが、キュッキュッと音を出しているのみだった。

自分の出す靴音に、友康はビクビクしながら、商品棚からそっと首を出して、様子を窺って見ると、通路に不死者が1体見える。

 その不死者は下半身を、倒された棚に挟まれて、足掻いていた。

こちらを見つけてる様子は無いし、彷徨って来る事もなさそう、取り敢えず危険は無さそうだ。

 大抵のスーパーでは、天井付近に何を置いているコーナーなのか書いてある。

それで陳列している場所が、分かるものだが、ここでは中央の方の棚は、全て倒されている。

 恐らくは不死者除けの、障害物として使ったのだろう。

不死者たちは跨ぐとか、潜り抜けるといった動作が出来ない。

目標に対して、直線的にしか行動しないのだ。

 棚の中身は取り除かれており、全て端っこに積み上げられて、段ボールに入っていた。

ガサゴソと中を漁って見てみたが、直ぐに食べられる物は、残されてはいなかった。

 それでも懐中電灯・ライター・猫用缶詰などを、見つけ出して、入り口に落ちていた、子供用リュックに詰め込んだ。

そこを、あとにして奥に進むと、少しだけ広い空間に出た。

開いている空間には、奥から引き摺り出してきたのか、 事務机などが数段積まれていた。

ここに籠城していた人は最後まで、諦めなかったのだろう。

 最後の砦(机)の周りには、破壊された不死者たちの、残骸が散らばっていた。

友康は砦の奥まで行くことにした、ここまでロクな収穫物が無いのだ。

どう見ても籠城の後だ、何がしか残っている可能性はある。

 奥の方に行くと暗いので、タオルでほっかむりをして、頭の部分に懐中電灯を括り付けた。

これなら両手が使えるし、 顔の向きに従って回転して、前方を照らしてくれる、頼もしい光源だ。

これが特殊部隊だったら、手に自動小銃とフラッシュライトを持って、蒼然と偵察するのだろう。

友康の場合は、ラバーカップとやっすい懐中電灯とタオルのほっかむりだ。

まあ、見てくれは格好悪いがしょうがない。

明かりがあると、視界が開けるのは、言うまでも無いが、同時に見たくない物まで、はっきりと見えてしまう。

 その部屋には、子供と思われる遺体と、成人女性と思われる遺体が有った。

子供の遺体には、何れも頭付近に、損傷が有るので、母親がトドメを刺して、自分も自害したのだろう。

友康は、これが本当に現実なのか、俄には信じられなかった。

「ぐぅ……酷すぎる」

青白い顔で思わず手を合わせて、彼等の為に冥福を祈った。

 その後、籠城の後を見て回ったが、見事に何も無かった。

食料や物資などが無くなり、外に行こうとして、バリケードを解いたタイミングで、襲われたって所だろうか。

もうスーパー内で、生きている人間は、居なくなっているのだろう。

 ほとんどの人間は、死んだか逃げたかで、ここからは消えている。

 友康は立ち上がって、スーパーのバックヤードの方へと移動した。

商品や惣菜などを、店先に陳列する前に、ここで下処理をする場所だ。

