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終焉のコドク  作者: 百舌巌


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逃走する咆哮

 太陽が照らしてきている。

 橋の上には数台の軽装甲機動車と自衛隊員、機動隊員が警備をしていた。

彼らの顔は緊張のあまり強張っている、これまでに散発的な、不死者の襲撃はあったが今回は違う。

偵察ヘリにて生存者の救出に当たっていた、自衛隊の部隊から報告があったのだ。

橋の向こうから、道路いっぱいに広がった不死者たちが、橋に向かって前進しているとの報告があったのだ。

 軽装甲機動車の上で、無線機を構えていた自衛隊の隊長が叫んでいる。

「軽装甲機動車と大型バスで塞ぐぞ!」

「ミニミで荒ごなしに叩いた後に、各個に対処しろ! 無駄玉は避けるように!」

次々と命令を出し、車の配置を指示する隊長。

軽装甲機動車が適当な配置で並び、その後ろを大型バスなどで塞ぐ。

念のためパトカーや普通乗用を配置しておき、これらの隙間を埋めるように、土嚢を積めば二重の防衛線が完成する。

 自衛隊員や機動隊員が、それぞれ配置についていった。

隊長の覗く双眼鏡に、不死者たちの群れが、霞んで見え始めた。

 準備は一応できた、しかし問題は人数が圧倒的に足りないのだ。

警備本部に問い合わせたが、他も似たような状況で、どこにも人的な余裕がないのだ。

最初の騒動で、最前線に居た警官たちが、粗方やられてしまったのが痛かった。

その為もあって”自分達でどうにかしてくれ!”との素敵なお達しが出ていた。

 さらに問題なのは、押し寄せる不死者たちの前に、民間人達がいる事だ。

不死者たちの前を、よろよろと逃げて来る多数の民間人達……

幼児を抱えながら逃げる母親や、足の弱い老人達、車いすで逃げる人達だ。

避難勧告が出ても、直ぐには移動できなくて、逃げ遅れてしまったのだろう。

誰もが放送一つで、気軽に移動できる訳では無い、自己責任などと無責任に言ってはいけないのだろう。

 いづれにせよ、部下たちが向かえに行って、誘導や手助けにあたっている。

 そしてその後ろから、どんどん不死者たちが迫って来る。

避難民が検問所に到達するまで30メートル 、しかし不死者たちも、すぐそこまで迫ってきている。

 不死者たちの顔が、細かく見え始めた。

まだ血が流れている者もいるようで、全く死人には見えない者もいる。

皆どこかしらに怪我の跡があり、中には顔が大きく損傷していたりするが、もし傷口がなかったら、単なる普通のデモ行進に見えてしまう。

 出来れば早めに迎撃したいのだが、射撃線上に民間人が居る為に出来ない。

じりじりと待っていると、上空にヘリコプターの爆音が響いて来た。

攻撃ヘリがやって来たのだ、どうやらここが一番危ないらしい。

「上空のヘリ、こちらは是政橋阻止線指揮所。 民間人が射撃線上にいて撃てない、上空から支援を頼む」

隊長が上空のヘリに呼びかける、職種が違うので直接命令する事が、出来ないはずなのだが、『了解、攻撃対象にマークをお願いします』と答えてくれた。

隊長は発煙弾を、不死者たちの群れの中に打ち込んだ。

「赤色だ!」

無線機に怒鳴りつけるのと同時に、”ブォォォォォォォム”と攻撃ヘリに搭載されている、チェーンガンが咆哮音を立てながら掃討を開始する。

 その搭載されている20ミリ弾が、次々と、かつては人間だった不死者たちを凪払っていく。

倒れるというよりは、黒い飛沫を上げながら、”砕け散っていく”と言った方が、正しいのかもしれない。

元々、戦車などの装甲を貫こうという弾種だ、人間相手だと掠っただけでも、肉体をごっそりと、持っていかれてしまう。

橋の上は、たちまち雑多な体液で染まり、悪臭と血肉で埋まり、血煙で霞んで行く。

 それでも不死者たちは、前進を止めないでじりじりと向かって来る。

ロケット弾が、次々とポッドから、打ち出されるのが見えた。

爆炎が広がり、不死者たちが木の葉のように、舞い上がって砕けていく。

不死者たちはまるで他人事のように、じりじりと向かって来る。

攻撃ヘリの攻撃は、ダメージにはなっていないようだ。

 だが、遅れて来ていた民間人達が、逃げる時間は稼いでくれた。

