3-22歌うことから始まる
「必ず連続殺人犯を捕まえる、ティスタ。君の勇気を分けて欲しい、僕がそれをやり遂げられるように」
翌日の僕はいつもの病気の症状が出て動けなかった、でも心の中では固い決心ができていた。必ずティスタたちを殺した犯人を捕まえる、絶対に逃がしたりはしないと決めていたのだ。ソアンは僕を心配してずっと傍についていてくれた、そんな優しいソアンのことが僕は愛おしかった。何故だろうか、以前よりもずっと愛おしくなっていた。
そうして夕方まではベッドで僕は過ごしたが、夕方動けるようになるとすぐに『飛翔』の練習をした。あの連続殺人犯よりも速く、そして素早く魔法を発動し動けるようになるためだ。地道な練習だったが、僕は音楽と魔法に関しては勘が良かった。何日目か何十回目かの練習を経て、ようやく連続殺人犯を捕まえる自信がついた。その翌日はティスタたちのお墓、そこにソアンと一緒に行った。
「ティスタ、それにポエット。彼女たちが世界の理に戻り、安らかなる眠りを得られますように」
「はい、リタ様。彼女たちが世界の大きな光に戻り、安らかに眠れますように」
ソアンは僕のことを心配していたが、僕は今は連続殺人犯を捕まえる、そう決心していたので泣き崩れたりはしなかった。連続殺人犯を捕まえて罪にふさわしい罰を与え、そうしてからきっと彼女たちのために、僕は思いっきり泣けるような気がしていた。それともこの間ソアンを抱きしめて泣いたから、それでもう涙が出ないのかもしれなかった。
「ソアン、君はいつも僕を力づけてくれるよ」
「そうでしょうか、リタ様」
「そうだよ、ソアンがいてくれることがどれだけ有難いことか」
「上級魔法の使い手が犯人では、私はお傍にいることしかできません」
「いや、傍にいてくれることが大事なんだ。僕に大切な者を守ろう、そう思わせてくれるんだよ」
「私が少しでもリタ様のお力になれているのなら、それならとても嬉しいです」
ティスタたちの墓参りの帰りにソアンとそんな話をした、実際にソアンがいてくれることがとても心強かった。実際の戦闘では彼女は非力かもしれない、上級魔法の使い手はそれだけ恐ろしい相手だ。でも守る者がいることで僕は強くなれる、自分だけでなく愛おしい相手を守る、それはとても強い力を与えてくれるのだ。それから、ふと思い出したようにソアンがこう言った。
「そういえばもうすぐ、オラシオン国の建国祭ですね」
「ああ、聖歌隊の話は無くなったと聞いた」
「それではまた歌い手が募集されるのに、リタ様が受けられないなんて残念です」
「今は歌い手になっている場合じゃないか……ら…………」
「どうかされましたか、リタ様」
「いや、ソアン。僕は今度もオラシオン国の建国祭、そこでソロの歌い手になるよ!!」
僕の言ったことにソアンは驚いていた、今の僕たちは連続殺人犯を探していて、歌い手になっている場合じゃなかった。でも逆に考えたらどうだろうか、オラシオン国の建国祭では歌う曲はある程度決められているが、歌い手が希望してそれが良いと神殿に認められたら別の曲も歌えるのだ。そこで連続殺人犯を怒らせるような曲を歌ったらどうだろう、つまりは僕を犯人の標的にするために歌うのだ。
「ソアン、以前ミーティアが歌ったような、犯人を怒らせる曲を歌いたい」
「ええ!? リタ様それは危険です!!」
「確実に僕だけを狙うように、連続殺人犯を貶める曲を歌ってきかせるんだ」
「歌いたい理由は分かりましたが難しい曲になりますよ、下手すると怒った連続殺人犯が他の人を狙うかもしれません」
「そうだから僕だけを狙ってくれるような、そしてゼーエン街の人々を勇気づける曲が良い」
「確かにそんな曲を歌うことができれば、連続殺人犯はリタ様を狙ってくるでしょうが……」
僕は歌い手になりたい理由をソアンに話して聞かせた、彼女は最初は危険ですと反対した。でも僕の決意が固いことを知ると、分かりましたと言ってくれた。これはある意味で賭けだ、連続殺人犯は僕を狙わないかもしれない、そうさせないような曲を作らなければならなかった。ミーティアが作ったような曲だ、連続殺人犯を貶めてそうして怒らせ、僕だけを狙わせなくてはならなかった。
「という計画です、ジーニャス。どうでしょうか、連続殺人犯をおびき寄せるんです」
「うむ、確かに面白い計画ではある。だから曲を作って歌詞を教えろ、それからどうするか判断する」
「はい、それにオラシオン国の建国祭の歌い手に、僕が確実に選ばれなければなりません」
「それは心配はないと思うがな、お前ほどの歌い手は俺は他には知らない」
「いいえ、他にどんな歌い手が出てくるか分かりません」
「領主も歌い手の選考には口出しできんからな、あとはお前の実力と曲次第だろう」
領主の館に帰ったらジーニャスにも僕の計画を話して聞かせた、彼もどこにいるか分からない連続殺人犯を探し出すより、犯人が向こうから僕を狙ってやってきてくれる方が良いと判断した。問題は曲の内容だった、犯人を貶めて僕だけを狙わせる、犯人は大いなる種族を狙わないと言った。だからその発言を覆すような内容にしなければならない、これはとても難しい問題だったがやらなければならなかった。
翌日から僕は『飛翔』の練習をしながら、歌うという器用なことをしだした。『飛翔』の練習だけはしておきたいし、それに歌も練習したかったからそんなことになった。ソアンには歌う鳥のようですと言われた、ジーニャスも全くもってその通りだと言った。だが時間が無かったのだ、歌い手の選考会までは数日しかなかった。
「それではオラシオン国に祝福をこめて歌います」
数日後に行われた選考会で僕は力の限り歌った、優しかったティスタたちのことを考えたら、自然とオラシオン国を称えることができた。ソアンのことを思ったら、勇気づけるような部分が上手く歌えた。そうして僕は神殿の神官から別室で待つように言われた、これで歌い手には選ばれたがソロになれるかどうかは分からなかった。
やはり曲目を決めるのはソロで歌う者の発言が大きかった、自分で作曲したものとなれば尚更そうだった。ジーニャスが歌い手の試験には口が出せんが、曲目を選ぶのには領主として口出しできると言っていた。もう連続殺人犯のための曲もできていた、犯人を徹底的に貶めてそうして僕を狙わせる、それができると判断できる曲だった。
僕はソロで歌えますようにと祈りながら、歌い手としての結果発表を待っていた。歌い手の中にはミーティアやそれにイデアも選ばれていた、特にイデアはかなりの歌い手だったから僕は緊張した。彼の少年の時だけの美しいボーイソプラノは僕には出せないものだった、その代わり成人している僕はかなり広い音域で歌うことができるのだ。やがて神殿の神官がやってきて、前の年と同じようにこう言った。
「それでは結果を発表します、これはちょっと珍しいことですが……」
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