27. 運命の決行日(Sideロイド)
「おお! なんと侯爵家嫡男のアラン様まで加わってくださるとは! 心強いことこの上ないですな」
反乱軍の主要人物が一堂に会した集まりの場で、私がアランを紹介すると、ノランド辺境伯は野太い声で豪快に喜びの声を上げた。
他の貴族たちも一様に笑顔を浮かべている。
その中にはミランダ嬢の父である伯爵もいて、アランの読み通り、やはり彼も主要人物の一人だったようだ。
この場には合計20人ほどの貴族たちが集まっていた。
あくまでも主要人物のため、これ以外にも与している者はいるという。
「では改めて確認しましょう。この反乱はあくまでも今の腐った王家を打ち倒し、この国をより良くするためのもの。国に混乱をもたらすのではなく、今のままでは未来のないこの国を救うための反乱でありますぞ」
「「「「おう!」」」」
発起人でもあるノランド辺境伯が皆の意識を統一するべく、集まった貴族たちに語りかける。
さすが戦場で最前線に立ち何万という騎士を率いる武将だけのことはある。
彼の一言一言に引きつけられ、自然と皆の相槌の声が揃っていた。
「その証明として我々には王位継承権第2位であり、王太子の側近として数々の実績もあるブライトウェル公爵が味方に付いてくださった。反乱が成功し王位簒奪した暁には、ブライトウェル公爵に王位に就いていただきます」
「「「「おう!」」」」
「決行は3ヶ月後の王太子殿下とリズベルト王国王女の婚姻の日までになります。婚姻が成立すれば隣国が絡んだ問題に発展するため面倒になる。だからこそそれまでに我々は必ず成し遂げなければなりませぬ」
「「「「おう!」」」」
こうして共通認識を得た私たちはこれからの動きについて計画を練っていく。
最終目的は王位簒奪のため、今の王家の人物、つまり国王と王太子のエドワード様、そして側妃のマティルデ様を制圧して拘束することになる。
国王は静養の地でもう長くない状態であるから、実質はエドワード様とマティルデ様の2人だ。
そのためには王宮を攻める必要があるのだが、私やアランなど王宮へ出入りできる者がいるため、手引きすることは容易い。
2人を拘束するだけなので極力武力行使はしないようにするにしても、王宮内の守りに抗うだけの最低限の戦力は必要だ。
肝心なのはその戦力を集められるかどうかという点だった。
特に反乱軍はノランド辺境伯など王都から離れた北側の土地持ち貴族が多い。
普段王都にいない貴族たちが予定もないのに軍を率いて急に集まってくるというのも怪しいだろう。
王都の貴族たちを引き込むのが近々の課題だと言えた。
「その点は着々と進んでいますぞ。やはりブライトウェル公爵が仲間に加わってくださったというのが大きいですな」
私がその課題を指摘すると、ノランド辺境伯は大きく頷き同意を示したうえで、こう言った。
王都の貴族もエドワード様に不安を覚えている者が増えているそうで、私側に付きたいと考えている者が多いらしいのだ。
「先日の舞踏会で王太子殿下を見限る者が存外多かったのですよ。会話を交わしても今の国の情勢に全く通じておられず、政務は臣下に丸投げな様子が露呈しておりましたからな。それに寵愛する側妃の言いなりのようで、側妃の生家である子爵家を重用することにも反感を持っている者は多いのです」
ミランダ嬢の父である伯爵が、王都回りの貴族の動向を補足するように述べた。
私が思っている以上にエドワード様に対して悪感情を抱いている者は多かったようだ。
「ただし、ブライトウェル公爵の名前が一人歩きして王宮で警戒が強まるのはよろしくないですからな。あくまで反乱軍の首謀者はノランド辺境伯家であると思わせるようにします。ブライトウェル公爵のことはきちんと見極めて必要な人物にのみ伝えて情報漏洩が起こらないように気をつける所存ですぞ」
ノランド辺境伯はさすがにこういった情報の扱いにも慎重な姿勢を見せた。
