第7話 仲間割れ
「馬鹿野郎がぁあああああああああああ!」
―――びくっ!
響き渡る声。
異様なまでに感情を高ぶらせて、男は怒りを少女にぶつけていた。
「成功したでしょ! じゃねぇよ、その術は禁術だぞ、お前が触れていい術じゃねぇんだぞ!」
「……な! そんなの分かって―――」
「かつて多くの人害を招いたからだけが理由じゃねぇ! 禁術なのは術師の大半が成功せずにその代償で死んだからだ! 成功率ほぼ零。お前、死んだらどうするつもりだったんだ!」
男はひどく感情的になっている。
僕たちのことなど、全く見えていないほどに。
「それにその術は成功したって、おまえの―――」
「うるさい!」
今度は少女が叫ぶ。
「うるさい! うるさい! 危険なのも、その代償だって分かってるよ! それでも、もうやるしかなかったんだ!」
「……だからって………おまえ……」
「あいつらを殺せるなら、私はそれでいい。ヒユナのいない世界に、私が生きていく意味なんてない……ゆきにぃ達だって、そうでしょ?」
「それでも、なんでおまえが……」
「私は全てを失った。何を言われようが、私は間違ったなんて思ってない!」
2人は戸惑う僕らをよそに、言い争いを続けている。
僕たちは、完全な置いてきぼりを食らう。
「ユキマ、何を言ったってもう遅い。ユリは術を実行して既にこいつらを招いた。……どちらにせよ、もう戻せはしない」
「ミツキ、おまえはそれでいいのかよ?」
「ユリの言った通りだ。私にはもう失うものはない。……今更、何の感情も抱けわしない」
「………本当に、それでいいのかよ」
「ただし、ユリが行ったのは禁術。こいつらが本当に使えるのかが分からない時点では、お館様にはまだこの事は伏せておくべきだろう」
「そう……だね。まずは場所を変えようよ。いくら屋敷の離れだからって、この敷地に居れば見つかる可能性が高い。『もくしふだ』や実戦をしたいから、ゆきにぃの屋敷にいったん身を潜めようよ」
「ユキマ、お前がいろいろ言いたいのは分かる。だが、いつまでもこいつらをここに居させる訳にはいかない。……詳しくは九山邸に移動してからだ」
話が一段落ついたのか、彼らは移動の準備をはじめる。
「これからあなたたちは人の目を盗み、この屋敷を出る。出遅れないで」
『ユリ』と呼ばれていた刀の少女は、そう言うと出口へと歩き出す。
「なんの説明もなしに、いきなりついて来いってか?」
「説明なら『九山邸』でしてやる。死にたくないなら黙って突いてこい」
銃を持った女性はそういうと、俺らの背後につく。
「さっさと移動しろ、『きようじん』様」
………きようじん。
さっきから何度も出てくる言葉。
彼女たちは、僕たちにいったい何を期待し、何を求めているというのだろうか。
……………………。
…………。
人目を避けながら夜の街を進み、僕らは別の建物へと案内された。
ここはいったい何処なのか?
外の景色は違和感だらけだ。
明らかに僕が住んでいる街とは異なっている。
僕たちが閉じ込められていたのは、時代劇の武将が住んでいそうな屋敷だった。
だが、所々にコンクリートや鉄が見られ、ガラスなどの装飾、岩か何かで作られた厳重な扉など、現代的な部分も多く、本来の日本古来の城とは違っていた。
逆に今訪れている「九山邸」という建物は、レンガ造りが基調で、どことなく洋風感を漂わせている。
周囲はビルなどの高い建造物がなく、森に囲まれている田舎のような場所。
日本のようで、日本のどこにもない。
それが僕の思ったここの印象だ。
そして倒壊した建物が多く、彼らの言う通りこの場所で何かしらの争いがあったことが分かる。
しかし、驚くべきはそこだけではなかった。
彼らが明かり代わりに、くりかえし小さな火を手から作り出していたことが1番の異常な光景。
おそらくあれが……少女の言う魔術。
ある仮説が、どんどん確信へと変わってしまった。
だけど、それを認めてしまったら、僕は自分を保てるのだろうか……。
このままの精神で、耐えられるのだろうか?
すごく、……怖い。