対抗試合
この物語はイジメを助長する目的ではありません。この話はイジメを含む一部作者の体験を織り交ぜたフィクションです。精神的に不安定な方や気分を害す方、感情的になりやすい方などは閲覧を控えてください。
登場人物
早川イサム(勇)
一卵性双生児の兄。弟より小柄で気弱な面もあるが努力家。父のサッカーに憧れる。
早川マサル(勝)
一卵性双生児の弟。明るくて素直な活発な少年。気弱な兄を支える優しい子。いつも兄と勘違いされている。
早川ソウスケ(宗佑)
双子の父親。サッカーJ2リーグのプロ選手。
早川ヨウコ(陽子)
双子の母親。フリーのカメラマン。取材の時に宗佑と出会い結婚。双子を出産している。今は専業主婦になっている
坂口ショウマ(翔駒)
朝比奈学園中等部1年。サッカー部でイサムと仲良くなる。明るく元気だけど少しドジっ子。
山本ナツミ(夏実)
朝比奈学園中等部3年。サッカー部のキャプテン。大柄でぽっちゃりとした優しそうな先輩。口調も性格もおっとりしている。
夜桜イオリ(伊織)
朝比奈学園中等部2年。サッカー部のエースストライカーで長身イケメンだけど言葉遣いが荒いのがちょっとネック。関西弁なので余計にきつく聞こえるが実はすごく後輩思い。
吉岡エミ(恵美)
朝比奈学園中等部2年。サッカー部の女子マネージャー。
柴谷マモル(護)
朝比奈学園中等部1年。野球部で捕手、マサル親友。お調子者だが友達思いの優しい少年。
竹中メグル(廻)
朝比奈学園中等部1年。野球部で元サード。内野ならどのポジションでもこなせる、今はショートで活躍。勝とは仲が良い友人関係。
AチームとBチームの試合が始まる。先行、後行はシンプルにジャンケンで決める。木口が相手にジャンケンで勝、後行有利と言われたりもするが敢えて先行を選んだ。
「柴谷が気付く前に潰すぞ、まあ早川がいる時点で警戒してくる事も想定しとけ」
円陣を組んで声を掛け合う、1番バッターはメグル。サインの確認して打席に立った。
『まずは柴谷が癖通りに投げさせるか見極めますか』
一球目は内角高めにストレート、ギリギリストライクにならずにホッとする。
『早川のデータ通り内角か、なら次は…』
外角低めの球を敢えて見送り再びボール判定になる。
『オイオイ、データ通りかよ。次は投手の好きな球を投げさせるって風早先輩の好きな球は…』
高めから内角に入り込むシュートをギリギリでセフティーバントする。綺麗にサード側に転がるが一歩及ばすアウトになった。
「木口、セフティーのサイン出したのか?」
「いや、竹内の判断だろ。風早のシュートで詰まるのを避けた結果だ」
「それでアウトにされました。すいません」
木口のフォローに反してメグルは自己評価を厳しく見積もっていた。
そうこうしているとキーンと言う打撃音が響き、河田が二塁打を打っていた。メグルは更に自己評価下げ掛けていると
「竹内、反省も大事だが野球を楽しめよ。楽しいと思えんうちは向上しないぞ」
と木口が声をかけて少しだけ肩の力が抜けた。
続いて打撃音が響くとそのボールはネットを超えていた。見ると3番のシンヤが嬉しそうに右腕を掲げて塁を回っていた。
「おいおい、出来すぎだろ。アレが今年から野球を始めた奴のスイングかよ」
思わず三年の森永がベンチから立ち上がる。流石の風早も新人のシンヤにホームランを打たれて動揺したのか続く4、5番に立て続けに打たれて追加点が入り一回表でBチームは合計4点先取した。流石にマモルも自分のミスと気が付き配球を変えてきた。
『何かおかしいって思ったけどマサルくんの入知恵だな…くそぉ』
マモルがマサルを睨み付けているのに気が付きグローブで顔を隠すのだった。
4対0のまま迎えた4回の裏、ついにマサルがマウンドに上がる。肩慣らしの投球練習でミットの捕球音が心地よく響き渡りC、Dチームも手が止まりマサルに魅入ってしまい試合が一時中断していた。
