第二章 狂い始める街
九日目。
スーパーの前には朝から長蛇の列ができていた。
「開店」と書かれた看板が虚しく光る中、入荷するはずのトラックは一台も現れなかった。
列の人々は口々に不満を吐き出し、次第に怒号へと変わっていく。
やがて誰かが店のシャッターを叩き始めた。
金属の響きが暗闇にこだまし、胸の奥を震わせた。
警備員が止めに入ったが、押し寄せた群衆に弾き飛ばされる。
シャッターが無理やりこじ開けられた瞬間、群衆は獣のように中へなだれ込んだ。
俺はただ立ち尽くし、その光景を見ているしかなかった。
十日目。
街灯の下に座り込んでいた青年が、空を指差して笑っていた。
「見えるか? 星が動いてるんだ」
彼の目はぎらつき、まともに言葉を交わせる状態ではなかった。
周囲の人々も目を逸らし、足早に通り過ぎる。
誰もが他人を避けるように、背中を丸めて歩いていた。
十一日目。
近所のコンビニが燃えた。
原因は分からない。
だが炎が夜を赤く染め、暗闇を照らし出す様子は美しくさえあった。
周囲にいた人々は火を消そうともしなかった。
ただ、燃え盛る光に見入っていた。
俺もまた、その場を離れることができなかった。
十二日目。
ニュースはさらに簡素になり、やがて文字だけのテロップが画面に流れるようになった。
『冷静に行動してください』
その文字を見ながら、俺は思った。
冷静に? どうやって?
夜が続くだけで、人はこれほど脆く崩れていくのか――。




