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ナイト・オブ・ワルプルギス

作者: 徘徊猫
掲載日:2026/04/02

「被告人フィオナ、お前を魔女として刑に処する」

 一人の少女が法廷で膝をつかされていた。その周囲から圧迫感のある影が伸びており、フィオナの首元へと烙印が押し付けられる様を見ていた。


裁判官「これより、お前は悪魔との戦いにおいてその手先でないことを証明しなければならない。それにより、その罪もまた赦されるであろう」


裁判官「その魂が堕落せず、闇に飲まれんことを」


 *


 教会が広める教えにはこのようなものがある。

 悪魔は人々を惑わし、欲望によって塗り固められた幻想に陥れ、この世界を蝕む腐敗の糧とすると。


 悪魔に惑わされた者は、魔女である。

 闇の中から人々を誘惑し、数ある都市を壊滅させてきたという。


 それを打ち払うには、人々の中に紛れた魔女を探さなければならない。


優雅な女性「そっちに行ったわ」

快活な女性「任せろ!」


 既に廃れた村で二人が暗闇のように蠢く何かを追撃し、その背後から幾つかの火球が着弾するまでの直線を焼き、その怪物の行く手を阻んだ。


 前方から来るのは大斧を担いだ勇猛な戦士。

 背後に回り込んだのは細剣を手に持つ優雅な淑女。


 その怪物は抵抗する間もなく、二人の斬撃によって容易く葬られた。


快活な女性「終わったぜ、エピファニア」

エピファニア「そうね、良い戦いだった…」


エピファニア「さて、新入りさんには悪魔との戦いを簡単に見せたけど」


エピファニア「まずは目先の困難を乗り越えるために、共闘をするべきよ」

フィオナ「……っ、うるさい!」


エピファニア「ここに来たのなら、もう逃げることはできないわ。その原因が(わたくし)にあったとしても」


エピファニア「ここの過酷さは人を選ばない。それに、烙印を押された(わたくし)たちを受け入れてくれる場所なんて何処にもない」


エピファニア「悪魔と戦うことしか選択肢はないし。今(わたくし)が欠けることになったら、戦線は簡単に崩壊するわ。もしそうなったとき、あなたはその責任を背負える?」


 魔女は狡猾で偽装に長けている。

 人々の間で根を張る魔女に対抗するには、悪魔に向ける切っ先とすることで、潜んできた魔女の化けの皮を剥がすことだ。


 *


フィオナ「……殺してやる」


快活な女性「ハハッ、まだ元気みたいだな。出会ってそうそうエピファニアに襲いかかるなんて、お前が初めてだよ」


快活な女性「ああ、アタシの事はレッドテイルと呼んでくれ」


フィオナ「……あんたも、あいつの仲間?」

レッドテイル「仲間ってほど信頼してないが、ここで背中を預けられるのはエピファニアくらいだろうな」


レッドテイル「エピファニアがいなくなれば、ここにいる奴らはバラバラになっちまう。そしたら、アタシでもみんなを守ってやれないからな」

フィオナ「ここにいるのは犯罪者ばかりでしょ?」


レッドテイル「碌でもないのは認めるが、お前だって生きるためにしてきたことだろ?」


フィオナ「……」

レッドテイル「あー、そうか。お前らの文化についてはよく知らないんだ。傭兵だったしな。お前とエピファニアの因縁についても知らない。だから、これ以上は何も言わねぇ」


レッドテイル「だが、なんにせよだ。ここにいるからには、アタシはここの奴らを守らなきゃならねぇ」


レッドテイル「もちろん、お前もな。新入り。少しずつこの生活に慣れていけばいいさ」


レッドテイル「おーい、デルフィナ! こいつの世話をしてくれないか?」


デルフィナ「その人が新しく来た子なの? ……まだ子供じゃない」

フィオナ「だから何?」

デルフィナ「……貴方は悪魔と戦えないでしょう? それなのに、あの裁判所の奴らはここに貴方を送り付けた。本当に非情な奴らね」


フィオナ「あたしは自分の意思でここに来たんだ。子ども扱いなんてするな」


デルフィナ「そういう話じゃないんだけれど…、こほん。悪魔がどれほど強大なのか貴方は知っているの? 小さなナイフで抵抗できるような相手じゃないわ」


デルフィナ「それこそ、レッドテイルのような歴戦の戦士かアーツを使って応戦するしかないの。アーツだって、エーテルを扱う練習をしなければ実戦で扱えないんだし。貴方はアーツを使えるの?」


