白昼夢
「なっ、なんだお前ら」
「レネー、遅くなってごめん。お二人も、すみません」
エルがレネーとモーリスとジョシュアに謝った。
「ロッドさんとエルも、今日来る予定だったの。仕事の話で。だから本当に、疑われるような食事会じゃないのよ」
レネーがランダルに弁解した。
「皆さん、とりあえずコーヒーの一杯でも飲みながら話しませんか。入店時に人数分、注文したので」
ロッドが言った。
フンッと鼻を鳴らしたのはランダルだ。
「俺は帰る」
「待ってください、レアードさん。先ほど不貞行為を訴えると仰いましたが、このことですか?」
ロッドが仕事鞄から取り出して、バサッとテーブルにぶちまけたのは、白黒写真だった。
そこに写っている男女二人は、ランダルとアニッサだった。
路端でキスしている写真や、アニッサのアパートに腰を抱き合いながら向かっている写真、見送られながらの朝帰りの写真だった。
一同それに釘付けになった。
「なっ、なななんだこれは、デマだっ」
ランダルは焦って写真をかき集めた。
「いくらでも焼き増しますよ。ネガがあるんで」
「お前っ、俺を付け回したのか。なんの権利があって、こんなことを」
「偶然ですよ。偶然お見かけして、偶然持っていたカメラで撮影しました。奥様の友人として、これは見過ごせないなと思いまして」
「ふざけんな。大体これが何だって言うんだ。深酔いした部下をたしなめて、家へ送り届けて介抱しただけだ。こんなもの、なんの証拠にもならないからな!」
捨て台詞を履いて証拠写真を持ち去ろうとしたランダルの肩が、ドンッとエルにぶつかった。
「あっ」
その衝撃で、エルは手に握っていた物を落とした。
テーブルの上に落ち、コンッと音を立てたものは――
「四葉のブローチ」
皆の視線が吸い込まれるようにブローチに集中した。
「勇気……」
ブローチの赤を見て、ロッドが呟いた。
「知恵……」
ブローチの青を見て、ジョシュアが言った。
それに釣られるように、
「愛」
とエルがブローチの緑を見て言った。
こくりと頷いたモーリスが、
「希望」
とブローチの黄色を見て唱えた。
その瞬間、パァァァと明るい光がブローチから発せられた。
眩しさに目を閉じたみんなが、暖かいそよ風を感じて目を開けると、一人の小さな女の子が立っていた。
夢でも見ているようだった。
夢だろうが幽霊だろうが、レネーには関係がなかった。
ブリジットが目の前にいる。名を呼び抱きしめようとしたが、体がピクリとも動かない。指先も唇も石のように固まっている。
まばたきもせずにただ見つめた。
ブリジットは、レネーと四精霊の顔を見渡して一人一人に微笑むと、もう一度レネーを見て、にっこりと笑った。
そして顔つきを変えると、ランダルに向き直って、両手を大きく横に広げた。
「これ以上はやめて」という制止のポーズに見えた。小さな背中の後ろにいる、レネーと四精霊を守るかのように。
怒っているような、悲しんでいるような顔で無言で父親に訴えると、ブリジットはすうっと薄くなって消えていった。
それはきっと一瞬の出来事で、まるで白昼夢のようだったが、胸に永遠に刻まれる記憶となった。