戦場でも情報によって戦況がひっくり返るということがあるゆえに、心得ているのだろう。
私たちはその後も話し合いを重ね、王都の貴族の引き入れを直近の行動指針とし、これだけ戦力が揃ったら決行をしようという戦力目標を定めた。
各々の役割分担を確認し、その日はそれで解散となった。
◇◇◇
「ロイド様、少しお待ちになってくださいね。エドワード様ったら疲れ果てて私の寝台で寝てしまわれたの。でももうすぐ目を覚まされると思いますわ」
決裁をもらうために先触れを出して訪れた側妃の離宮で、私は待ちぼうけを喰らわされていた。
なぜかエドワード様に代わってマティルデ様がやってきて、当たり前のように私の対面の席に座って紅茶を啜り出す。
エドワード様がいないのをいいことに、誘うような色目を向けられて嫌悪感が込み上げてくるのを止められない。
「そういえばいつぞやの舞踏会では驚かされましたわ。ロイド様がダンスを踊られるのなんて初めて目にしましたもの。お嫌いなのかと思っていましたのに。エドワード様が私に夢中でアリシア様を放ったらかしになさっていたので取り繕ってくださったのでしょう? 顔を隠した女となんて踊っていても楽しくなかったですわよね。次の舞踏会ではぜひ私と踊りましょうね? ふふっ、もちろんエドワード様には私から許可を得ておきますので心配なさらないで」
呆れて物も言えないとはこのことだ。
美しい私と踊りたいでしょう?と言わんばかりの台詞に唖然とする。
言い返すのも馬鹿馬鹿しくて私は口をつぐんだ。
言葉を発するのさえ煩わしくて、こんな女のために余計な労力を使いたくなかった。
……ただでさえこの1ヶ月半、アリシア様に会えていなくて精神的に参っているというのに。
私がはぁと大きなため息を吐き出したちょうどその時、待ち人であるエドワード様が姿を現した。
当たり前のようにマティルデ様の隣に身を寄せて座り、肩に腕を回したエドワード様は「また決裁か?」と面倒そうな顔をして私に尋ねた。
政務の間はマティルデ様には席を外してもらいたいのだが、一向にその様子がないため、重要案件がなかったことをいいことに、私はその場で書類を差し出した。
深いため息とともに眉を寄せたエドワード様は、内容に目も通さず、私に要約を聞きもせず、ひたすらサインだけをしていく。
その様子を見ているフリをしながら、私は側妃の離宮の間取りや人員配置についてひっそり視線を巡らせていた。
役割分担で振られた私の役目は、エドワード様周辺の動きの確認だったのだ。
……やはり人員配置は先日と同じだな。それにほぼエドワード様はマティルデ様と一緒にここにいるから、攻め入るのはこの離宮のみで済むだろうな。2人まとめて一気に拘束できそうだ。
王族を拘束するという点において、その2人がべったりいつも一緒にいるというのは大変に都合が良いことだった。
一直線にこの離宮を押さえれば良いのだから、王宮に被害もあまり出さずに済むだろう。
「これでサインはすべて終わった。もう用はないであろう?」
「ええ、ありがとうございました。これで失礼いたします」
私は一礼してさっさとその場をあとにする。
側妃の離宮を訪れて得た確信は書簡にしたためて、秘密裏にノランド辺境伯へ使いを出した。
それから数日後のことだった。
私のもとに2つの連絡がほぼ同時に入る。
一つは、目標戦力が集まりいつでも決行が可能な状態だというノランド辺境伯からの報告。
そしてもう一つは、叔父である国王陛下の崩御の知らせだ。
……陛下がついにお亡くなりに……。息子であるエドワード様が陛下の築いてこられたこの国を顧みない今、陛下の意志を継ぎ、国の安寧を築けるのは私しかいない。
この2つの連絡を受け、私はいよいよ反乱を実行に移す決意を固める。
決行日は3日後に決まり、その日まで息を潜めるようにいつも通りのフリをして過ごした。
そして3日後――。
ほとんどの人が休憩に入るお茶の時間に合わせて、王宮の周りを反乱軍が囲む。