フィオナ「……使えない」


フィオナ「じゃあ、あいつは?」


レッドテイル「エピファニアのことか? 戦闘技術と経験だけならアタシと互角だ。どっちが強いかと言えば、もちろんアタシだがな」


デルフィナ「血生臭い話はここで終わりよ。別に今からできることが少なくても、少しずつできればいいんだし、とりあえず私についてきてくれる?」


フィオナ「……あいつ、エピファニアが消えるとここにいる人も困るのか?」

デルフィナ「そうね。彼女が卓越した戦闘能力を持っているのもあるけれど、彼女がいるから私たちは補給を受けられてる」


フィオナ「……?」

デルフィナ「知らなくても仕方ないわ。この国は聖都に近いから、魔女裁判が活発に行われている。他の国ではここまで過激じゃないのよ」


デルフィナ「はぁ、皮肉なことに私たちが他の人たちよりも恵まれてるのは、彼女が貴族だから。しかも、血族種なんて高貴な血筋を引いてるから……罪人とはいえ粗末に扱うわけにもいかない」


デルフィナ「国としての体面を保つために刑に処しつつも、囚人として生かし続けなければならない。他は生き残っているところもあれば、数日も経たずに野垂れ死んでいてもおかしくはないそうよ」


フィオナ「そういうことはよく分からない。……デルフィナは頭が良いのか?」

デルフィナ「まあ…確かに教養として多くのことを学んではきたけど、半分はエピファニアから聞いた話だよ」


フィオナ「……あいつは、やってきたことを話したのか?」

デルフィナ「……ええ、エピファニアのしてきたことは許されることじゃない。それでも、私たちが生き延びるには彼女の力が必要だから」


フィオナ「……」

デルフィナ「手慣れてるみたいだった。彼女の故郷は、そんなに酷いところなの?」


フィオナ「あいつは、……あたしのお父さんを殺したんだ」


 *


──ローレアナ、お前の価値を見せてくれ。

幼い少女の声「はい、お父様」


──ローレアナ、お前は一族の最高傑作だ。

少女の声「はい、お父様」


──この家の全てを、お前は継承する資格がある。

少女の声「……」


──ほう、私に刃を向けるか。

少女の声「(わたくし)は殺しそのものに愉悦を見出しているわけではないのよ、お父様。そして、今、ローレアナという名はしがらみに過ぎなくなった……」


エピファニア「お父様、(わたくし)は気づきました。貴方の美学は既に醜悪に歪んでるわ。長く生き過ぎたのよ」


エピファニア「貴方から必要なものは既に得た。あとはもう不要よ」

──ハハッ、流石は私の娘だ。

──だが、足りない。まだ足りない。

──お前に私は殺せない。そして、私はお前を殺さない。

──ローレアナ、ここはこの世界の縮図だ。どこに行こうと、逃れられはしない。

──予言しよう。お前はここに戻ってくる。そして、一族の遺産の全てがお前を主と認めるのだ。


 *


エピファニア「天地にまします我らが主よ。今日も祈りと感謝を捧げましょう」


フィオナ「……」

エピファニア「あら、(わたくし)と話す気になったの?」

フィオナ「あたしはお前を許さない。でも、まだ今は死にたいとも思わない」

エピファニア「ふふっ、それでいいわ」


エピファニア「デルフィナから全部聞いたのよね? そう、(わたくし)は父に向けて刃を向けた。でも、誤解しないでね。罪悪感からしたことじゃないから」

フィオナ「関係ない。あたしはいつか、お前を殺すから」


エピファニア「多くの命を手にかけてきたし、刃を振るう高揚感を好きなのも事実。だから、貴方の仇は間違いなく(わたくし)なの」


エピファニア「最初に刃を握ったのは父にそう教えられたから。もう顔も覚えていない相手だったけれど、ただ丁寧に命を奪った」

エピファニア「次は家のために刃を振るった。裏切り者、反発してきた商売敵、内部の粛清、リストに載ったものから順にね」

エピファニア「そして最後に自身のためにお父様へと……になるはずだったんだけど、命を奪うどころか逃げるので精一杯だった。追っ手を振り切りながら各地を流浪して、あいつの手から逃れられる場所は全然ないことに気づいたの」


