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第一章 夜の街
夜が明けない四日目、会社は通常通りに始まった。
「異常気象なんて、長くは続かない」
そう言い聞かせるように、上司も同僚もいつものように出社していた。
けれど、照明に照らされたオフィスの空気は、妙に重苦しかった。
窓際の席から見えるのは、暗闇に沈む街のシルエット。
昼休みになっても太陽は現れず、照明の白光が人々の顔を不健康に映していた。
五日目、上司は言った。
「本社からの通達で、当面は在宅勤務に切り替える」
社員の間に安堵が広がったが、それ以上に不安も広がった。
「外に出ない方がいい」という意味なのだろうか。
六日目、コンビニに立ち寄った。
パンの棚は空っぽで、レジ前には長蛇の列。
店員は青白い顔をして、何度も「入荷未定です」と繰り返していた。
物流が止まったのだと、ようやく実感した。
七日目、隣人の老夫婦の家から怒鳴り声が聞こえた。
「電気を消せ! 夜が狂う!」
奥さんの悲鳴と食器の割れる音が闇に響いた。
警察を呼ぼうかと思ったが、サイレンは一度も聞こえなかった。
八日目、ニュースは繰り返す。
『原因は不明です』
『自転の異常が観測されていますが、影響範囲は調査中です』
テレビのアナウンサーの顔も、日に日にやつれていった。
夜が明けないという事実が、
人々から「日常」という言葉を奪っていくのを、俺はただ見ているしかなかった。




