3-27思いが踏みにじられる
「今までの旅の思い出の品なんだ、大事なものだからリュートに隠している」
そう言うイデアの美しい顔が僕は化け物のように見えた、何故ならば彼の持っていた思い出の品の中に、そう僕の大事な友人だったティスタの髪留めがあったからだ。僕はなるべく顔色を変えないように、迂闊に声を出さないようにしながら、警備隊の一人として最後までただ話を聞いていた。警備隊は異常な物は何もないとイデアに言って、それから捜索したことを詫びて何もせずに帰った。
領主の館に帰り着くまで僕は真っ暗な道を歩いているような気がした、イデアがティスタたち皆を殺した犯人だったからだ。エルフとして誇り高く生きているように見せかけて、イデアは裏では人間を憎み殺し続けていた。上級魔法も使える強い種族が非力な女性を殺すなんて、それはエルフとしてはとても誇り高い行動とはいえなかった、いやどんな種族でも恥ずべきことだった。
「ソアン、イデアだ。彼が連続殺人犯だった、ティスタの牡丹の髪留めを持っていた」
「それはリタ様!? ああ、なんてことでしょう!?」
僕は警備隊の服を着て領主の館に戻ると誰よりも先にソアンにそう伝えた、それからジーニャスにも同じように証拠の品があったと報告した。ジーニャスも難しい顔をしていた、彼はイデアとの面識はないが、イデアがエルフだということが問題だったからだ。ソアンと以前に話したようにイデアを捕まえて連続殺人犯だと発表すれば、オラシオン国の人間の間にエルフに対する偏見が広がりかねなかった。
「それでも放っておけない、そして今度は絶対に逃がすことができん」
「ええ、そうです。今度逃げられたら、次はきっとありません」
「イデアさんはそのまま、この街から姿を消す可能性が高い」
「都合が悪くなれば移動する、そうやって人間を殺し続けてきたんだろう」
「人間がイデアにしたことは酷いことです、でも仕返しをする相手を間違っている」
「おそらくですが、イデアさんを害した人間たちは……、きっともう殺されているでしょう」
「ソアンの言う通りだろうな、でなければ奴隷であったイデアが自由に動いているわけがない」
「どこかの国の貴族ですね、あの夢が本当だったのならなんて惨い話だ」
「リタ様、それでもイデアさんと戦えますか?」
僕はソアンにそう聞かれて一瞬だが戸惑った、だがあの美しくて強い意志を持っていたティスタが、とても優しく僕の背中を押してくれた気がした。だから僕はもう迷わなかった、たとえ相手がイデアでも殺してでも止めてみせる、そう固く決意してソアンに返事をした。ソアンも覚悟はしているようだった、そうして僕の決意の言葉を待っていてくれた。
「僕は戦える、ティスタたちの仇を討つ!!」
「よしっ、もう迷うなよ。リタ、それにソアン」
「はい、私だって覚悟はできています!!」
「でもこのままではイデアを捕まえる手段が無い」
「俺が今、そのための魔法を開発中だ」
「イデアさんに夜空に飛ばれたら、黒いローブ姿では見失ってしまいます」
「分かりました、ジーニャスの魔法が完成するまで、僕がイデアの注意を引いておきます」
「ああ、頼む。だが必要以上に怒らせるな、やけになられると危ない」
「街中で上級魔法の使い手が暴れたら、死者が何十人出るか分かりません」
イデアが連続殺人犯だということは分かった、でも今の僕たちには彼を捕まえることができなかった。そして今度イデアに逃げられたら、さすがに彼も危険を感じてこの地を去る、そんな気がしてならなかった。だから確実に捕まえるためにジーニャスの魔法に頼ることにした、彼も大魔法使いの名前負けはしていない、人間ではジーニャスは一流の魔法使いだった。
翌日、僕は久しぶりに病気の症状が出た。だから広場へは歌いに行けなかった、だから心配で仕方なかった、イデアが誰か他の人間を殺してしまわないかと何度も思った。そんなふうに心配ばかりしている僕にソアンは言った、そう僕の考えを見抜いたように言ってくれた。
「たとえイデアさんが誰かを殺しても、それはイデアさんの罪でリタ様には関係ありません」
「…………そうだね、ソアン。でも、もう誰にも死んで欲しくない」
「それは私もそう思っています、この街には沢山の知り合いや友人がいます」
「ああ、僕も一緒だよ。かなりゼーエンの街、ここに僕たちも馴染んだものだ」
「リタ様、今はゆっくりと休んでください。そして、体が動くようになったら『飛翔』の練習をしましょう」
「ああ、そうすることにしよう。どうか僕が絶望に負けないように傍にいておくれ、ソアン」
僕は心の病気が出た時には悲観的な考えに囚われてしまう、それを知っているソアンは力強く頷いて僕の傍にずっといてくれた。イデアが連続殺人犯だったというのは僕にとって衝撃だった、それはやはり心にかなりの負担になったようで僕は7日間も動けなかった。その間に殺人が起こらないで欲しい、そう僕もソアンもずっと願っていた。
7日が過ぎて僕が起き上がれるようになった日、その朝から警備隊から悪い知らせが届いた。イデアが殺人を我慢できなくなったのだ、だが今度は狙われた者はまだ生きていた。彼は必死で生き延び回復魔法をかけられてまだ息をしていた、だが失血が酷すぎてこのまま命を落とすという知らせだった。僕たちは狙われたのは誰だったのか、それを聞いて驚き慌てて彼の最期に間に合うように会いに行った。
「アウフ!!」
「アウフさん!?」
「………………」
イデアに狙われたのはアウフだった、一見すると傷痕は残っていなかったが、失血で顔色は真っ青になっていた。それでも生き延びているのは大いなる種族、彼が獣人族で人間よりも体力があったからだった。彼は獣人族だったが人間にしか見えなかった、イデアは彼を人間だと思って殺す相手を間違ったのだ。だがその力ももう尽きようとしていた、なのにアウフは僕たちを見ると笑った、それは少し苦笑するような笑い方だった。
「………………はは、振られちまったです」
「アウフ、君を襲ったのは誰だい?」
僕は連続殺人犯が誰か分かっていたが聞かずにはいられなかった、だがアウフはまた笑って僕の質問には答えなかった、もう命が尽きようとしているのに彼は幸せそうに笑ったのだ。その笑顔はもう死を覚悟している者の笑顔だった、そしてアウフが犯人としてイデアの名前を出す気が無い、そのことを感じさせる決意のこもった笑顔でもあった。
「………………俺、少しだけ彼のことが分かったです。だから俺で最後にしてくれ、そう約束したんです」
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