阻止線にあらかじめ開けておいた、隙間から民間人達を脱出させると、隊長は「射撃始め!」と力の限り叫び、自分も拳銃を握りしめ射撃を開始した。

「頭を撃て、他の部分は撃っても無駄だ、動きが鈍るだけで排除出来ない。」

隊長はあえて”殺せ”と言わなかった。

「あの中に、健常者がいたら、どうしますか?」

隊員の1人が聞いてきた。

「その時は、その時だ。今は1人も通すな、そうしないと、全てやられてしまう」

判らない事を考えてもしょうがない、隊長はそう思うことにした。



 是政橋の攻防が、繰り広げられている時、 前原達也は途中で出会った、避難民の一団と行動していた。

周りを警戒しつつ、慎重に行軍する。

 大きな通りに出ようかという時に、カップルがその道路に飛び出してきた、不死者に追われていたのだろう。

しかし、女性の方は横合いから出て来た不死者に捕まってしまい、引き倒され噛みつかれてしまった。

 青年の方は、そんな彼女を助けようと、不死者たちの集団に、殴りかかって行こうとしている。

「おい! 彼女は諦めろ、もう噛まれている、助けようが無い!」

達也は逃げるように忠告した。

「うるさい! うらぁぁぁぁ!」

道端に落ちていた鉄棒を手に持ち、恋人の仇を打つと言って、青年は不死者の群れに向かっていった。

達也はその無謀さを、止めようとしたが、鏑木に腕を掴まれた。

「こっちの話しを、聞ける状態じゃないですよ」

振り返ると鉄棒を振り回し、喚いてる青年の体は、早くも返り血にまみれ、赤く染まっていた。

「くそっ!  お前らに思い知らせてやる!」

そう息巻いた青年が、傍に放置してあった車を使い、不死者たちに特攻を仕掛けた。

 だが、彼は映画の見過ぎだった。

 軍用車ならともかく、今時の普通乗用車と言うものは、そう頑丈に出来ているものではない。

中の人間を守るのに、衝撃を吸収して、壊れるように作られているのだ。

5~6体の不死者を轢いたあたりで、車はすっかり使い物にならなくなった。

不死者の群れの、ど真ん中に取り残された青年は、鉄棒を取り出し応戦し始めた。

 彼の予定では、車でもっと多くの不死者を、轢き殺せるはずだったのだろう。

だが、あっさりと捕まり、暫く悲鳴が聞こえていたが、やがて静かになってしまった。

「こちらは駄目です、ヤツラが気を取られている内に、反対側を進みましょう」

園田はカップルの男が起こした騒動で、不死者たちが集まって来ているのを、警戒し始めた。

 達也が、合図して先頭に立って通りを渡る時、車の陰から不死者が這いずり出て来た。

よく見ると足が無い、達也が噛みつかれる前に、バールで不死者の頭を砕いた。

 銃声が聞こえたのは、達也がバールを不死者の頭に叩きつけ、抜けなくなってしまい、手を離した直後だった。

乾いた音が1回響いた、達也は猟銃を構え、音がした方向に向ける。

 すると、正面のビルの脇から、警官が不死者に押し倒されながら現れた。

首に食いつかれた警官は、声にならないのに、何か口をパクパクさせながら、銃声を一回だけ響かせ、次の瞬間には手から拳銃が滑り落ちていた。

その警官に食いついていた、不死者を足で蹴り上げ剥いでやり、そのままバールを振り下ろし、頭にめり込ませた。

 そして、虚空を見ている、警官の目を閉じてやり、達也はバールでその頭を砕いてやった。

達也は拳銃を回収し、警官の前田に渡した。

 大きな音が響いたせいで、不死者たちが集まり始めている。

「さあ走って、囲まれたらアウトです!」

達也は包囲されることを予測して、走ることを促した。

だが、通りに面した家やビルから、不死者がどんどん湧いて出てくる。

「右も左も駄目です、どうしましか!?」

鏑木がボウガンで、手じかな不死者を撃ちながら尋ねて来た。

達也は猟銃で、手強そうな男の不死者を撃ち、女の不死者はバールで始末しながら、逃げ込めそうな場所を探す。

「あのビルに逃げ込みましょう」

園田が差し示す方向には、スポーツジムが有った。

休業中だったのか、格子状のシャッターが降りていて、その脇にある通用口が開いていた。

ここなら、中にいる不死者は居ないか、数が少ないだろうと、達也は考えた。

「よし!あのビルにしましょう、みんなさん急いでください!」

達也が声をかけながら、猟銃に弾を補てんしている。

 通用口から鏑木が中に入ろうとした時、中から不死者が出てきた。

「伏せて!」

達也が叫び、不死者に向け猟銃を発射した。

”ドン”

