なんか、子どもたちの耳長くなってない?
とある晩、とある村で、双子が産声をあげた。
母はふたりもお腹に宿していたことに大層驚き、そして大いに喜んだ。
滅多に産まれない双子、それも男女の双子だなんて、なんて素敵なんだろう。
"エイダン" と "ブラーハ" と名付けられた双子は、豊かな自然と、優しい両親に育てられ、健やかに育っていった。
そしてある日――
「なんか、子どもたちの耳、長くなってない?」
この一言から、子どもたちのとんでもない事実が発覚するのだった
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セルシャは明るく、好奇心旺盛な女性だった。
セルシャはパン屋を営む両親を手伝っており、朝は木の実を取りに森へ行くのが習慣になっていた。森はいつも空気が澄んでいて、大好きな場所だ。綺麗な空気をたくさん吸って、今日もありがとうと森に感謝する。
いつもより早くに家を出たある日、森で "ダラ" という名の男性と出会った。
彼の深い緑の瞳は、朝露に濡れた葉のように美しく、色素の薄い髪が、その瞳をいっそう際立たせていた
(なんて綺麗なんだろう!)
その美しさに、眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「おはようございます! この辺りに住んでるんですか?」
彼は一瞬だけこちらを見た。
「……まあ、そんなところだ」
「へえ! 私、セルシャっていいます!」
「……ダラだ」
「ダラさん! はじめまして!」
彼は視線を合わさず、軽く会釈をするのみ。
どうやら、あまりおしゃべりが好きではないらしい。
その後もあまり表情を変えず、淡々と聞かれたことにだけ答えた。
そんなダラも、会う回数を重ねるごとに少しずつ話してくれるようになり、森に詳しい彼から美味しい木の実の選び方や、料理に使える香草を教えてもらうことも、彼女の日課になっていった。
少しずつ距離を縮めて、2人はやがて恋人になり、そして夫婦になった。
セルシャはダラの住む森に移り住み、日中は実家のパン屋を手伝う生活になった。
しばらくして、2人の子どもがセルシャに宿った。
どちらに似るのだろうか、男の子かな女の子かな、父親になったダラはどんなだろう。
想像するだけで、幸せな気持ちになる。
お腹ははち切れんばかりに大きくなり、いよいよ出産の時。
出産とはこんなにも痛いのか、だから母はあんなにも強いのか。朦朧とする意識の中でそんなことを考える。
ダラは、心配そうにセルシャの背をさすり、少しでも楽になるようにと香を焚いてくれていた。
もう出る!と息むと、赤ちゃんが出てきて、大きな産声をあげる。
終わった……! そう思った矢先
「まだ、来るぅぅううう……!!!」
「ふぎゃ……ふぎゃぁぁぁぁ!!!」
セルシャの身体にはふたつの命が宿っていた。
ふたつの産声に、その場にいる皆が大慌て
慌てふためく産婆の後ろで、ダラも見たことのない顔でオロオロしていた。
――こうして生まれたエイダンとブラーハも母のように好奇心旺盛で、父のように森への知識の深い子どもに成長した。
ふたりが2歳になった頃、セルシャは以前から気になっていたことをダラに尋ねた。
「ねえダラ、子どもたちの耳の形、少し変わっていない?村のほかの子どもたちより大きい気がする。」
「……そうかな。子どもだし、体の成長とともに落ち着くんじゃないかな」
まだ2歳だし、確かに気にしすぎかもしれない。
そう思ってまた1年過ごしたけれど
「伸びてるよね、耳」
「…………ああ」
エイダンとブラーハの耳は、まるでおとぎ話に出てくるエルフのように、上へとツンと尖っていた。
「……セルシャに、言わなければいけないことがある」
ダラは気まずそうに重たい口を開いた。
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ダラの話はこうだ。
まず、自分はエルフだということ。そして、エルフは森を守りながら生きていて、各地でひっそりと暮らしているが、もともと互いに干渉しない種族で、他のエルフたちがどこにいるのかも分からない。
自分がエルフだと伝えようと思ったが、どう伝えようか悩むうちに子どもたちが生まれたのだと。
「生まれてからは、いつか言わなければと思っていたんだ。でも、セルシャはどう思うだろうと。騙されたと傷付くかもしれないと思うと言い出せなかった。」
「……でも、どうしてあなたの耳は人間と同じ形なの?」
「ああ、これは……」
ポゥッ っとダラの耳の辺りが、淡い黄緑のような光に包まれたかと思うと、耳は子どもたちのように上にツンと伸びている。元々色素の薄い髪色も、さらに薄く、透き通るようなブロンズへと変わっていた。