エピファニア「それでも、貴方みたいな子を寄越してくるとは思わなかったけどね」

フィオナ「……あたしはお前を殺せれば、それでいい」

エピファニア「そうね、そのためにも生き残らないと。あなただって死にたくはないだろうし、いつかは殺すべき機会が巡ってくる」


エピファニア「それを怖いとは思わないの。興味ないから。誰かに縛られて生きるのなんて、もう御免よ」


レッドテイル「そういや、何でお前は父親に刃を向けたんだ?」

エピファニア「……そんなの、失望したからに決まってるじゃない。家のためといいつつ、無駄な殺しをする趣味はないの」


エピファニア「(わたくし)は誰かの道具じゃない」

レッドテイル「ハハッ、お前がそんな奴だったら同じようなことができても側にはいねぇよ!」


デルフィナ「……酒は程々にしてね。後始末を私にさせないように」

レッドテイル「分かってるって。でも今日くらいはいいだろ?」

デルフィナ「……今日だけよ」


フィオナ「お前、血は飲まないのか? あそこではお前のように紅い目の奴らは、そう言ったのを好んでた」

エピファニア「……血族にとって、血を飲むという行為は嗜好以外の何物でもないわ。そもそも、古い因習でしかないし」


 *


レッドテイル「Zzz……」

デルフィナ「……はぁ、結局私が片付けるんじゃない…」


フィオナ「あたしもやる」

デルフィナ「あら、起きてたの? ありがとうね」


フィオナ「エピファニアはどこ行った?」

デルフィナ「いつも暗くなると何処かに行くわ」


デルフィナ「そうだ。私の話も聞いてくれない?」

フィオナ「? あたしに分かることなら」


デルフィナ「大丈夫、難しいことじゃないから」

デルフィナ「貴方は教会についてどう思う?」

フィオナ「行ったことない。エピファニアみたいな祈るやつ、そんなにいないし」


デルフィナ「やっぱり、変な人よね」

デルフィナ「貴方は街でどんな暮らしをしていたの?」

フィオナ「あたしは盗みをしてただけだ。でも、他の奴は……何処かに拾われて、奪う側になるか奪われる側になるかだと思う」

デルフィナ「貴族に?」

フィオナ「あたしには貴族か分からない。でも、あの街にそんな称号を持つ奴は幾らでもいる。そして、増えたり消えたりしてる」


デルフィナ「……殺し合ってるの? 何のために?」

フィオナ「そんなの知らない。でも、自分の思い通りにしたいだけだと思う」


デルフィナ「やっぱり、理解できない。そんな野蛮な…こほん、醜いだけよね」

フィオナ「あたしも嫌いだ。誰かの都合で、勝手に殺されるから」


デルフィナ「そう、良かった。貴方は優しさを教えられて育ったのね」

デルフィナ「……時間があったらまた話し相手になってくれる? 貴方にアーツも教えてあげるから」

フィオナ「分かった。あたしも……早く強くなりたい」


フィオナ「……そうすれば、きっと早くあいつを殺せる」


 *


デルフィナ「私に何か用かな?」

エピファニア「言い忘れてたわ。あの子、フィオナの教育係をやってくれない?」


デルフィナ「……。私もそうしようと思っていたところなの」


エピファニア「これから来るのが貴方やレッドテイルのような人ばかりとは限らないでしょう? だから、教師になってくれそうな人を用意しようと思ってね」


デルフィナ「……どうして私に?」

エピファニア「貴方がそういうことに興味がありそうだったから。あら、そんな怖い目で見ないで」


エピファニア「元々考えていたことよ。あまり目立ったことはできないけど、力を蓄えないといけないから。備えとして」

デルフィナ「貴方やレッドテイルがいても、国には敵わない。何のために?」

エピファニア「デルフィナ。越冬のために、農民は食料を貯蔵するでしょう。それと同じ。この国はあの地上の楽園ではないし、悪魔との戦いも常に優勢とは限らないの」


デルフィナ「貴方は、どうしたい?」

エピファニア「やりたいように。大丈夫よ。誰かを死なせたりはしない。まずは目の前のことからやりましょう?」


 *


デルフィナ「…さてと。フィオナちゃんとリンベルちゃん。アーツの講義を始めるわね」

フィオナ「分かった」

リンベル「はい、先生! よろしくお願いします!」


フィオナ「……」

リンベル「えっと、な、何か変でしたか?」


フィオナ「いや、お前も何か罪を犯したのかと思って──いたっ」

デルフィナ「……失礼だからね」

リンベル「い、いえ。良いんですよ。わたしは烙印を押されているわけではありませんけど、母がそうだったというだけなので」


フィオナ「ごめん、そんなつもりじゃなかった」

リンベル「だ、大丈夫ですよ。……母はもういませんし、父がどこの誰かも知りませんから。でも、わたしは幸運な方だと思います」


リンベル「魔女の娘というだけで、街の中で暮らしても生きていけるか……。だから、皆さんとの出会いは幸運なんです。えっと、フィオナちゃんも、怪我をしたらわたしのところに来てくださいね。まだ上手くないですけど、治癒をしますから!」

フィオナ「うん、よろしく」


デルフィナ「こほん、授業を続けるね?」


デルフィナ「アーツはエーテルを使って起動させるの。シンプルなものから特殊なものまで様々あるけど、例えば銃の仕組みのように弾丸を打ち出す機構の中に組み込まれていることが多くて……」


