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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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サクサク読める短編集

冒険者ギルドの受付係のミゲルおじさん

作者: 2626
掲載日:2026/06/02

 北方最大の商業都市ジュルベルの冒険者ギルド支部には、多種多様、千差万別な冒険者が、一人だったりパーティを組んだりして大勢やってくる。


 北風が吹いても雪が降ってもびくともしない、赤煉瓦の大きな建物がジュルベルの冒険者ギルドの象徴だ。

その冒険者ギルドがある大通りの向かい側には、双子のようにそっくりな赤煉瓦の建物があって、こちらは商人ギルドの建物となっている。


 それぞれ玄関には看板が大きく飾られていて、文字が読めない者でも一目で分かるように、冒険者ギルドは剣と盾、商人ギルドは天秤と金貨の意匠が工夫されているのだった。


 ただ、酔っ払ったり土地勘が無くて間違える者も多々いるため、ギルド受付係のミゲルは、冒険者らしくない客には真っ先にこう声をかけることにしていた。


 「こちら冒険者ギルド、ジュルベル支部でございます! ようこそお越し下さいました!」




 冒険者ギルドにやって来た、その細身の若者はおどおどとしていたけれど、ミゲルが明るく声をかけたことが功を奏したのだろうか。

少し深呼吸した後で、ミゲルに訊ねたのだった。

「……あの、すみません。 僕も冒険者になりたいのですが、登録手続きなどを教えて頂けないでしょうか?」

「承知しました、冒険者登録の新規手続きのご案内ですね。 でしたら簡単な調査と面接、適性検査などを最初に受けて頂く必要がございます。 よろしいでしょうか?」

ミゲルがにこやかに案内すると、若者は安心したようだ。

「は、はい。 とにかく依頼をこなしてこい、じゃないんですね」

「ええ、実はつい先日に冒険者ギルドの規約が大幅に改定されまして、このような所定の手続きを経た上で冒険者として冒険者ギルドに登録することになっております」


 ――規約が大幅に改定されるような、忌々しい大事件があったのだ。

よりにもよって、このジュルベルの冒険者ギルドで。


 営業スマイルで対応していたつもりだったが、ミゲルの内心の鬱屈たる思いに気付いたのだろうか。

「……何か、あったんですか?」

若者はおずおずと訊ねてきた。

無理に答えなくても大丈夫です、と暗に言っている遠慮がちな訊ね方だった。


 ミゲルは少し考え込んだ後、話すことにした。


 幸いにして箝口令は敷かれていない。

いや、箝口令を敷くには手遅れだったと言うべきだろう。

既にジュルベルのほぼ全員が知っているからだ。


 この若者は田舎から出てきたようなので、恐らく知らないのだろう。

だとすれば彼も知っていた方が良いだろう、とミゲルは判断した。

いずれジュルベルを拠点として冒険者ギルドに所属し、活動するつもりなら、逆に知っていないことで将来の致命の出来事になりうるかも知れない。


 「ここではお話しできません。 詳しいことは、あちらの適性検査室で……」



 ご出身はどちらですか?

ああ、あのココ村のご出身なのですね。

イルコさんというお名前、とても素敵なお名前じゃありませんか。


 あ、いえ、違うんですよ。

悲しそうなお顔をなさらないで下さい。

断じて、ココ村が田舎だからと揶揄するつもりで申し上げたのではありません。


 ……その。

イルコさんはココ村のご出身なのですよね?

ロセブルと言う男をご存じで?




 やはり……ご存じでしたか。


 冒険者ギルドの規約が大幅に改定される原因になった張本人なんですよ、ロセブルは。


 そのお顔からして、アイツはココ村でもあまり評判が宜しくなかったようですね。


 ううむ……そうだったのですか。

それは酷い……。

ココ村の方々も、あの野郎の所為で本当に酷い目に遭われたのですね。


 イルコさんも、ロセブルがこのジュルベルの冒険者ギルドで何をしたか、もうあらかたご想像は出来ているのではありませんか?




 ……冒険者ギルドのご説明も兼ねてお話しします。

ジュルベルの弊ギルドもそうですが、冒険者ギルドでは、主にソロ活動とパーティ活動の二つの活動がありまして。


 ソロ活動というのは余程の上級者か、貴方のような初心者におすすめなんです。

初心者の冒険者が一人で薬草を採りに行くとか、ちょっとした雑用を行うとか。

所謂、最初に冒険者の装備を整えたり、活動に慣れたりするための()()()だと思って頂ければ。

人付き合いが苦手だけれど、一人でドラゴンを仕留められるくらいの上級冒険者がソロ活動することもありますが、こちらの事例は珍しい方です。


 ある程度冒険者として活動できる土台や実力が固まってきて、一人では倒せないけれど集団でなら魔狼退治が出来る、あるいは冒険者として活動する中で気があった者同士でチームを組む。

珍しい属性の魔法持ちがいないと踏破できないダンジョンに行く時なんかは、その魔法持ちを臨時でチームに入れる。


 そうやってパーティ活動は始まることが多いんです。


 ただ、何事にも例外はあります。



 極々たまにですが、王家や大貴族から冒険者ギルドに直々に依頼が持ち込まれることがあります。

王家や大貴族が直接的に行うことは出来ないけれど、火急かつ重要な依頼がその大半です。


 例えばエルフの崇める世界樹から採れた葉でなければ治療できない重病に王族の方が罹患したとか。

エルフは外国からの干渉を徹底的に嫌いますから、自由な立場である冒険者がたまたまエルフの里にやって来た――そう言う形で無ければどのような理由があろうとも世界樹の葉を分けてはくれないのです。


 あるいは国宝級の宝物が盗賊に盗まれたとか。

盗まれたと知られれば王家の威信は暴落しますから、秘密裏に奪還して欲しいと言う依頼が来てもおかしくは無いでしょう?