高校に入ったばかりの時に、アルバイトで来た事がある。

表の商品は略奪されているが、普通の客には馴染みの薄いバックヤードなら、まだ残っていると、友康は考えていた。

 入り口近くから入っても良かったのだが、唸り声が聞こえていたので、奥の出入り口から入った。

出入り口から入って、先程の光景で受けた動揺を、必死に抑えながら周囲を見回す。

生鮮食品が山積みされていたが、全て腐って異臭がしていた。

 するとあるものが目についた。

まるで鉈のようなデカい包丁だ。

他にも色々とある、さすが商売で、食いものを作っている調理場だ、包丁の品揃えも良い。

友康は、そのうちの二本を、そばに有った布で包み、それごと腰のベルトに挟み込んだ。

 一番大きい一本を右手に持ち、 床に落ちているモップに、縛り付けようと考えた。

そして槍にしようとして、モップを足で蹴って折ろうとした。

「ぁうっ! 痛ててて……チクショウ」

友康は足を押さえて、片足で跳ね回り、のたうち回った。

やはり、カッコ良く折れないものだ。

仕方ないので、先っぽに包丁を、縛り付けて槍のようなモノにした。

 すると、いきなり調理場の扉に、大きな音が響いた。

一瞬びくっ、となる友康。

「うぐぅああああ!!」

野生の獣のような声が、奥のヤードから響いてくる。

「不死者だ! 奥にいやがったのか!」

取り敢えずラバーカップで、扉が開かないように、扉の取っ手に挟み込んだ。

 その刹那に不死者が扉に、体当たりして来た。

間一髪間に合ったが、このままでは持ちそうにない。

友康は恐怖に押しつぶされそうになったが、 必死に気持ちを抑え、何か利用出来るものをと、自分の周りを見渡した。

調理台の処に、食材を運ぶストレッチャーがある、これでバリケードを、作る事にしてストレッチャーを動かし、扉の前に置いた。

タイヤにストッパーが付いているので、ある程度は役に立つだろう。

次に友康は重い調理台を動かした。

金属同士が、ぶつかる衝撃音が鳴り響き、扉の揺れが激しくなっていく。

調理台が、扉の前に置かれた瞬間に、扉の鍵が壊れ、隙間から不死者の白く濁った、大きな目が覗いた。

「うぐぁああああ!」

友康に向かって、吠えて来る。

まるで、『悪魔』だ。

どう見ても、調理台だけでは、押さえきれないだろう。

不死者は何が何でも、友康に噛み付きたくて、堪らないのだ。

力任せに扉を開けようと、グイグイと押している。

そして、頑丈に作られていない、扉の隙間は段々と大きくなっていく。

 そこで友康は先ほど、自作した槍で不死者を突こうとした。

”ガンッ”

が……モップの形状が邪魔して刺さらない!

「ああ、役に立たない!」

だが、気がついた、向きを横じゃなくて、縦にすれば良いじゃないか。

「こっちか!」

モップを持ち替え向きを縦にして、扉の隙間から見える、不死者に向かって力一杯に突いた。

”ゴトッ”

