1.女性は坊主でも可愛い人は可愛い
私は大学生。受験戦争を勝ち抜きこの大学に晴れて受かったわけである。と言っても地方の大学でたいして知名度のある学校ではないのだ。しかも私は入学したてのまだまだ青くせーなんちゃって大学生なわけだ。
そんな私の住まいは大学のすぐ裏にあるそれはそれはボロいでは言いきれないほどボロボロなアパートと言えば聞こえのいい程のアパートで、やさぐれ荘という冗談みたいな名前のアパートに住んでいるのである。6畳一間の部屋が6つ、共同トイレがあり風呂はなく近くのこれまたボロい銭湯に入りにいく。
そこに住んでいるのは私を含めた男女4人。その男女比率は1:1つまり男2人、女2人である。このどの人も変わり者たちなのである。そして中でも一風変わっているのは私の隣の部屋に住む高瀬川と言う同じ学部の学年が二つ上の可愛らしい女性だ。何が変わっているかと言えば行動パターンが全く読めないのである。だいたいの人間は行動パターンが存在すると私は思うのだ。私はその行動パターンで人を見ている節さえある。彼女の存在は知っていたし、姿も幾度か見かけたこともあったが話をかけたり、かけられたりしたことはなかった。そんな彼女に私はちょっとした好意を覚えたのは今年6月の梅雨であり、彼女とのファーストコンタクトでもあった。
その時の彼女は坊主頭であった。さすがに私も驚き思わず話かけてしまったのである。
「ど、どうされたのですか?」
その問いに軽く首を傾げ
「この頭がかい?最近何だか蒸し暑いだろ?前は髪が首も覆っていたから暑かったんだよ。だからバッサリといってみたんだ。」
「バッサリって…思い切りが良すぎやしませんか?」
「いや手入れも面倒臭いしちょうどよかったし。」
「そんなもんですか?」
「そんなもんよ?」
などと言う女性との会話らしからぬ会話をお互い自室のドアノブに手をかけながら交わした。これが彼女とのファーストコンタクトである。
そしてセカンドコンタクトにして私は彼女の部屋に「いい酒が手に入ったんだ。一緒にどうだい?」とお呼ばれがかかったのだ。
恥ずかしながら私はか弱いチェリーボーイ元を言い童貞なのだ。そんなお呼ばれがかかれば一抹の淡い期待を持ってしまうのは男であるならばしかたがあるまいか。
そして私は生まれて初めて女性の部屋に意気揚々と高まる胸の昂揚を抑えドアノブに手をかけたのであった。彼女の部屋と言うの何と言うだろか私の女性のイメージをちゃぶ台のようにひっくり返したのだった。彼女部屋には土偶や埴輪といった主成分が土で出来ているもので埋まっていた。
「散らかっていて悪いね。最近何だかそれらにこっていて。見掛けるとついつい買ってしまうのだ。」
もちろん彼女が平然と言い切った‘それら’とは土偶や埴輪を指すことは間違いないだろう。そして私の淡い期待は霧散したのであった。その後まだ3時にそろそろ差し掛かろかと言う時間だが私たちは酒を酌み交わし合ったのだった。ちなみに私は未成年であるがかまわず煽った。なるほど、大人の付き合いとはこういうものだあったか。何だか大人の階段を登った気分である。しかし、彼女は大層荒れていた。それはもう荒れに荒れていたのである。どうやら彼氏に振られたらしい。高瀬川さんは彼氏持ちであったか。原因は坊主である。彼女曰く、坊主前の彼氏は
「僕は君の顔に惹かれたんじゃない、君のその真っ直ぐな気持ち、姿勢に惹かれたのだ!」云々、言っていることとやっていることが違う!と大層御立腹であり私の恋の経験値が少ないが故にただうんうんと頷いて聞いているでしかできなかった。不甲斐ない。しかしあなたも些か自分に真っ直ぐ過ぎたのではなかろうか?そう提言しようとしたが彼女は酒のせいか目が真っ赤に血走り怖いのでやめた。そしてその後も首が腱鞘炎を起こすのではないかと心配するくらい頷き続け時間はなんと午前0時を回っていたのでだった。私も彼女も呂律が回っていなかった。そしていつの間にやら私たちは眠りに落ちていた。