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第3話 燃える刃

「ねぇ、聞こえる! ねぇ!」


 飯能さんは、少女に起きるよう再び声をかける。


「……ひ、ひゆ」


 何かを、呟いている?


「…………ヒユナ……だめ。そばに」


 うなされるように、少女はくり返し小言を呟いていた。

 

「この子……泣いてるの?」


 飯能さんは少女の目元に指を当てて、優しく涙をぬぐった。


「……ヒユナ……どうして」


 少女が、目を開けた。


「私は……」


 虚ろな目で飯能さんを見つめている。


「私は……何を、ヒユナは?」


 少女は眠気眼にゆっくりと顔をあげて、かすれたような声で問いかけていた。


「ねぇ、大丈夫? すごい傷だけど……」

 

 飯能さんは心配したように声をかける。


「……………はっ!」


 突然、大きく少女は目を開いた。


「…………離せ!!」


「…………きゃ!」


 勢いよく飯能さんを突き飛ばし、少女は地面に転がる。

 そしてすぐに体制を立て直し、かがみながらこちらを睨みつけていた。


 子どもとは思えぬ、あまりにも俊敏なその動きに自分の目を疑う。


「おまえたちは何者だ? 見たことのない羽織り、……『きくさぎ』の残党か?」


「ちょっと待って! 大丈夫、私たちはあなたに何もしないから」


 突き飛ばされた飯能さんは、すぐに体制を立て直し暴れた動物を落ち着かせるような動作でなだめる。


 異常な状況で本来はこんなことを考えているべきではないはずなのに、僕は思ってしまった。

 この子、すごい美少女だ。


「見たことのない変な姿……なんなんだおまえらは?」


「いや、お前のほうが変だろうが!」


「おい! なぜ、お前がそれを持っている?」


 ……唐突に空気が張り付いた。

 叫ぶ大宮さんを見た少女の視線は、恐ろしい程に鋭かった。


「その刀は……私のだぞ」


 その視線の先は彼女の刀。

 奪ったことが、すぐにバレてしまった。


「返せ! あの子の残した刀を!」


 …………あれは……煙?


 彼女のまわりに白い煙のようなものが、円を描いて集まり出す。

 自然発生したと思えない煙たちが、はっきりと目に映っている。

 そしてどんどんと彼女のまわりの煙が大きくなっていった。


 ……なにが、起きているの?


「その刀は、私のだぁぁぁぁぁーーーー!」


 煙にのって、彼女は勢いよくこちらに駆けてきた。


「それは、お前らが触れていいものじゃない」


 少女が大宮さんへと向かっていく。

 あまりにも異常な速さで。

 周囲に大量の煙を巻き上げながら、まるで風に乗るかのようにして飛び、彼の前に詰め寄っていた。

 

「ありえねぇだろ! なんなんだ、てめぇは?」


 あんなの、人の速さじゃない。

 それは人の運動機能という領域を、遥かに超えていた。


疾尾しっびの矢」


「は?」


 謎の言葉を口にした瞬間、大宮さんが後方の壁へと吹き飛ばされる。


「……………あがぁ!」


 勢いよく壁にぶつかり、地面に倒れる大宮さん。

 衝撃のような振動が、ここまで伝わってきていた。


「……………いっ……てぇ」


 刀が大宮さんの手を離れ、床に転がり落ちる。


 少女は転がるようにして飛び出し、すぐさまそれを回収した。

 そして僕たち3人と向かい合うようにして刀を構える。


ねがい火」


 そう唱えた瞬間、刀は火をまとった。


「……なに、なんなの?」


 目の前で起きていることが理解出来ない。

 あんなのに斬られたら…………確実に、死ぬ。


 予想外の展開に誰もが言葉を失い、僕どころか飯能さんですら反応出来ずにいた。


「なんで……刀が燃えてんだよ」


 壁に叩きつけられた大宮さんが、苦しそうにしながらも起き上がる。

 吹き飛ばされ、全身に痛みを感じているはずなのに、そんなことを考えられないほど、目の前の出来事に驚いていた。


 めらめらと燃える炎。

 熱さがここまでしっかりと伝わってくる。


 なのにあの子は、平然とその刀を握っている。


「なぁパイセンよぉ、あんたのテコンドーであいつに勝てるか?」


「あの子、すごい速さであなたの目の前に現れた。目が……追いつかなかった。それにあんなに燃えてる刀を、私にどうしろと?」


「だよなぁ」


「もう一度問う、おまえたちは何者だ?」

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