……”グサッ”でも”グチュッ”でも無く、聞こえた音は”ゴトッ”だ。

「へ?」

モップを隙間から抜くと、包丁が無くなっている、縛りが甘くて取れてしまっていた。

「な、無い! そんなああ」

さっき聞こえた”ゴトッ”は包丁が落ちた音だったのだ。

「ぐぁああああ!」

不死者が、扉に体当たりしながら吠えている。

「……くそ、どうすればいいんだ!?」

 取っ手に挟み込んだ、ラバーカップが折れそうに、なっているのを見た友康は焦った。

ふと床を見ると、調理用のガスバーナーが落ちている。

食材に焦げ目を付けるときに使う奴だ。

すぐに手に取り、ガスバーナーに火をつけ、隙間から覗く、灰色の顔へ火炎を放射した。

 しかし、高温の火炎をもろに、顔で受け止めた不死者は、まるで意に介さないで吠えている。

痛みの感覚が無いのだから当然だろう。

 炎で焼けていく、不死者の顔は、益々恐ろしくなっていく。

「ぬあああ、それって反則だろう! 」

 そこで友康は、調理台の上に有った、漂白剤を不死者に浴びせた。

これは効いたらしい。

不死者は、首を絞められた鶏のような声を上げ、一目散に逃げていく。

「うひょ? やったぜ! 火には強いが、塩素系の、薬品には弱いのか!」

去ってゆく不死者の後ろ姿を見ながら、友康は勝ち誇った顔でそう言った。

恐らくは、嗅覚を失うのが嫌なのだろう。

 取り敢えず、弱点らしきものが、解ったのは収穫だ。

食べ物が無かったのは痛いが、猫用の奴は手に入った、目を瞑って食べれば問題ない(はず)。

次は避難所を目指そうかと、漠然と考えていた時、”この辺の避難所って、どこだっけ?”と思案した。

災害時にはどーたらこーたらと、市の広報誌に載っていた気がするが、生憎と覚えてない。

 アバウトに小学校を、目指そうと決める事にした。

どちらにしろ、ここから出るのなら、今しかない。

あれだけ大騒ぎしたのなら、外にも響いていたはずだ。

他の不死者たちが、集まってくるのは、時間の問題だろう。

 扉の取っ手から、ラバーカップを外し、漂白剤をリュックに入れ、背負い直した。

バックヤードから顔だけだして、出入り口の様子を見てみた。

スーパーの出入り口には、先ほどの騒ぎで不死者たちが、かなり集まって来ていた。

 友康は、そのままバックヤードから、トイレにそっと移動した。

そのまま、従業員用の出入り口から、外に逃げようと考えたのだ。

しかい、ちょっと落ち着いた所で、少々催してきたのを覚えた。

例え世界が、終焉になりつつあろうと、人間の生理現象は無くならない訳で、人生を平均値で過ごす事を、人生の基本としている友康も、例外では無い。

 どうせ気にする人など、いないのだから適当な場所で済ませば良いのに、トイレで用を済ませようとしている。

しかし、例え急いでいようと、警戒を怠らない、何しろ油断が自分の死と、直結しているのだ。

廊下を観察して、不死者たちが居ないことを確認して、トイレのドアを静かに開ける。

薄暗いトイレ内は、静まりかえっていた、友康は個室の一つ一つを、端から覗いて行った。

そして不死者たちが、居ないことを確認すると、安心して個室の一つに入った。

 ロクに食べられないのに、出るもんは出るんだなと、妙に感心していた。

友康が最近食べたのは、袋詰めのドッグフードだ、乾燥しているので、口の中の水分が全部持っていかれて、困ったのを思い出した。

今度は調味料を手に入れよう。

 ペットフードは、元々人間用ではないし、塩分が控えめで、あまり美味くない。

後、温める手段も、考えないといけないかも知れないな、などと回収した猫缶の事を考えていた。

次の行動計画を決め、出すものは出したので、トイレの個室を出ようとドアを開けた。

「おが!?」

目の前には、不死者が2体もいる。

「うがああああ」

こちらに、気がついているのだろう、唸り声を上げながら近付いてくる。

 しかし、ここは逃げ道が無い、窓はないし行き止まりになってる。

いきなりの絶体絶命に、友康の額から脂汗が出てくる。

いつもこうだ、もう安全だと安心すると、直ぐに次の厄介事がかかってくる。

しかし、嘆いても状況は良くならないのは、経験上判っている。

「くぅ」

 友康は覚悟を決めた。

「うおぉぉぉぉ!」

唸り声を上げ、ラバーカップを振りかぶり突撃した。

一番近くにいた不死者は、こちらに手を伸ばし近寄ってきたが、ラバーカップで手を振り払い、スーパーの買い物袋を被せた。

「くそったれがぁぁぁぁ!」

買い物袋を掴んだまま、不死者の頭を壁に叩きつける。

 二体目は横から噛み付こうとしてきたので、その顔にラバー部分を被せて、顎目掛けて下から包丁を一突きした。

”グヂュ!”っと音がして包丁がめり込む。

「俺は腹が減ってるんだぁぁぁぁ!」

そのまま下から上へと、不死者の顎に更に包丁を突き出す。

顎から頭の内部に、包丁が突き刺さって、やっと不死者は活動を止め崩れ落ちた。

 肩で息をする友康の耳に、廊下の奥の方から、続々と不死者たちが、集まって来る音が聞こえ始めた。

かなりの数に聞こえる、ここで囲まれると不味い事になるので、さっさと移動しようと、リュックを肩にかけた。

 男子トイレを出た所に、駐車場に面した小窓がある。

友康は、その小窓からそっと抜け出し、スーパーを後にして、無人の街へと歩き出した。


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