3-24逃げないように歌い続ける
「……クアリタ・グランフォレ、一度だけ忠告をする、あの曲はもう歌うな。二度と聞きたくはない、そしてこの地を去れ」
「お前が人々を殺すのを止めない限り、僕は何度でもあの曲を歌うだろう。さぁ、大人しく捕まるか、それとも戦うのか選べ!!」
僕の言葉に連続殺人犯の殺気が膨れ上がった、そうしてから次に起こることは決まっていた。上級魔法の使い手同士の戦いは基本的に魔法での戦いだ、僕たちはお互いに上級魔法を唱え終わった。そうして、次の瞬間には同時に二つの異なる魔法が放たれた。異なる上級魔法はお互いにどう影響するのか分からない、上級魔法の使い手は少ないから前例がほとんど無かった。
「『切り裂け広がりし風竜巻』」
「『耐えぬきし烈風での結界』」
連続殺人犯からは物凄い風の魔法が放たれた、全てのものを切り裂く鋭い風の刃が荒れ狂った。僕はジーニャスから犯人が風の魔法を使うと聞いていた、だから同じ風の魔法で自らの身を守った。豪華だった客室は見るも無残な有様となった、壁には切り傷がつきドアは切り裂かれて穴が開いていた。僕の周囲だけは元通りだったが、僕は連続殺人犯がまだ手加減をしていることに気づいた。
本当に一度だけ忠告をするという目的を守っているのだ、そうでなければもっと部屋は酷い有様になったはずだ。僕だって無事でいられたか分からなかった、犯人はかなり風の魔力が強い魔法使いだった。だが次に犯人が使った魔法は意外なものだった、僕は今度はこっちから攻撃に出ることにした。そうして同時に魔法が放たれた、その瞬間に僕だけが目がくらんで見えなくなった。
「『抱かれよ極寒の氷塊』」
「『完全なる強き太陽の光』」
僕は犯人が動けなくなるように凍り付かせようとした、犯人はそのいくつもの広範囲の氷の魔法を、なんと身をひるがえしギリギリのところで避けた。そして次に連続殺人犯が使ったのは眩しい太陽の魔法だった、気の遠くなるような一瞬だけ強い太陽の光がその場を支配した。僕はしばらく目を開けることもできなかった、予想外の攻撃に目に光が焼き付いて犯人の姿を見失いそうになった。
「それではな、忠告はしたぞ。…………リタ。『飛翔!!』」
「待て!! 逃がすものか!!『飛翔!!』」
犯人は黒いローブを身にまとって月の無い夜の空へと消えた、僕もすぐに後を追ったがさっきの太陽の光がまだ目に焼き付いていた。真っ暗な空に黒いローブ姿の連続殺人犯は消えていった、いとも容易く僕の追撃を振り切ってどこへともなく消えてしまったのだ。僕は最後に連続殺人犯に向けて叫んだ、逃げていく犯人に聞こえるように大声で叫んだ。
「僕以外を殺したらお前はただの卑怯者だ、僕はあの曲を歌い続ける!! それはお前が無理やりにでも止めない限り続く!! お前は必ずまた僕の前に来るんだ!!」
僕は悔しくて仕方がなかった、連続殺人犯をせっかくおびき寄せたのに、まんまと逃げられてしまったからだ。あと少しでティスタの仇を討つことができた、あと少しで街の平和を取り戻すことができたのだ。でも僕は連続殺人犯に対して一歩及ばなかった、上級魔法の戦いに慣れてなかったせいもあった。でも一番はやはり夜の闇が犯人に味方したことだった、そんな状況を考えられなかった僕のせいだった。
その頃にはジーニャスが無残な姿になった客室に来ていた、僕は空から降りて連続殺人犯を逃がしてしまったことを詫びた。ジーニャスは少しため息をついたが、やがて僕に向かってこう言った。
「大魔法使いの俺を待たないからだ、いやこれは俺も考えが甘かった。今から父上や俺とシャールたちは別宅に移動する」
「ジーニャス、領主の館から出るのですか、それでは守りが薄くなる」