フィオナ「……zzz」

リンベル「フィ、フィオナちゃん……まだ数分しか経ってないよ」

デルフィナ「フィオナちゃん、起きて?」


フィオナ「……ん、もう終わった? ──いたっ!」

デルフィナ「さっきのが簡単にエネルギーだけを飛ばすものよ。……次も寝るようだったら、身体に覚えてもらうしかないかな?」

リンベル「ひいっ!」


レッドテイル「ハハ、……怖いなあいつ。お前がやったほうが良かったんじゃないか?」

エピファニア「(わたくし)だったら、指を一本ずつ切り落としてるわよ」

レッドテイル「そりゃ、デルフィナがいたことに感謝しないとな」


レッドテイル「そういや、何でフィオナを受け入れたんだ? お前の父親の仕込みだろ?」

エピファニア「フィオナの意思とお父様の企みは別だから」


 *


デルフィナ「やっぱり、あの女の考えていることは分からない」

デルフィナ「信仰心なんて欠片も持ち合わせていなさそうなのに、毎日敬虔に祈りを捧げている……」

デルフィナ「何かのカモフラージュ? ……狂ってる人の考えなんて、分かるはずもないわね」


デルフィナ「はぁ……儀式の準備をしないと。本当に、この烙印って面倒。悪魔を呼ぶだけで反応しかけるなんて」

デルフィナ「けど良かった。都市に引き入れることはできなくても、少しずつ進めていけばどんな堅牢な壁だって脆く崩れていく」

デルフィナ「……もし彼らが、自らの権力しか考えていないのなら……思う存分味あわせて、それがいかに見栄ばかりのハリボテなのか、思い知らせてやる」


デルフィナ「そう、これは私たち虐げられてきた者たちにできる唯一の反逆。だから、私は貴方を誘いたいと思ったの。フィオナ」


フィオナ「……」

デルフィナ「恐ろしい? 大丈夫よ、彼らは貴方を襲わない。貴方が断ったとしても、襲わせるつもりはないから」

フィオナ「どうして?」

デルフィナ「正直に言うとね、貴方にはムカつくことも何度かあったけど、嫌いではないから。それに、私は貴方の街にいた奴らや貴族みたいになりたくないもの」


デルフィナ「ねえ、なぜ魔女が女性しかいないか知ってる?」

デルフィナ「すごく簡単なことよ。魔女を女性ってことにしたほうが都合がいいから。本当に彼らを信仰する人たちに男女の区別なんてない。本当に馬鹿げてると思わない?」


デルフィナ「誰だって魔女として扱われたくない。当然だよね。けど、それは関係のない人たちまでも巻き込むことになった」

デルフィナ「魔女って存在はあまりにも都合が良かったんだ。嫌いな奴を魔女にしてしまえばいいんだから……あはっ、本当にくだらない」


デルフィナ「教会もばかげてる。公正、慈愛、純真……一体どこの誰がそれを祝福してると言うの?」

デルフィナ「結局誰もが利己的で、その上に立った世界がこんなにも醜いものなら……全部消えてしまったほうがいいかもしれない」


デルフィナ「……ねえ、フィオナちゃん。貴方はどう思うの?」


フィオナ「あたしは、……消えてほしいなんて思ったことはない」


デルフィナ「それはどうして?」


フィオナ「あたしの街では誰もが汚れていた。それでも生きてた。一生懸命。だから、その努力が報われてほしいと思う」


デルフィナ「エピファニアは?」

フィオナ「それとは別だ。あいつは殺さないと」


フィオナ「だって、そうじゃないとお父さんが報われない……ただ日々を生きてただけなのに……」


デルフィナ「……そうね、世界は本当に理不尽。それに、あの獣たちはくだらない人々の諍いをゲームとして楽しんでる」


デルフィナ「世界はどうすれば良くなるのかな? どうすれば人々は協力して手を取り合えるのかな? 夢物語だって分かってても、考えずにはいられないから」