『実際この手で早川の球を受けると速さもだが球質を微妙に変えて投げてきやがる。しかも同じ速度で球質コントロールされたら、知ってても打ちづらいだろうな』
木口が捕球しながら球の分析をしていると1番バッターのマモルがマサルの球に合わせる様に素振りをしていた。
『やはり向こうも一年から打順回しだな』
『マサルくんめ、とりあえずお返しを…って僕に打てるかなぁ』
弱気ながらも一礼をしてバッターボックスに入る。小柄な身体を更に丸めてストライクゾーンを狭くしていた。
一球目は外角低めに入った球をタイミングを合わせてバットを振り抜く、キーンと言う音と共にライト側に球が飛んで行くが惜しくもファールゾーンに転がって行く。
悔しがる暇もなくバッターボックスを一度離れマモルは二度素振りをして、気持ちの高ぶりを抑えつつ冷静にバットを構え直した。2球目も外角低めに緩急を付けた球が飛び込んで来る。
同じタイミングでバットを振るがマモルのバットは空を切った、外角低めはマモルの苦手とするコース、狙われる事は百も承知で空振ったのはタイミングをずらされたからではなく、マモルの苦手意識からくるものだった、それ自身はマモルが一番良く知っている。
頭を切り替えマモルは「オーっす」と声を張り外角低めに狙いを決めて再び挑む、セットポジションでサインに頷くマサルに睨みを効かせ呼吸を整える。3球目は内角高め、マモルの一番得意なコース、しかし狙い定めたコースとのギャップにスイングが乱れてしまう。中途半端なスイングは空を切り3球で終わらせてしまった。
マモルは抑えていた感情が一気に溢れ出し思わず泣いていた。この感情はマサルに対する恨みとかでは無く自分の不甲斐なさに対してだ、自分の癖を見抜かれ4点の失点に加え太刀打ちできないバッティングに対して自分に腹が立っていた。そんな感情の爆破だった。
「あーあ木口泣かしてんの、一年生泣かしてどうするの」
Aチームの三年の林がわざとヤジを入れる
「歓迎会だとしても手は抜かんぞ」
と木口はヤジに返答した。手加減して楽しませるだけが歓迎ではないと木口は考えていて敢えて心を鬼にしていた。
一方で三振とは言えマサルに喰らいついたマモルをAチームベンチは「ドンマイ」「ナイススイング」と暖かく迎え入れた。
「柴谷よくやったな、向こうさんはお前をターゲットしてこっちを崩そうって算段はわかった。捕手のお前を乱して勝つつもりだ、そこでだ…」
林はこう切り出した。マサルの弱点を突くのだと、マモルを知るマサルからの情報で崩されたなら相手にも同じ作戦で行こうと言う話だ。
「それなら…こちらはファールで粘ってスタミナを削る、本人もスタミナ不足を気にしてますし体力を削る事で戦局は変えれると思います」
マモルは親友に出し抜かれた事よりも、親友が本気で戦いに来てる事を知り自分の甘さと決別して考える様にした。
その間2番の先輩も3球で終わらせられていて、3番の尾崎が打席に立ってファールで粘る。作戦通りに進むと思われた6投球目にファールにならずファーストゴロに打ち取られた。ベンチに戻る尾崎が一言
「本当に早川は変化球を「使わなかった」んだよな、いままでは」
マモルに問いかけるが
「ええ。肩や肘に負担のかからない様にと少年団の監督から禁止されてたので…変化球だったんですか?」
「たいした変化じゃ無いが右打席の俺から少し遠ざかるように右に逸れた気がする」
マモルが考える。ハッと頭に浮かんだ変化球は
「ツーシーム!これなら肩や肘に負担無く、しかもフォームを変えずに投げれます」
「いままでに投げた事は?」
「一度も無いです」
尾崎も考えがまとまってきた。二人同時に
「木口だ」
「木口先輩だ」
と一致した。二人の考えはこうだ。おそらくマモルの弱点を突く作戦もそれから取るこちらの作戦の先読みも木口の仕込んだ作戦の一つだと、この後もどれだけの仕込みがあるかも知れないとAチームが考えさせられる事になった。




