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1-9決闘する

「おいっ!! この死体あさり!! なんて恥ずかしい男なんだ!!」

「えっと? ヴァンさん、ゾンビになってしまった彼らの死は悼むけれど、でもモンスターになったら遺品は倒した者が自由にしていいはずだよ」

「そうです、リタ様の言う通りです。死体あさりなんて、墓場荒らしみたいなものと一緒にしないでください」


 有名な冒険者が死ぬ、するとそれなりの装備が遺族の手元に残る、それを死者と一緒に埋葬する者もいるらしいんだ。ただし、ヴァンの言うように死体あさりという、墓場荒らしをする者もいて問題になっていた。そう僕は本で読んで知っていたが、今回の場合は話が違っているんだ。僕たちは元は人間であったとはいえモンスターと戦った、だからその戦利品も遺族が直接で願い出てくれば考えるが、基本的にモンスターを倒した僕たちが自由にしていいはずだ。


「ゾンビたちと本当に戦ったのなら、戦利品は基本的に勝利した冒険者の物になります」


 いつの間にか現れたギルドのお姉さんがヴァンに向かってそう言った、ヴァンのほうはまだ何か言い足りないようだった。フィーネとステラもヴァンと一緒になって頷いていた、要は向こうのパーティはゾンビを見て逃げ出した言い訳が欲しいのだろう、まるで小さい子どものようだが冒険者の評判は結構大事なことだ。評判が悪い冒険者は冒険者ギルドの心証も悪くなる、すると良い依頼をまわしてもらえなくなることもあるそうだ。


「はっ、死体あさりをする吟遊詩人なんてなぁ。いまどき珍しいじゃないか、いっそ自分のことでも歌えばいいんじゃないかぁ~」

「その発言、見逃せません。ヴァンさん、私は貴方に決闘を申し込みます!!」

「ソアン!?」


「何!? そ、それじゃ、俺が勝ったらソアンちゃんは俺のパーティに入ってもらう」

「パーティへの加入は強制できないはずですが、あと私が勝ったらもう二度と私たちの前に現れないでください」

「あの、ソアン。決闘なんて危ないことはしなくていいんじゃないかな」


「ははっ、腰抜けの吟遊詩人だな。歌だけ歌ってろ、ローブ男。うん、二度と現れないという条件でいいよ。ソアンちゃん。それじゃ、俺が勝ったらこっちのパーティへの加入を、本当にマジで考えてくれるだけでいい」

「なるほど、それなら構いません。さぁ、決闘です。ギルドの運動場へ行きましょう!!」

「ソアン、本当にやるのかい?」


 ギルドのお姉さんは決闘と聞いても何も言わなかった、これくらいの冒険者同士の小競り合いはおそらく見慣れているのだ。それにしてもソアンが決闘までするなんて、分かっている僕の為だという理由が大きいはずだ。仲が良くなってからソアンは僕が馬鹿にされたり、けなされたりするのが大嫌いだった。ちょっと危ないことだけど、負けても失うものは何もないから大丈夫かな、ソアンが怪我さえしなければそれでよさそうだ。


「ソアン、お願いだから大きな怪我だけはしないでくれ。…………今の僕にはもう癒しの魔法が使えないんだから」

「リタ様、ああ、そんなことは気にしないでください。この決闘は、私自身がやりたいからするんです」


「落ち着いてね、ソアンなら勝てるよ」

「はい、リタ様!!」


 それでギルドの運動場の一角を借りて決闘をすることになった、僕は少しだけ心配していたが冷静に考えてソアンにヴァンが勝てるとは思えなかった。ソアンの洗練された剣術に比べて、ヴァンの方はダンジョンで見せてもらったが、剣をただ振り回してるだけという印象が強かった。