 こう言った場合だけ、冒険者ギルド主導で、最優秀の冒険者で臨時のチームを結成させて、特別にパーティ活動をして頂くのです。


 何せ依頼の難易度が高すぎますから、この場合は強制的にパーティ活動となります。

この場合、冒険者は依頼内容を聞いたが最後、達成するまではパーティの脱退は禁じられています。

脱退した場合は死で以て償って頂きます。

それらの依頼はあまりにも重大な機密事項ですので、仕方の無い措置なのです。


 ああ、ご安心下さい。

依頼を達成さえすれば、通常の依頼とは比べものにならないほどの報酬が待っております。

上級の冒険者の中には重要依頼のみを引き受ける猛者もいるくらいですから。



 ……もう、薄々イルコさんもお気づきかとは思いますが。

ロセブルは冒険者としての実力が全くありませんでした。


 アレの持っている魔法は幻覚魔法。

それだってきちんと習得すればパーティ活動の要となったでしょうに、アレは常に犯罪行為のために幻覚魔法を駆使していたようです。

主に被害に遭っていたのは若い女性のようですが、未だに被害の全貌は明らかになっていません。


 アレのパーティ活動のメンバーの一人は今でも入院しています。

いえ、アレの所為で心を壊されていたことに、やっと我々冒険者ギルドが気づけたと言うべきでしょうか……。


 不当なパーティ活動で搾取した成果を報告して、上級者として名乗りを上げ。

儲かる依頼を独占し、悪事という悪事を働く。


 勿論、一人だけではありません。

ロセブルには相棒がいました。


 この向かいの建物の商人ギルドの元職員だったキーンです。

ロセブルから度々金と女を分けてもらう代わりに、ロセブルの悪評を誤魔化していたようなのです。



 さる大貴族の方から、弊ギルドに緊急の依頼が持ち込まれたのは、今から半年前のことでした。

隣町へ赴かれたご令嬢が、帰路、盗賊に襲われたそうなのです。

護衛を付けていたにも関わらず、襲われた時にご令嬢だけが拉致されて姿を消したと。


 ことがことですから、その時に弊ギルドにいた最上級の冒険者を集めて、依頼を引き受けるかどうかを確認し、是と答えた者でパーティを組みました。


 現場の異変に気付いたのは最上級冒険者の一人でした。

道に残された靴痕の少なさ。

加えて、この靴痕は何処かで見かけた記憶がある、と。




 ……厳密に言えば、襲ったのは盗賊ではありませんでした。

ロセブルとキーンです。

キーンが美貌のご令嬢に懸想して、ロセブルに頼んで盗賊の仕業に見せかけて襲わせたのです。


 ……。

ご令嬢は命こそ助かりましたが、今でも起き上がれないそうです。




 大貴族の方は見たことがない程に激怒しました。

この受付で弊ギルドの責任者の胸ぐらを掴んで何時間も恫喝して、その所為でジュルベルの誰もが事態を知ることに……。


 まさかのまさかでした。

頼った先の冒険者ギルドが身内に犯罪者を抱えていたのですから、あの怒りはごもっともなのです。


 その場でロセブルとキーンは逮捕され、大貴族の方が引きずって行かれました。

……今頃は、何処かに埋まっているのでしょうね。




 イルコさん。

これが冒険者ギルドが規約を大幅に改定することになった全てのいきさつです。



 性格検査、問題なし。

適性検査、回復魔法の優れた適性あり。

身辺調査、問題なし。


 大賢者が作った真実の水晶は柔らかな光を放っている。

これが一つでも嘘が混じると真っ黒に濁るのだが、この青年については問題無さそうである。




 「はい、面接及び適性検査、身辺調査が一通り完了しましたが、問題ございません。 イルコさんは特に回復魔法の適性が優れておりますね。 この分でしたら、真面目に研鑽を積めばどのパーティからでも引っ張りだこになるでしょう」

検査を終えて結果を告げながら、ふと、ミゲルは暗い顔をして目を伏せた。

「これは……あくまでも受付係の私の独り言ですが。

ロセブルとキーンの被害者達の体だけでも治癒できぬのかと懇願が来ております。 弊ギルドとしても最善を尽くしておりますが、あれほどの状態を治せる回復の魔法持ちの冒険者は未だ見つかっておりません……」


 新米なのに、胸を叩いて『僕に任せて下さい!』なんて言えない。

けれど、イルコ青年はせめてもと思って頷いた。


 「僕も相当ロセブルにはやられました。 でも、頑張って回復の魔法の腕を磨きます。

今は、そうお答えするのが精一杯です……」


ミゲルは急に恥ずかしくなった。

この新米の青年にいきなり何てことを頼んでいるのだと、己がみっともなく思えた。


 「いえ、すみません、こちらこそ。 全く勝手なお願いを申しました。 それでは責任者の承認を得て、ギルド員の証明書を発行致します。 もうしばらく受付前でお待ち頂けますか?」


 イルコ青年はハキハキと答える。

「はい、よろしくお願いします!」



 その数年後、数百年の封印を破って魔王が復活する。

この未曾有の危機に、勇者である王子が率いて戦った最強のパーティの中にイルコの名前がある。


 けれど、彼の名前をイルコと呼ぶ者はいない。

魔王打倒の功績から、彼には『聖人』の位が特別に与えられた。

その後もイルコはその位に相応しく、数多くの人を癒やし続けたので、『聖人様』と尊敬を込めて呼ばれるようになるのだ。




 ジュルベルの冒険者ギルドの受付係のミゲルだけが、たまに酔った時にイルコが初めて冒険者ギルドにやってきた時の話をするだけである。

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