 拍手の音が暗闇に響き渡る。

エピファニア「素晴らしい劇ね」

デルフィナ「貴方っ?!」


 暗闇から伸びた漆黒の線が明かりを貫いた。

 地面に広がる残り火が、エピファニアの紅い目のように燃え上がる。

 銀色の煌めきが触手を粉々に切り刻んだ。


エピファニア「あら、このくらいなら簡単に防げるわ」


デルフィナ「……」

エピファニア「落ち着いて。別に殺しに来たわけじゃないから」


触手「──きゅるるるっ?!」

エピファニア「愛嬌があるわね……でも、こんなに大きいと隠すのも一苦労よ?」


デルフィナ「……何が目的?」

エピファニア「見回ってただけ。一応、監督役は(わたくし)だから」


エピファニア「これの生贄は?」

デルフィナ「……私の血よ。村を襲ってなんてないし、こうすればある程度意思疎通はできるから」

エピファニア「なら、問題にはならなそうね」


デルフィナ「……本当に見逃すつもり?」

エピファニア「今は何もかもが足りないの。それをわざわざ処理する必要はないわ」


エピファニア「──もし、貴方が醜悪な化け物になるかフィオナに手を出していたら、処理してたわ」


 *


デルフィナ「なんで私を…?」

エピファニア「デルフィナがいなくなってしまうのは寂しいもの」

デルフィナ「貴族の冗談は結構よ。うんざりだから、そういうの」

エピファニア「あら、そう思われるのは心外ね。(わたくし)はただ、あの街に連れ戻されたくないだけなのだから。それ以外で本心を隠す必要はないでしょう?」


エピファニア「せっかく同じ身分で話せるのに、その機会を捨てたくないわ。家のために行ってきた交渉術を、ここに持ち込みたくはないもの」

デルフィナ「まるで、この烙印から逃れられるような言い草ね」


デルフィナ「……まさか、貴方の父は自身が殺されかけても貴方を側に置きたいの? 免罪符を使って……」

エピファニア「……捕まったのは、あいつの手から逃れるため。いかにあの自治領を支配している貴族といえど、他領に出れば隠蔽はできないわ。教会もまた一枚岩ではなく、利害が必ず潜んでいるし」


デルフィナ「……狂っているわ」

エピファニア「ふふっ。貴方たちの崇めるあの悪魔ほど、醜悪かつ侮辱的な存在はいないでしょう。ましてや、あれを救いの手と見做すなんて、正気とは思えないわ」


エピファニア「あなたを気に入っているのは、一重にあなたが一生懸命に足掻いているからよ。それが邪道であれ、私を阻まないのであればそれは許されるべきでしょう」

デルフィナ「エピファニア、貴方はあの獣たちを信仰しているのでしょう?! ……その言葉のどこを信じろというのよ」

エピファニア「いいえ、それは違うわ。確かに祈りは欠かさないけれど、その相手がカミなどとどうして思うの?」


エピファニア「私は教会の生き方を尊いと感じているの。この手が血に汚れていたとして、どうして幸せを願ってはならないの? 私は善と定めたものを好んでる。同じように、血も。……最も、手を下してきた彼らが無辜の民だとも思わないけれど」

・エピファニア

 本名 ローレアナ・ナターレ・ウルティム

 種族:血族種 罪状・殺人及び尊属殺人未遂……その他数々の罪状

 かつては社交界を賑やかせた才女であり、その裏で敵対者に報復と襲撃を行ってきた。

 しかし、今の彼女は父の教えを嫌っており、真の自由を求めている。

 魔女の烙印も、あの血溜まりから離れる一つの手段だと考えていたようだ。

 自身の過去に関しては誰に対しても隠すつもりがなく、それは例え仇として見つめてくるものであっても拒否したりはしない。むしろ、その様を見て悦んでいる素振りすら見せる。