「ヴァンったら、また女の子を勧誘して浮気者ね」

「仕方がありません、それがヴァンです。それにソアンさんは良い戦力になります」

「フィーネ、ステラ、心配はするな。俺が圧倒的に勝つからな!!」


 ヴァンはそんなことを味方のパーティに言っていたが、一応はパーティのリーダーだろうにその頭は大丈夫なのか心配になるくらいだ。それから何か問題になって貰っては困るので、僕はお願いして冒険者ギルドのお姉さんに立会人になって貰った。それにギルドにいた冒険者が何人か見に来た、暇をもてあましているのかソアンかヴァンに興味があるのだろう。


「それでは、これよりソアンさんとヴァンさんの決闘をはじめます。勝利の判定は私が行いますが、不服あれば今のうちに申し出てください」

「俺にはない!!」

「私にもありません」


 そして決闘が始まった、ヴァンがソアンに剣を持って突っ込んでいく、そこには技術も剣技もみえなかった。案の定ソアンは軽くそのヴァンの剣を交わして、そうしてからいきなり物凄いことをした。なんと大剣の刃が無い横っぱらでヴァンを殴り飛ばしたのだ、周囲からうおおおぉぉと大声が上がっている、僕は苦笑いをして思ったなんという荒っぽい業だ。


 最初から僕はこうなるんじゃないかと思っていた、ソアンとヴァンとでは実力が違い過ぎた。そしてこれはドワーフの血からくる怪力があって、大剣使いのソアンだからこそできる荒業だ。ヴァンにしてみれば大きな鉄でぶん殴られたようなものだろう、それから展開はそれこそ一方的だった。ヴァンは二、三度ソアンに大剣でぶん殴られて宙を舞った、ヴァンが蹲って起き上がれなくなったらギルドのお姉さんがこう宣言した。


「勝者、ソアンさん。ヴァンさんは約束どおり、二度とソアンさんのパーティの前に現れないこと」


 決闘が終わったらシーフであるフィーネが慌ててヴァンに駆け寄った、神官であるステラが回復の魔法を彼に使っていた。いいなぁ、僕も昔はああやって回復魔法が使えたんだけど、そうちょっとだけ悲しい気持ちになった。一方のソアンはにっこりと満面の笑顔で僕のところに帰ってきた、それから嬉しそうに僕に勢いよく話しかけてきた。


「リタ様、私は勝ちました!!」

「うん、ソアンは強い。僕は君が勝って、とっても嬉しいよ」


「ええと、リタ様。ああ、あんな回復魔法のことなんて気にしなくていいですよ」

「うっ、ソアンは僕のことをよく分かってるね」


「そんなに悲しそうな顔をしているからです!! でも、無理に笑顔を作る必要はありません!!」

「そうか、うん。いろいろとありがとう、ソアン」


 ソアンには魔法が使えない現状を思い出して、僕が悲しくなったのがすぐ分かったようだ。僕はそんなに分かりやすいのだろうか、でも顔に表情が出ているうちはいいとソアンが以前に言っていた。この家出をする以前の僕はソアン以外の前では作り笑顔で、ソアンと二人きりになったら無表情になっていたそうだ。その頃に比べれば僕は家出して良かったんだろう、またこれから何回もいろいろあるだろうが、改めてソアンに心から感謝した。


「さぁ、ヴァン様。これで堂々と回収した剣たちを売れますよ」

「そうだね、ありがとう。ソアンのおかげで、死体あさりなんて言われなくてすんだよ」


「推しの名誉くらい、私がしっかりと守ります!!」

「ふふふっ、ソアンらしいね」


 さて次は火炎玉の炎の威力でも燃えなかった品々の売却だ、多分だがなにか魔法の加工がされているはずだった。僕たちはまだ興奮がさめない運動場から堂々と出ていって、武器屋に持って帰った長剣や短剣を持ち込んだ。店の店主は丁寧に剣たちを見ていって、最後に感心したようにこう言った。


「こりゃ、見事な魔法剣だなぁ」

読み終わったら広告の下にある☆☆☆☆☆から、一話ごとに★をください、★は何個でもかまいません、貴方の気持ちを★の数にして贈ってください。


例:★大嫌い ★★嫌い ★★★普通 ★★★★良い ★★★★★とても良い などでどうぞお願いします。

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