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レネー・レアード


 その後、レネーとランダルの離婚が成立した。


 恨めしそうなブリジットに無言の抗議を受けたランダルは、魂が抜かれたように呆けて、あっさりと離婚に承諾した。

 もう何も文句を言わなかった。


「慰謝料を取れば良かったのに。あっちが浮気してたのは、絶対間違いないんだから」


 エルが言った。


「取るお金ないもの。資産も貯金もほとんどないのよ。起業した事業の経営が大分苦しくなってるみたい。それにブリジットのお医者代や薬代、家事ができない間の家政婦代は、全部ランダルが出してくれていたから。彼の言う通り、『食わせてもらってた』のは確かで、今になってちゃんと感謝してるの。あの頃は、感謝する余裕もなかった。ブリジットのことだけで頭も手もいっぱいで、ランダルに気持ちを寄せることができなかったから……彼が外に癒やしを求めたのも、仕方がなかったのかなって」


「んなもん、仕方なくないわよ。苦労は分かち合ってなんぼでしょ。でもまあ、レネーがいいならいいけど」


「うん、いいの。正直言うとね、別れられただけですごくスッキリしてるの。晴れて独身って、こんなに良いものだったのね。帰って来るのか来ないのか分からない夫のために、無駄な料理を作らなくて済むし、手抜きするのも凝るのも、自分の気分次第でいいなんて。楽園生活だわ。誰と会おうが、とやかく言われないし」


 ふふっと笑って紅茶をすするレネーに、エルも目を細めた。


「あ、今日の本題はコレね」


 レネーが取り出したのは、一冊の本だった。

『ブリジットときらめく宝物の四精霊』の続編の試作版だ。


 その表紙には窪みがあり、見覚えのある四ツ葉のクローバーのブローチがはまっている。

 ブローチとセットになっている特装版だ。


 ただしブローチについているのは本物の宝石ではなく、色のついたガラス玉だ。

 台座も本物の金ではなくメッキの安物だ。

 全体的に薄っぺらくできている。


「とっても素敵でしょう」


 レネーが言った。

 このブローチをデザインしたのはエルだ。

 エルはジュエリーデザイナーだ。


「すごくいいわ。さすがあたし、センスがあるわ。本のデザインとマッチしてる」


 エルも自画自賛した。

 ロッドから、物語のキーアイテムのブローチを公式に販売しようと持ちかけられたとき、レネーは思った。

 なるべく多くの子どもたちの手に渡るよう、安価なオモチャがいいと。


 本物の金と宝石でできたブローチを買ってもらえるのは、ごく一部の限られた子どもたちだけだ。

 物語好きの子どもたちなら、商品の市場価値に関係なく、価値を見出してくれるはずだと信じた。金ピカでキラキラのアイテムに高揚して、新たな冒険の扉を開いてほしい。


 そういう願いを込めて、オモチャ付きの特装版を作った。

 もちろん、それさえ高価で買えない子どもたちは大勢いる。本はいまだに高級品だ。


 いつかもっと気軽に気安く、誰しもが自分の好きな物語を身近に置ける時代が来ますように。


 そういう夢を語り合う相手が、レネーには四人いる。勇気、知恵、愛、希望の四精霊だ。


 明日は「知恵」の精霊とデートする。




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