 一方で、信心深い面もあり、彼女は裁判の結果を真摯に受け止めている様子も見せた。

 それは習慣として祈りを捧げることからも窺える。

 彼女の危険性は父とかつての環境を嫌いつつも、決して血を見ることに抵抗がない――むしろ血を見ることを嗜好としている点にある。彼女の美学と反する行動を行えば、例え烙印を押された身であろうとも敵対者へと裁きを下すだろう。


「まさか、自由を得るために囚われ人になるとはな」

――因縁のある男

「これが本当の自由? ……心は未だに彼の地に囚われているの。あの血溜まりから逃れるには、長い時間をかけて血を洗い流すか或いは血で血を洗い流すしかないのかもしれない。幸いにも、まだ考える時間があるのだから、そのときが来るまでゆっくり考えましょう」

――エピファニア


・フィオナ

 種族:猫族種 罪状:窃盗及び脱獄

 本来は窃盗程度でここまで送られることはない。

 都市によって法の解釈はそれぞれであり、時としてそれが過剰な罰を生み出す。

 その窃盗が、自身と同じように餓えた子どもたちと生きていく手段であったとしても。

 また、この件には貴族による私的な介入が疑われている。

 特に、エピファニアと同じ出身地から来たことから、彼女との関係性について留意しておくべきだろう。それ以上に特質すべき点はなく、能力も至って平凡であり文字も読めない。自身の身を守る術は得ているが、悪魔に対しては有効打に欠ける。


追記:

 彼女の家族はエピファニアによって処理されており、彼女に対しては感情面での怒りが窺える。しかし、一人の少女がエピファニアに復讐することは不可能に等しい。加えて、魔女の烙印を押された以上は悪魔との戦いを生き延びなければならない。この奇妙な共闘関係はいつまで続くのだろうか……。


「彼女が私を殺したい? 良いんじゃないかしら。それを原動力に、この難局を乗り切れるのなら」

――エピファニア

「彼女は駒に過ぎないのだろう。少なくとも、今はまだ。だが、彼女のような世の理不尽に抗おうとする情熱は誰にも否定できない。法は公正ではなく、カミと名乗る獣たちもゲームに興じているだけだ。もし彼女のような人間が裁判官になれば……願わくば、彼女が自身の道を見つけられるように」――???


・デルフィナ

 種族:鳥族種 罪状:傷害

 彼女は普段物腰柔らかで、多くの魔女たちに慕われている。

 そんな彼女の罪は言い寄った男の頬を思いっきりひっぱたいたことだ。

 そのやりとりがどのようなものだったのか、本人は語るつもりがない。

 彼女にとって不幸だったのは、その相手が貴族のご子息であったことと彼女の村で魔女探しを行っていたことだろう。彼女はその一件で目を付けられることになり、摘発されることとなった。


「もしかしたら、彼女にとっては幸運だったのかもしれないわね。ここにいれば報復もされないし、灯台下暗しとも言うから。あくまで、烙印は本物の魔女を炙り出すための手段。本当の身分がばれていたら、ふふっ、彼女はここに立ってはいないわ」――エピファニア

「本物の魔女? いや、あれは狂ってる。悪魔との融合……おぞましい造反者には適切な裁きを。だが、魔女と自ら名乗るものは自我を売り渡せてはいない。覚悟があるのなら既に深淵へと足を踏み入れているのだから」

――聖堂に向かう途中の聖騎士


・レッドテイル

 種族:???族種

 罪状:領内における殺傷能力の高い武器の所持、使用

 異境から来た傭兵であり、優れた戦闘能力を有する。

 彼女の罪状については、許可地域において未許可の武器を手にしたことである。

 本人の性格は豪胆で、快活。情に厚く、義理堅い。

 しかし、本人はあの場で武器を抜いた理由を法廷ですら決して口にはしなかった。

 また、彼女の奇妙な名前は傭兵家業としてのコードネームであり、名前のない自身につけた初めの名であると語ってくれた。


「エピファニアや他の人は信用できない。でも、この人なら信じていい」

――フィオナ

「あの戦士は一人で戦術部隊規模の脅威になり得る。うん? ……確かに俺には五発しかない。だが、必ずあの邪悪を撃ち抜いてみせるさ」

――シルバーブレット

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