9.家だった場所にサヨナラを
「あ、あの子が神崎家の養子縁組に!?」
「そうだ。」
「神崎家当主からも許可が降りていて既に印ももらっている。後は、お前達の了承と印だけだ。」
「…っ」
鞄を持って凪斗がいる談話室に来てみれば父が何かの書類に印をつけているようだった。
「来たか、舞花」
「うん。ところで、今何やってるの?」
そう言うと凪斗は私のおでこにデコピンをした。
「痛っ…!何するの」
「お前の養子縁組についてだ。」
「私の養子縁組?」
「ああ。」
凪斗は一部始終話してくれた。
私をこの家から出すために、母方の家である神崎家の養子縁組になることを考えて、神崎家に私のことを全て話していたよう。そして、快く養子縁組になるとこを了承して印をもらっていたとのこと。
「そうなんだ。」
印をもらい、凪斗の部下の人が凪斗に書類を持ってくる
「凪斗様、印を貰いました。」
「ご苦労。」
「ということは、私はもう清原ではなく神崎に変わるってこと?」
「そういうことだ。」
と話していると、私が来たことに気づいた美奈子は私の方に駆け寄った
そして手を優しく握ってくる。
「お姉様…本当に出ていくんですか…?」
今にでも泣きそうな雰囲気の美奈子に私は現実を突きつける
「そうだけど?」
「そんな…お姉様、きっと無理して花嫁になることを了承したのですよね?まだ、戻ることができますよ…?戻れば養子縁組なんてしなくても…花嫁になることもしなくてもいいのですよ?」
「…」
あまりの純真無垢に顔が引きつってしまうし
温度以外の寒さがする。
そして、隣にいる凪斗すらも
「…舞花、こいつは何を言っているんだ?」
この引きよう。
昔から美奈子は愛されて生きてきたから
こんなにも純真無垢になったのだろう。
きっと諦めなければ、何とかなって全て元通りというのを想像していたのだろう。
良くもそんな事が考えられる。
私の置かれている環境を目の当たりにしていたくせに。
私は美奈子の手を軽く振り払う。
「お、お姉様…?」
「あなたはいつもそう。
なんでもいいような方向へいかせて…。
私にとって、それは毒でしかないの。
10年以上、一緒にいて私の置かれた環境を目の当たりにしながらもなんでそれが分からないの?
お願いだからもう私にそんなこと言わないで。」
そう言うと、美奈子はこの世の終わりかのような顔をして俯いた、そして床に滴る涙。
それを見て父はまた私を地下室に閉じ込める前の
怒りの形相で私の前に立ふさがる。
「また、美奈子を泣かしたな!?」
私を鋭く睨む父。
この人はいつもそうだった。美奈子を泣かせたり傷つけたりしたら、こんな風に怒ってきて…。
「印を押した時点で、私とあなたはもう他人です。
無論美奈子もです。」
「なんだその言い方は?!他人だとしても私はお前の父親だぞ!?」
「…父親ですって?」
私はそこでプツンと何かが切れた。
それから、私の口から出たのは棘のある怒りの言葉だった。
「何が父親よ。私が生まれる前からお母様を愛さず無視し続けて愛人を作ってたくせに、私が生まれてからも変わらなかったくせに、お母様が亡くなってからこの時を待っていたかのように愛人と愛人との間の娘を連れてきたくせに、愛人と娘と今まで能天気に過ごしてくせに、
そんな奴が今更父親面しないでくれる?」
そう怒りの言葉を吐けば、父は逆行した。
「なんだと…!?」
と言って、私に手をあげようとしていた。
「おい。」
しかし、凪斗が私の前にやってきて父の手を強く掴む。
そして冷めた眼差しで父を見る。
「いくら清原家当主といえどこれ以上俺の花嫁に手を挙げるのは、関心しないぞ?」
「…っ」
力強く腕を凪斗に握られて痛がっている父だけど
すぐさま凪斗に強く腕を振り払われる。
振り払われた衝撃で父は倒れる。
それを凪斗は見たけれど、すぐに私の方に顔を向ける。
「舞花もういいか?」
「…うん。」
そう言うと、ふと後ろから1人誰か来た。
「これは…一体」
来たのは驚くことに、お祖父様だった。
「お祖父様?!どうしてここに…」
「舞花か!」
「もう来られたのですか?」
「はい、凪斗様。」
「え、なんで凪斗とお祖父様が…」
「養子縁組以外の話以外にもお前とお前の母親にやった仕打ちの罰として、今後清原家に援助はしないという話をしていたんだ。」
「そうなんだ…。」
そこまで話をしてくれたんだ。
凪斗って、強引な所はあるけれど優しい1面があるのね。
そう思っていると
「舞花。」
「はい?」
呼ばれて、お祖父様の方を向く私。
お祖父様は私に深く頭を下げた。
「すまない舞花。お前の置かれている環境に気づくことができなくて…!」
「お祖父様…」
「気づけなかった責任として、お前を引き取る。
それから、困ったことがあればいつでも神崎家に相談しなさい。」
「分かりました。」
「うむ。後は私がやるからもうお前はここから出ていきなさい。」
そう言って、お祖父様は父の方に行って
父の胸ぐらをつかみ立ち上がらせて
「よくもうちの娘と孫娘に酷いことをしたな?
…今後の話をしようじゃないか」
と言って引っ張ったまま父をどこかへ連れていった。
そして連れていかれるのを見た美奈子達は後を追っていた。
残ったのは私と凪斗と凪斗の部下の人だけ。
「では行くか」
「うん。」
私は鞄を持とうとしたけれど、凪斗が持ってくれた。
「…!」
「なんだ?花婿としてこれぐらいやらせてくれ。」
「そう…ありがとう。」
凪斗の優しさにドキリとした。
こうして、私は凪斗と一緒に清原家を後にした。