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きらめく宝石の四精霊

 翌日は休日だった。

 ランダルは出かけるレネーを尾行することにした。


 自分も別方向へ出かけると見せかけて、こっそりレネーの後をつけた。

 地元へ帰るというのは本当らしい。

 その方面行きの列車へ乗りこむレネーの姿を確認し、隣の車両に乗った。


 駅で降りてからも一定の距離を保って、尾行した。まるでスパイになった気持ちで、高揚してきた。

 レネーはとあるレストランの前で立ち止まり、看板を見上げてから中に入った。

 どうやらここで待ち合わせをしているらしい。


 少し間を置いてから入店した。

 店内は思ったよりも広かった。


「いらっしゃいませ、一名様ですか。お好きな席にどうぞ〜」


 店奥から外へ張り出した、テラス席にレネーの姿を見つけた。

 レネーの斜め向かいには、見知らぬ男が座っている。

 一目で美形と分かる風貌だった。

 明るいブロンドにアイスブルーの瞳。少し吊り目だがキリッとした感じのクールビューティーだ。

 それを見た瞬間、頭にかっと血がのぼり、つかつかと歩み寄った。


「レネー、話が違うぞ。やっぱり二人きりで会ってるじゃないか。こいつが例の『ファン』だろ?」


「ランダル!? どうしてここへ?」


「密会の証拠を掴んでやろうと思ってな。おいお前、人の妻に色目を使うんじゃねーよ。ファンだと名乗れば、浮かれてチョロいと思ったんだろうが」


「ランダル、だから全然そういうんじゃないの。ジョシュアさんはモーリスのお友達で。モーリスももうじき来るわ。本当に二人きりじゃないの。ジョシュアさん、ごめんなさい。うちの人が変な勘違いをして」


 突然のことにジョシュアは目を丸くしたが、素早く事態を把握した。

 どうやらこの男が噂の「旦那」で、妻の浮気を疑っているらしい。


 ジョシュアはさっと立ち上がり、挨拶を試みたが、ランダルはそれに被せて畳みかけるように言った。


「大体、大の大人の男がレネーのファンだなんて、白々しいにも程がある。あんな子ども騙しを本気で楽しめるとしたら、低能か変態だ」


 バンッと両手をテーブルに叩きつけて立ち上がったのは、レネーだった。


「いい加減にして! ランダル、いくらあなたでも今の言葉は看過できないわ。あの物語は、『ブリジットときらめく宝石の四精霊』は、ブリジットの物語なのよ。私とブリジット、二人で紡いだ、きらめく宝物なの。私のことはいくら貶したって構わない。だけどブリジットの物語と、それを好きだと言ってくれる人を侮辱することは絶対に許さない」


 きっと睨みつけるレネーの迫力に思わず後ずさったランダルは、背後に立っていた人物とぶつかった。


「あわっ」


「お義兄さん、お久しぶりです」


 モーリスだった。

 そのさらに後ろには、困り顔の店員が立っていた。


「あの、お水をお持ちしました」


 隙間を縫うようにしてグラスを置き終えた店員がそそくさと立ち去るまでの間、気まずい空気が流れた。


「とりあえず着席して、注文しますか。話はそれからで」


 とモーリスが言った。


「いや、いい」とランダルが突っぱねた。


「もう証拠は掴めたからな。レネーはこいつとデキてる。俺の前で堂々と擁護したんだ。夫を罵って、浮気相手を庇うなんてな」


「ちょっと待ってください」とジョシュアが慌てた声を出した。


「とんでもない誤解です。いえ、それよりもまず確認したいことが。すみません、頭が追いついてなくて。レネーさんが『ブリジットときらめく宝物の四精霊』を書いた、あのマーク氏なんですか? 本当に……?」


 しまったとレネーは思った。

 レネーがマークであることは隠していたのだ。

 怒りに任せて暴露してしまった。


「あ……」とモーリスが言い、レネーと視線を交差させた。


「そうなんですね! あぁどうりで! 『ブリきら』への深い愛情、尊いです。世界設定の深堀りとか考察話とか、作者様と話せていたなんて感激です。いやぁ知らずに色んなこと言っちゃっててお恥ずかしい。あっ、あのスパイス王のお気に入りスパイスの再現、この前言ってた件、僕なりに成功させたんですよ。それとユーナミの決め台詞のポーズを考えてきてて……」


 急に早口で捲し立て始めたジョシュアに、ランダルはギョッとし、レネーは目を丸くし、モーリスは笑った。


「ジョシュ、興奮しすぎ」

「するだろ普通。大好きなマーク氏がレネーさんなんだぞ。でも腑に落ちるよ。だから好きなんだ」


 言ってからハッとしたようで、慌ててランダルへ向き直った。


「あ、いえ。そういう意味ではなくて。というか、僕が一方的にレネーさんのファンなだけですから」


「ただのファンじゃないだろ、この間男が。訴えてやる!」


「ランダル」

「お義兄さん」


 話が通じなさすぎて、レネーとモーリスが半ば呆れ声を出したとき、


「レアードさん」


 ひときわ強い声が響いた。

 現れたのは、ロッドとエルだった。


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