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第8話 嘘のような場所

「……なかなか帰ってこないね」


 飯能さんは、僕と一緒の同じソファに座っている。


「あいつら、まじでなんの説明も、落ち着かない様子で部屋中を歩き回っていた。


 ここは客間なのだろうか?

 数十人が過ごしても十分に余裕のある、かなり広い部屋。

 ソファに、暖炉。

 目の前のテーブルのグラスには、透明できれいな水が注がれていた。


「ここまで歩かせたくせに待たせるとか………扱いが雑すぎんだろうが」


「まぁでも、目覚めた不気味な部屋に比べたら、ここは全然ましだけどね」


 ―――『しばらく私たちだけで話をするから、悪いけどここで待っていて』

 そう言って、少女たち3人はどこかに消えてしまった。


「川越君、ケガとかは大丈夫?」


 隣に座っていた飯能さんは、心配するようにこちらを見る。


「はい。倒された時に少し腕に痣が出来たぐらいで、他は大丈夫です」


「本当にごめんなさい。私に任せてとか偉そうなことを言った癖に、君に怖い思いをさせてしまって」


「あの状況じゃあどうしようも出来なかったろ! 俺等だって下手に動いたら、撃たれてたのは間違いねぇんだから」


「それでも……川越くんがケガをしていい理由にはならないよ」


「飯能さんのせいじゃないですから、気にしないでください……」


 死ぬんじゃないかと怖かった。

 理不尽だと思った。


 でもそれは、別に飯能さんのせいじゃない。


「サエでいいよ。名前で呼んでもらった方がしっくりくるから。私も、アイネ君って呼んでいい?」


「アイネで構いません。年下ですから。」


「ありがとう、アイネ。それじゃあ大宮君は、タクミって呼んでいいかな?」


「……好きにしろ。ただ、それなら俺は普通にあんたをサエって呼ばせてもらうからな。先輩後輩みたいな関係は好きじゃねぇんだ」


「うん、構わないよ。……ねぇ、タクミ、アイネ。正直今は何も分からないし、物騒なことに巻き込まれているのかもしれない。ただ、何もしないで待っているのもなんだし、少し3人で話をしない? 少しは気が紛れるだろうし」


 確かに、このまま黙っていたら、頭がどうにかなってしまいそうで怖い。


 誰かと何かを話していられるのは……助かるかな?


「はい。かまいません」


「…………他にやることもねぇしな」


 タクミさんは僕たちに向かい合う形で、反対側のソファにどんと足を組んで座った。


「ありがとう。じゃあまずは自己紹介から。私は飯能紗恵はんのうさえ。白石女子高校の3年生で、テコンドー部のキャップテンをしていました」


「大会常連のアスリートなんだろ?」


「まぁ嘘じゃないけど、あれは君たちに安心して欲しくて言っただけのことだから、あんまり気にしないで……。ここに来る前の記憶の最後は県大会の日の帰り道、決勝戦で負けてとぼとぼ一人で帰っていたところまでは覚えているんだけど……そこからがすごく曖昧なんだよね」


「決勝って、やっぱやべぇ強ぇじゃねぇか……」

 

「私はテコンドーしか出来ることがないだけ。……それじゃあ、次はタクミね」


大宮拓実おおみやたくみだ。高校は中退したから通ってねぇ。今はバンドを組んでて、ドラムを担当してる。記憶はそいつらと練習してるとこまでだ。……デビューまでずっと努力してきて、やっとライブハウスのチャンスが巡ってきたとこだったんだ……だからぜぇてぇあいつらのところに帰る! 諦めるつもりもねぇ」


 高校中退。

 バンドマン。


 すごく彼のイメージにあっていると思った。


「それじゃあ次は、アイネ」


川越愛音かわごえあいねです。梅山ばいざん中学2年生です」


 ……後は、何を話せばいいのだろうか。


「特技や趣味はねぇのかよ? ……たとえば音楽を聴くとかよぉ?」


「…………歌は、よく聴いてます」


「何をだよ? 洋楽とかに興味はあんのか?」


 アニソンや特撮とは……さすがに彼の前では言いたくないな。

 ぜったいにバカにされそうな気がする。


「日本の曲を……いろいろ」


「それを邦楽っつぅんだよ。その感じだと、どうせアニメかなんかだろ?」


 どうせって……。

 たくみさんのどこかバカにしたような笑い方に、胸がキュッと締め付けられる。


「何が好きかなんて自由でしょ! ねぇもう一度聞くけど、アイネはここに来る前の記憶は、やっぱり何も思い出せない?」


 ……目覚めるまでの記憶。


「夕方の神社に、1人でいたところまでは覚えているんですけど、その後は……」

 

 思い出せそうで、思い出せないとても気持ち悪い間隔。

 猫か何かが、神社の屋根にいたような……。


「神社に1人って、お前すごく暗いのな」


「………………………」


 僕はこういう、何でもずがずが言う人が凄く苦手だ。

 こんな状況じゃなければ、きっとこの人とは関わることなんて、絶対になかったはずなのに。


「タクミはなんでそんな言い方しか出来ないのよ? ありがとう、アイネ。……やっぱり3人共、どうやってここに来たのか、その記憶がないんだよね」


「そんなの変だろ? 揃ってここに来る前の記憶がねぇとか。これって薬かなんかを、あいつらにもられたってことじゃねぇのか?」


「可能性はあるかもしれない。でも、彼らを見ていると、それは違う気がするんだよね。……上手くは言えないんだけど」


「でもまぁ、そこの水は飲まないことにこしたことはねぇだろうな」


 ………え。もう僕、飲んじゃった。


「ねぇ、ここって何処なんだと思う? 見かけない服に建物、そして燃える刀。……ここって本当に日本なの?」


「いや、あいつら流暢に日本語喋ってんだから日本だろ? どこまで拉致って来たのかは知らねぇけど」


 やっぱり、この2人は……その想定はしていなんだ。

 僕が少しづつ、確信に変わってきたとある可能性に。


 いや、僕だって今も違うと信じたい。

 でも……もう、そう思うしかない。


「アイネはどう思う?」

 

 言うべきなのだろうか?


「僕は……ここは……」


 言いたい。

 でも、こんなことを言って軽蔑されたら……?

 ふざけるなと怒られたら……?


 「この世界は…………」

 

 いや、やっぱり言うべきではない。

 否定されるのは、怖い。


「すいません。なんでもないです」


「ねぇ、アイネ。私は君が何を思っても、それについて責めたりしない。色々な可能性を話したいの。だから、大丈夫だよ」


 サエさんは、僕の肩を優しくさする。


「…………ぼ、僕も、ありえないとは思っています。でも、この可能性がいろいろと辻褄が合うんです」


 ほんと、すごくバカげた話。


 ………それでも、きっと―――。


「ここは、異世界なんじゃないでしょか?」


 きっと僕たちは、この世界に―――。




 異世界に来てしまったのだ。

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