門番が気づき騒ぎ出した頃、すでに仲間に引き入れていた騎士団の団長とアランとともに、彼らを黙らせ、ノランド辺境伯ら反乱軍を王宮内へ手引きした。
武装した男たちが次々に中へ入ってきて、次第に目撃者も増えて騒ぎになる。
「なにやつ!?」
「侵入者だ、中へ入れるな!」
「武装している、気をつけろっ!」
「あれはノランド辺境伯! まさか反乱か!?」
王宮を守る騎士たちが出張ってきて、侵入者を阻止すべく戦闘が始まり出した。
カキンカキンと剣が交わされる音と男たちの荒々しい声があたりに響き渡る。
「腐った王家を倒すのだッ!」
「この国未来のために私たちは戦うぞ!」
「王太子殿下にはウンザリだ!」
王宮内は騒然とし、初めて戦闘を間近で目にする女性たちは悲鳴を上げて逃げるように走り出す。
いつもの平和なお茶の時間は瞬く間に混乱の渦に巻き込まれた。
「側妃の離宮はこちらだ。エドワード様とマティルデ様を制圧すれば被害も少なくて済む。急げ!」
私は反乱軍の主力部隊を先導して離宮へ走った。
離宮も騒ぎを聞きつけてにわかに騒がしくなりつつあるようだった。
「キャァーーーーッ!」
突然の武装した侵入者に悲鳴が上がる中、エドワード様とマティルデ様がいるであろう寝室を目指して、私たちは一目散に歩みを進める。
途中、離宮を守る兵たちが進路を防ごうとしてきたが、予想していたため反乱軍の主力部隊の一部がそれに応対する。
残りは構わずどんどんと目的地へと侵攻を進めた。
そして到着したマティルデ様の寝室を、断りも入れずに遠慮なく開け放つと、予想通りにそこには人影があった。
「キャッ! 何事ですの!?」
「王位簒奪のための反乱軍だ。側妃のマティルデ様、身柄を拘束させてもらいます」
「反乱軍ですって!?」
寝室内のソファーで寛いでいたマティルデ様に抵抗する術はなく、ノランド辺境伯に簡単に手首を縄で縛られた。
「ロイド様、どういうことですの!? なぜ助けてくださらないの!?」
混乱して髪を振り乱す彼女は反乱軍の中に私の姿をようやく見つけたようで、縋るような目を向けてくる。
それをひどく冷めた目で見つめ返し、私は口を歪めた。
「助けるもなにも、私も反乱軍の一味ですからね。命までは奪わないつもりですから大人しく拘束されておいてください」
「なっ、なんですって!? ロイド様がエドワード様を裏切ったの!?」
「臣下や民の期待を先に裏切ったのはエドワード様です。それがなければこんなことにはなりませんよ。マティルデ様もご存知でしょう? エドワード様が政務を放棄していたことを」
「でもエドワード様は王族ですもの。なんでも許されて当然よ。 政務なんて臣下に任せておけばそれでいいじゃない!」
「高い身分にはその分義務と責任が付随して然るべきなのです。せめて側妃であるマティルデ様がそれを理解している聡明な方で、エドワード様を支えてくだされば良かったのですが。現実は愚行に拍車をかけるだけでしたからね。マティルデ様の罪も重いと言えます」
「私に罪なんてないわ!」
「……ところで、そのエドワード様はどこです? ご一緒ではないのですか?」
キャンキャン吠える駄犬のようなマティルデ様に何を言っても無駄だと察した私は、早々に対話を切り上げる。
そして肝心な質問を投げかけた。
そう、その場にはエドワード様がいなかったのだ。
寝室の中を反乱軍が隈なく捜索しているが、気配がない。
「知らないですわ! 今日は何かご用事があるとかで、少し前に離宮を出て行かれたのです」
「行き先の心当たりは?」
「さぁ、おっしゃらなかったので分かりませんわ。てっきり政務かと思っておりましたもの」
嘘をついているのではとマティルデ様を検分するが、本当に知らないようだ。
てっきりいつものように2人でいるはずだと予想していたが、運が悪いことに当てが外れてしまった。
「マティルデ様の言ってることは事実だろうな。エドワード様は離宮にはいないようだ。捜索範囲を広げなければならないな」
