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ジョシュア・ヒーズマン

 実家の経営が持ち直し、少し余裕ができた弟とレネーは、それからもたまに会って話をするようになった。

 地元へは列車で往復1時間半の距離だ。

 大抵はその近くのカフェで、ランチがてら会うことが多かった。


「やっぱりこっちへ帰ってくるとほっとするわ。空気が馴染むわ」


 ランダルとの結婚を機に心機一転、王都の借家に越したが、新しい友人はできずじまいだった。

 頻繁に話すのは、出版社の担当者ロッドくらいだ。そのロッドを紹介してくれた、旧友のエルには感謝している。


 モーリスが思い出したように言った。


「そう言えば前に言ってた、教師してる友達と今度食事に行くんだ。姉さんも一緒にどうかな? 男二人より華があっていい」


「華なんて、あるわけないでしょう。私はモーリスたちより六つも上だし、地味なおばさんよ」


「言ってなかったっけ。ジョシュアは俺より三つ上なんだ。姉さんとそんなに離れてないよ。落ち着いててしっかりしてるし。お義兄さんより大人なんじゃないかな」


 モーリスがお義兄さんと呼ぶランダルは、レネーより五つ年上だ。

 最近のランダルは、自宅には寝に帰っているようなもので、夫婦の会話はますますなくなっている。

 家に帰らない理由を問うと「仕事だ」と言い張り、不機嫌になる。


 ランダルに女性の影を感じていたレネーは、「他に一緒に暮らしたい人がいるなら、別れてもいいわ」と先日ついに切り出したが、


「別れてもいいだと? 病気の娘のがいなくなった途端、俺は用済みか? 医者代を稼ぐ役割がなくなったらもう不用品なのか?」


 と怒り出した。


「そ、そうじゃないわ……ブリジットと私を養うために身を粉にして働いてくれたからよ。これ以上、あなたを縛りたくないの。他に好きな人がいるのなら……」


「そんなものいない。それに言われなくたって、今まで苦労した分、好きにさせてもらう。お前も作家大先生になって、稼いでるしな。俺の稼ぎは、俺の事業のために使うからな」


 そういって家に生活費を入れてくれなくなったが、ランダルはほぼ家の外で生活をしており、実質レネーの一人暮らしのようなものだ。


 そのため、そう言われてしまえば生活費を請求することはためらわれ、レネーは堅実に暮らしてやり繰りをしている。


 これならいっそ離婚したほうが良いのでは、と思うものの、「今まで養ってやったのに用済みか?」と怒るランダルを目の前にすると、その話はもうできなかった。


 でもまあこれでいい、とレネーは思った。

 ランダルはブリジットの唯一の父親だ。

 ブリジットへ血を分け、ブリジットと暮らした日々の記憶を共有する唯一の人間だ。


 ブリジットの父親と縁を切ることは、ブリジットとの絆を絶ち切るような気がして嫌だった。

 たとえ夫婦生活が破綻していようと、形だけでも夫婦でいたかった。


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