表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

ロッド・ロバートスン


 ロッド・ロバートスンは、童話作家マーク・リードを口説き落とすことに燃えていた。


 マーク・リードは実は女性で、ロッドの一つ年上の二十六歳で、既婚者だ。


 二年前に彼女が自費出版した本を読み、直感で「これはいい」と感じたロッドは上司に推薦して、その本を商業出版して売り出した。


 最初は少数部を刷って、王都の主要な本屋に置いてもらった。

 購入者の口コミでじわじわ評判となり、クリスマスのプレゼント選びの時期に宣伝を打つと、一気に売れた。

 増刷を重ね、今では第三版を販売している。

 昨年には、物語を短くしてイラストをつけた絵本版を出版し、そちらも人気を博した。


 そして現在、『ブリジットときらめく宝石の四精霊』の続編を書いてほしいとマーク・リードに頼みこんでいるのだが、色よい返事がもらえずにいる。


 彼女にまったくその気がないとも思えない。

 読者から届く「続きが読みたい」「またブリジットと四精霊に会いたい」とせがむ声を伝えると、本当に嬉しそうな顔を見せる。

 一緒に物語を生み出した娘との会話を想起させるという。


 それならばぜひ書いてみませんかと誘うと、


「でも主人が……」と途端に顔つきを暗くするのだった。


 覆面作家、Mrs.レネー・レアードの夫は気難しく、少し面倒な男だ。


 最初に商業本を出版するときには、夫人の個人情報を出さないこと、男性名のペンネームを使うことを条件とした。


 そして初版が売れ、増刷するにあたり、取り分の割合を増やせと言ってきた。

 話し合いを重ね、第二版からは印税を少し上乗せして支払うことになった。


 本は売れても、丸儲けではない。

 作る材料費や人件費はもちろん、販売するにも宣伝するにもお金がかかるのだ。


「それにしたって、作者の取り分が少なすぎる。作品あっての恩恵だろうに。あなた方は甘い菓子にたかる蟻みたいだな」


 辛辣なランダルの言葉を思い出した。

 妻を思っての言葉ならいいが、憂晴らしに暴言を吐いている印象だった。

 その証拠に、ランダルはレネーの作品自体もこき下ろした。


「たまたま運良く売れただけで、調子に乗らないほうがいい。続編を出したところで、売れなければ、前作の評判も下がる。そういう例はごろごろある、そう主人が言うので……」


「前作ほど続編が売れない、それは確かによくあることです。でもまったく売れないことは少ないですし、続編が売れなくても前作の評価が下がることはありません」


 ロッドは食い下がった。


「出だしだけでも書いてみてください。それを拝読しての助言もできます。ただ、僕が読みたいというのもあります。あなたの作品のファンですから。ファンの代表として、続きをせがんでいます」


 レネーはまじまじとロッドを見た。

 赤茶色の髪はいつも少し無造作で、眼鏡の下にはくまがうっすら浮かんでいる。

 原稿の校正で徹夜したり、締め切りから逃げ回る作家を追いかけたりと、日々時間に追われる仕事をしているせいだろう。


 返事を曖昧にし続けているせいで、ロッドの時間を奪っていることを自覚した。

 レネーにも物語の続きを書きたい気持ちはある。しかし……


「期待してくださるのは嬉しいんですが、私一人では無理です。ブリジットがいて、あの子のアイディアでどんどん生まれていった物語なんです」


「そうですか。無理に書けとは言いません。今日はもう一つお話が。『ブリジットときらめく宝石の四精霊』に出てくる四ツ葉のブローチ。あれを商品化してはどうか、という話が出ているんです」


「ブローチを商品化?」


「はい。オーダーメイドするファンがいるくらいですから、公式のデザインで出せば必ず売れると、企画部の提案なんですが。本とセットで特装版にすれば、通常版と別にもう一冊、と買うファンもいるでしょう」


「宝石のブローチ……結構なお値段になりますね」


 物語に出てくるキーアイテムの四ツ葉のブローチは、ルビー(赤)、サファイア(青)、シトリン(黄)、エメラルド(緑)で作られている。


「そうですね。貴族令嬢向けになりますね。特別感を好む層がターゲットですね」


 好きなお話に出てくるキーアイテムを実際に手にできる。

 とても素敵なことだと思う反面、それが叶うのは一部のお金持ちの子どもだけだと思うと、レネーは手放しで喜べなかった。


「少し考えさせてください」


「ご主人に相談を?」


「そうですね、一応主人にも……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