「できるだけ離宮で完結させるつもりでしたが、そうもいかなくなりましたな」
ノランド辺境伯と方針を話し合い、反乱軍の主力部隊はエドワード様のいる可能性の高い本殿を、それ以外の者はまだ未捜索の場所に散らばって探すこととなった。
エドワード様の拘束が成し遂げられなければ、この反乱は失敗に終わる。
逃げられないようになんとしてでも見つけ出さなければならない。
マティルデ様の見張りを一部に任せ、主力部隊は本殿へと急ぐ。
すでに王宮内は反乱軍が攻め入って来たことが全体に伝わっているようで、混乱の渦中にあり、戦う者、我れ先にと逃げ出す者、部屋に籠る者と入り乱れていた。
……アリシア様は大丈夫だろうか。
この混乱状態の中、アリシア様に害が及ぶのではと心配でならない。
だが、今はまずエドワード様を見つけ出して拘束しなければ、アリシア様の無事を確認しに行くこともままならなかった。
「殿下の執務室内、お姿ありませんっ!」
「殿下の居室にもいらっしゃいませんっ!」
「謁見の間と大広間も同じですっ!」
本殿内の捜索が進むが、次々に上がってくるのはいないという報告ばかりだ。
……一体、エドワード様はどこに?
その時、勢いよく反乱軍の一人が駆け込んできた。
「報告しますっ! 変装をした王太子殿下を王宮の正門付近で見かけたという目撃情報がありましたっ!」
「なに、変装だと!? しかも正門ということは王宮を見捨てて逃げだそうとしているのか。本来制圧のために指揮を取るべき立場であるというのに、どこまでも腐っている!」
報告を聞いたノランド辺境伯が猛然と怒り出す。
他の反乱軍の者たちからも逃がしてなるものかという闘志が一層メラメラと激しく燃え出した。
「念のため、引き続き本殿を捜索する部隊と、正門へ向かう部隊に別れ、急ぎ正門へ向かおう」
「賛成ですな。誤情報という可能性も捨てきれないですからな」
ノランド辺境伯が素早く采配を振るい、部隊を分けると、私とノランド辺境伯を中心とした部隊は正門へと急いだ。
「いたっ! あれではないですか?」
正門への道中、ノランド辺境伯が黒いフードを目深にかぶった男を指差す。
黒いフードの男は質素な素材の服に身を包み、一見すると王太子だとは分からない身なりをしていた。
だが、混乱する王宮内を数人に囲まれるようにしてコソコソと移動しており、その囲んでいる男たちの方に私は見覚えがあった。
全く執務をしない取り巻き側近の一部だ。
「間違いない。周りの者に見覚えがある」
私がそう返答すると、待ってましたと言わんばかりにノランド辺境伯が勇足でその集団へと距離を詰めて行く。
それに気づいたエドワード様の取り巻き側近が、怯えたように腰を抜かした。
エドワード様同様遊んでばかりで、戦場に出たこともない軟弱な取り巻きには、さぞや荒ぶる武将であるノランド辺境伯の姿が脅威に見えることだろう。
「ひぃぃぃっ……!」
「反乱軍です。王太子殿下、身柄を拘束させてもらいます!」
バレてしまってはしょうがないと思ったのか、エドワード様はフードをあっさり取り払って姿を現す。
そしてニヤリと笑ってノランド辺境伯を見た。
「王太子であり、次期王である私を拘束するだと? 父上が亡くなった今、私がこの国の最高権力者であると分かっていてこのようなことをしていると申すか?」
「もちろんですぞ。我々反乱軍は腐った王家にこの国を未来を託せません。この国のためにこうして蜂起したのです」
「そなたノランド辺境伯であろう? リズベルト王国との戦で褒章が少なかったことを不満に思っているとか。こんな反乱などせずとも金ならたんまり与えてやろう。私が王となったら重用してやっても良い。そなたの娘を特別に側妃にして寵愛を与えてやってもいいぞ。そうなればそなたも王族の縁戚だ。どうだ、いい話であろう?」
説き伏せる自信があるのかエドワード様は得意げに語り、ノランド辺境伯を懐柔しようとした。