「でもリタ様、それは良い考えかもしれません。この領主の館ではリタ様と、ジーニャスさんがいる場所が遠すぎるんです」
「それにどうせ大魔法使いの俺の戦いには、リタくらいしかついてこれん。さぁ、移動だ。連続殺人犯が逃げ帰っている、今が良い機会だ!!」
「分かりました、その別宅へ移りましょう」
「リタ様、私も行きます。何もできませんけど、お傍にいさせてください」
そこで僕はソアンを止めるべきだったかもしれない、でも僕にとってソアンは大事な守るべきものだった。だから傍に置いておきたかった、それに傍にいて貰いたかった。それは単なるとても大切な家族としてなのか、いやそれよりもずっと強い感情が僕の中にあった。ソアンから離れていたくない、ずっと傍にいて欲しいという感情だった。だから、僕はソアンにそのまま素直な気持ちを伝えた。
「ソアン、大切な君がいてくれることが嬉しい」
「とても光栄です、リタ様」
「上手く言えないけれど、本当にソアンに僕の傍にいて欲しい」
「はい、分かりました。リタ様、私はずっとお傍にいます」
「ああ、頼む。ソアン、ずっと僕の傍にいておくれ」
「リタ様もです、ずっと私と一緒ですよ」
その時、僕とソアンの関係は何かが変化した。今までの兄のような育て親と養い子ではなく、一人のエルフとハーフエルフとして同等の関係として、そうお互いの強い意志によって傍にいたいと望んだのだ。僕はその時はそのことに気がつかなかった、ソアンがとても嬉しそうにしていたことにも、僕の本当の気持ちが何なのかにも気がついていなかったのだ。
「お引越しするのでしゅ?」
「ああ、そうだシャール。ちょっとだけ、別宅で遊ぼうな」
「リタ様、お体は大丈夫ですか」
「大丈夫だよ、ソアン」
その夜のうちに僕たちは別宅へと移った、ジーニャスの父親の領主は随分回復していた。そして息子から説得され納得して別宅へ来た、その領主の娘であるシャールもどこか大人しかった。別宅が珍しいのかメイドを連れて探検したりしていたが、大抵は父親か兄であるジーニャスにくっついていた。僕とソアンも別宅では何が遭ってもいいように、仲間であるジーニャスからあまり離れないようにしていた。
「俺とリタとの連携が大事だ、それと連続殺人犯を怒らせ続けなければならない」
「つまりはあの曲を歌う場所が必要ですね」
「ジーニャスさんと別行動をして大丈夫でしょうか?」
「今まで連続殺人犯は大抵は夕方から夜に行動している、それに今の犯人はリタ一人を狙うから、昼間で人が大勢いるところはわりと安全だ」
「それなら街のいくつかの広場で歌ってきます、昼間でも歌っている吟遊詩人はいますから」
「もちろん私はリタ様と一緒に行きます、ずっとお傍を離れません」
「夕方になる前には帰ってこい、俺は犯人を取り押さえる方法を考えておく」
「分かりました、夕方までには戻ります」
「もしも私たちが殺されてしまったら、また次の犯行が起きますから気をつけます」
そういうわけで昼の間は僕はソアンと一緒に皆とは別行動をとった、連続殺人犯が襲ってくるのはいつも夕方から夜だ。だから昼間のうちは街のいくつかの広場で例の曲を皆に歌ってみせたのだ、それだけでは間が持たないから他の曲も歌ったが、必ずあの曲を歌って連続殺人犯の注意を僕に集めるようにした。広場で吟遊詩人が歌うことは珍しくないが、僕は銅貨や銀貨を山のように毎日貰うようになった、それだけ僕の歌は多くの人々の関心をかったのだ。
「こうやって僕が歌っているうちは、連続殺人犯は僕だけを狙うはずだ」
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