不死者の顔の半分が吹き飛び、達也は足で中に蹴り倒した。

「中を調べて、俺は援護している! みんな走って!」

達也が鏑木に指示を出し、皆を手招きする。

 そして、園田に取り付こうとしている不死者に発砲した。

”ドン”

顔と上半身を穴だらけにして、道路に吹き飛んでいく不死者。

それでも彼らは飽きることなく、ジリジリと近付いてくる。

「中に入って、バリケードの用意を!」

達也が弾を交換しながら、清水に怒鳴っている。

 やがて全員が中にはいると、達也も発砲しながら、通用口のドアを閉めた。

そして、通用口は長椅子などで塞いだ。

 もう、こちらの通用口は使えないだろう、不死者たちが入り口と云わずに、びっしりと張り付かれてしまった。

「ここで、休憩を取りましょう……」

ずっと走りっぱなしで、入り口のホールのような部屋に、へたり込んでいる皆に達也は告げた。

 自動販売機があったので、鏑木がバールでこじ開けて、中に有った飲料水を皆で分け合った。

 達也が水を飲んでいるときに、不死者たちの数が減りだしているのに、気がついた。

「……なんだ?」

達也が大きなショーウィンドウに近付くと、くぐもった砲行音とヘリの飛行音が聞こえる。

”攻撃ヘリのガンショットだ。 方向からすると、是政橋だろうか?”

達也は外を見ながら思案していた。

大規模な戦闘になっているらしく、ロケット弾の爆裂音も聞こえる。

「あの音に惹かれているみたいですね」

いつの間にか、前田が隣に居て、同じように外を見ている。

「かなりの人数の不死者が集まってるみたいですね、宮前橋が落ちたせいかも知れないです」

そんなに時間がたっていないのに、遠い過去の事のように思えた。

「……自分、残り弾があまり無いです」

前田がそっと耳打ちしてきた、全員を不安にさせたくないようだ。

「……僕もです、10発ぐらいですか、あとは力任せになりますね」

達也はポケットに、放り込んである弾を数えながら言った。

「……そうですね」

前田は力なく答えた、彼にも代案は無いのだ。

「もうちょっと、休憩したら出発しましょう」

達也は不死者が、少なくなった頃合いを、見計らって移動する腹積もりだ。

「そうですね、暗くなってからの移動は厳しいですからね」

前田は、格子のシャッターに張り付いている、不死者を見ながら言った。



 達也は入り口の処にあるホールのような部屋で、椅子に座って水を飲んでいた。

「……前原さんには家族はいないの?」

清水家の長女・朋葉ちゃんが聞いてきた。

彼女は一番下の妹と同い年だ。

「いるよ。母親と高校生と中学生の妹。全部で4人だね。 一番下の妹は朋葉ちゃんと同い年だ」

達也は家族の顔を、思い出さないようにしていた、泣いてしまうからだ。

「……心配じゃないの?」

不安げな表情で、達也を見上げる朋葉。

「心配で堪らないさ、でも、みんなをほったらかしには出来ないからね」

達也は努めて明るく振る舞った。

「……私たちは迷惑?」

朋葉はちょっと聞いてみた、 役に立たない自分たちを、見捨てるのではないかと不安なのだ。

「そんな事はないよ、これは僕の仕事だからね。 途中で投げ出したら、妹たちに叱られちゃうよ」

 残されているのは、女だけの家族だ、恐らく駄目だろうな……達也はふと考えてしまった。

達也は目頭が熱くなるのを感じ、気取られないように立ち上がった。

「さあ、休憩はここまでにして、外が暗くなる前に移動しましょう」

達也は空元気を出して、明るく声をかけた。

 そして、少し上を向き、涙を無理やり押し込めるかのように、天井を見上げた。

”諦めない、必ず迎えに行くから……”

 遠く離れた故郷を思い、達也は出かける支度を始めた。


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