だが、ノランド辺境伯をそれを即座に一蹴する。
「はっ、笑わせないで頂きたいですな。そんなくだらない話に私が乗るとでも? 確かに王家に反感を持ったのは先の戦争の件がキッカケでしたが、今やそれだけではありませんぞ。私はこの国の未来を真剣に憂いているのです。反乱軍の者は皆そうです」
「ふんっ、馬鹿馬鹿しい。国は王家の物なのだから、そなた達が憂う必要などないのだ。それに仮に反乱が成ったとして、誰が国を治めるというのだ? 国を憂うという割に、結局国に混乱をもたらすだけではないか」
「国は王家の物だと堂々と発言なさる王太子殿下はどのみち王の器ではございませんな。ご安心ください。我々は未来をちゃんと考えて反乱を起こしておるのです。なにしろ我々にはこの方がいるのですから、何の問題も不安もないのです」
そう言ったノランド辺境伯が振り返って私を見た。
その視線を追ったエドワード様はこの時初めて私の姿に気づいたようで目を見開いた。
「ロ、ロイド!? お前がなぜノランド辺境伯と共に反乱軍の中にいるのだ!?」
驚きながらも責めるような口調を私に向けてくるエドワード様に冷ややかな視線を送る。
もはや側近である気持ちも、忠誠心のカケラも一切なかった。
お亡くなりになった陛下は素晴らしい国王だったが、ただ一つ、息子への教育だけは不十分だったことが悔やまれる。
「簡単なことですよ。私も反乱軍の一員だからです。エドワード様が拘束されたのちは、陛下が亡くなった今、私が王位に就くつもりです」
「なんだと!」
「エドワード様、王族は特権を享受するだけでなく、立場に応じた責務も果たす必要があるのです。あなたは臣下や民を一度でも顧みましたか? 国はあなたの所有物ではありません。陛下が築いてきた治世を壊しかねないエドワード様に私も危機感を持ちました。政務も完全に放り投げていらっしゃる実態も知っておりますから」
「だからといって、裏切ったのか!? 私たちは血の繋がった従兄弟であろう? なんとも思わないというのか!?」
「最初はもちろんそんなつもりはありませんでした。側近として何度も反乱の兆しがある旨はご忠告したではないですか。それを聞き流されたのはエドワード様です。それに私にも何よりも大切にしたいことができたので、申し訳ありませんが、そのためにこの道を選びました。エドワード様のお命を奪うつもりはありませんし、血縁ゆえの温情としてマティルデ様と一緒にいられるよう同じ場所へ追放するようにいたしましょう」
「なっ……!」
目を丸くして口をパクパクするエドワード様を尻目に、反乱軍へ指示を出し、エドワード様および取り巻き側近たちを拘束する。
エドワード様は拒否するように抵抗したが、所詮はいつも人に守られているだけで鍛えていない身だ。
屈強な反乱軍の男たちにはもちろん叶うはずもなく、負け犬の遠吠えよろしく最後まで抗議の声を上げてはいたものの、アッサリと手に縄をかけられることとなった。
この瞬間、反乱が成立した。
「反乱軍は王家の制圧を完了した。そのため今この瞬間から王宮は、私、ロイド・ブライトウェルの指揮下に入る。反乱軍は正規軍として速やかに王宮内の武装解除にあたり混乱の鎮圧を図れ。抵抗する者や不審な者は一旦拘束、それ以外の者には危害を加えないように」
「「「「はっ!!」」」」
勝利宣言と同時にこの事態を収拾させるための指示を飛ばした私に従い、蜘蛛の子を散らすように一斉に皆が動き出す。
拘束されたエドワード様や取り巻き側近達も引き摺られるように牢屋へと連れて行かれた。
……恐れ多いことに私はこれからこのユルラシア王国の国王になることになる。臣下である自分がエドワード様に放った台詞や今この瞬間を私はずっと忘れないでいよう。二度と反乱など起こらないような治世を築いていくのだ。そして愛する人も必ず幸せにしてみせる。
エドワード様の後ろ姿を見送りながら、私は心の中で自分自身に誓いを立てたのだった。