「エルフはね、簡単な魔法が使えるんだ。数が少ない珍しい種だから、自分の身は自分で守らなければいけない。人間というのは、知らないものを恐れるから」
「…………」
「騙すようなことをして本当にすまない。君が受け入れられないと言うなら、俺はこの森から去らなければいけないと思ってる。」
「すごいじゃない!!!本当にエルフなの!?今わたし、夢を見てるわけじゃ無いわよね!?」
「あ、あぁ。」
「じゃあエイダンとブラーハは?あの二人も魔法が使えるようになるの?」
「それなんだが……」
「どうしたの? 私が人間だからやっぱり力が足りない?」
「もう使える」
「え?」
「それも、俺よりも上手に」
「えええ!?」
「あの子達は才能がある。それに、人間が全く魔力を持たない訳じゃないんだ。ただ、使い方を知らないだけなんだよ」
「ほえーーー」
「多分セルシャの方が秘めた魔力は強いんじゃないか?」
「ほえーーー!!!」
もう、ここまで来るとただただ驚くしかない。秘めているだけでは宝の持ち腐れでしかないが、知ってしまったのなら何かできるようになりたいと思うのが人の性だろう。
「もう1つ聞きたいんだけど、ダラ、あなた一体何歳?」
「……500とちょっと」
「……なんて??」
どんなに長生きでも意外と年齢は忘れないらしく、ダラは507歳だと教えてくれた。
彼の見た目が全く変わらないのは、長寿のエルフだからで、彼がいつも煎じている薬草のおかげではなかった。
セルシャは一番気になった事をおそるおそる尋ねた。
「あなた達よりも、私は随分早く逝ってしまうことになるわよね……。2人の成長した姿を見る頃にはお婆さんになっているのかしら」
エイダンはきっと素敵な青年になるだろうし、ブラーハは可憐な少女へと成長するのだろう。エルフがどのくらいの成長スピードなのかは分からないが、自分が見られるふたりはどんな姿なのだろう。そう考えると寂しい気持ちになった。
「全てを受け入れてもらう前に、結婚したこと……本当に申し訳ないと思ってる。君にひとつだけ確認したいんだ」
「なあに? もう何でもこいよ!」
「もし、エルフのように長生き出来るなら、君はしてみたいと思うかい?」
予想外の質問だ。離縁したいか、なんて聞かれたら当然即Noと答えるけれど……
「あなた達と同じくらい、生きられるの?」
もしかしたら、100歳くらいまで長生きしたいと思っていた私の人生プランより、恐らく何倍も、下手したら何十倍も長生きすることになるのかもしれない。
「君が望むなら、この森は願いに応えてくれる」
「……森が?」
「森にはね、たくさんの精霊たちが暮らしているんだ。エルフは精霊たちの恵みを受けながら、森を守って生きてるんだよ」
「私、精霊さんたちに会ったこと無いわよ?」
「彼らはシャイだからね。人間の前にはなかなか姿を現さないよ。でも君は、毎朝来てたくさんこの森に感謝の言葉を伝えていただろう?」
綺麗な森がいつまでも続くようにと、セルシャはいつも森に挨拶と感謝を忘れなかった。そんな姿を精霊たちは見守っていたようだ。
「君の魔力で森は生き生きしている。精霊たちの霊力も、君の魔力によく馴染むはずだよ。」
難しいことは分からないが、何気なく感謝を告げているだけだと思っていたけれど、どうやら私は、知らず知らずのうちに、自分の魔力をこの森に注いでいたらしい。
そして、セルシャの魔力を受け取っている精霊たちの力を借りれば、彼女の寿命を大きく延ばすことができるのだという。
「そんなに長く生きたら、私が私じゃなくなったりしない?」
「大丈夫。急に別の生き物になる訳じゃないよ。精霊たちの霊力を少しずつ馴染ませたら、君もエルフと近い存在になる、そんな感じさ」
セルシャには不思議と不安はなく、この森と、ダラと子どもたちと生きていける喜びだけが確かにあった。
「私はあなたたちと、この森と、長生き出来るならそれがいい。この森がいつまでも美しくあるように、頑張るわ」
セルシャが両手を握りしめると、森のあちこちで小さな光が弾けた。
『『『嬉しい! あなたに力、やっと返せる!!』』』
「……ダラ?」
「……ああ。精霊たちが張り切っているね」
「そうなのね!」
初めて聞くことのできた、ころころと可愛い精霊の声に微笑んでいた、その瞬間。
セルシャの全身が、まばゆい光に包まれた。
「えっ、ちょっと待って!? 私、何かした!?」
「……精霊たちが、少々張り切りすぎたようだ」
「少々!?」
森の向こうでは、精霊たちの力を感じ取ったエルフたちが一斉に顔を上げていた。
こうして、エルフの夫と、エルフに近い存在となった妻。そして規格外の双子たちという、ちょっぴり不思議で賑やかな家族は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし




