表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/128

3-21花々が世界の光に帰る

「リタ様、ティスタさんが……、ティスタさんが……、あの連続殺人犯に殺されました」

「………………え? なんだってソアン?」


「警備隊がティスタさんの遺体を確認したそうです、しかもリタ様が犯人だと言って捕まえにきています!?」

「何故、僕がティスタを……」


「ポエットさんがリタ様が犯人だと言っています、あのエルフがティスタに振られたから犯人だって……」

「そんな馬鹿なことを? ティスタが殺された? 本当に亡くなったのかい?」


 ソアンは真っ青の顔のまま僕の問いに頷いた、僕は昨夜見た夢はティスタと大きな力で繋がった夢だとやっと理解した。魔力が弱いものでも、ただの人間でも、結局世界の大きな力に帰っていくのは変わらないのだ。だから頻繁に夢の共有が起こることはないが、何か大きなきっかけがあればそれが起こることもあった。ティスタは昨夜に本当に死んだのだ、あの連続殺人犯に殺されたのだった。


「リタ様!?」

「ソアン、僕は大丈夫だからジーニャスを助けてくれ」


 それから僕は街の警備隊に捕まった、僕はこのままだとジーニャス達が危ないと思って、ソアンにそのことをどうにか伝えた。その時の僕にできたのはそれくらいだった、その後は街の警備隊から尋問を受けたがちょうどクレーネ草の副作用が起こって、警備隊を説得できるような答えが返せなかった。僕は街の牢獄にとりあえずは殺人鬼の候補として、そうして囚われることになってしまった。


 僕はその間にティスタのことを考えていた、彼女の優しい姿や力強い生きざま、そんな全てが連続殺人犯によって失われてしまった。ティスタの遺体を見ずにすんだのは良かった、もし見てしまったなら僕は泣き崩れてしまっただろう、生前のティスタのことを思い出して悲しみに溺れてしまったかもしれなかった。


「おい、殺人鬼。お前、何を考えて人を殺しているんだ」

「僕は殺人鬼でも、連続殺人犯でもありません」


「捕まった奴は誰でも最初はそう言う、でも最後には自白するんだ」

「犯してもいない罪を自白なんてできません」


「どうして娼婦や浮浪者、そして今度は裁縫屋まで殺してまわった」

「違います、最初の女性はジェニー、次に殺されたのはカフェスという男性、その次はローシャという女性で子供がいた。また次はプリゼラ、それから次はリーベそしてレーチェ。娼婦や浮浪者という名前じゃない、皆それぞれ大事な名前があった。そして僕の大事な友人のティスタ、それ以上はまだ知らないが、被害者たちにはきちんと名前があるんだ」


 僕は警備隊の尋問を受けたが素直に知っていることを話した、隠すことは何もなかったからだった。警備隊はどうして殺したのかとしきりに僕に聞いた、でも僕は彼らを殺してないのでそれを否定した。ジーニャスという領主の跡取りの友人という肩書は強かった、警備隊は僕に強く出ることもできずに捜査は一向に進まなかった。当然だ、僕は誰も殺していなかったからだ。


「早く連続殺人犯を見つけてください、でも迂闊に追い詰めないで彼は危険な人物です」

「煩い!! 全てお前が殺したんだろう!!」


「僕は誰も殺していない、だから何も恥じることはない」

「殺人鬼のたわごとだ、これから証拠を見つけてやる」


 そんな警備隊との無駄な遣り取りが一瞬間ほど繰り返された、その間に僕はいつもの心の病気も出て起き上がれない日もあった。無理矢理に起き上がらされて尋問されたが、僕の主張は一貫して変わらなかった。警備隊の方もおだてたり、同情したり、脅したりといろんな手を使った。それでも僕は誰も殺していないので、何も言うことがなかった。ただ犯人を見つけて教えて欲しい、それだけを繰り返し言い続けた。


 街の牢の中はじめっと湿っていて不快だったが、僕はずっと幻月花のことを考えていてそれに耐えた。ティスタを殺した連続殺人犯を捕まえたくて仕方なかった、あの美しい幻月花を無残に散らせてしまった奴が憎くなった。それと同時に犯人の過去を思い出して悲しくもなった、誰かが犯人に少し情を向けていたらこんな恐ろしい殺人は起きなかった。でも現実には誰もそんな者はいなかった、犯人はそうして怪物へと変わってしまったのだ。


 僕が牢に囚われてから一週間経った朝のことだった、僕は突然に釈放されることになった。理由を聞いたら警備隊の人々は僕に謝ってきた、何故なら新しい殺人が起こってまた人が殺されたからだった。よく警備隊の話を聞いてみたら、今度殺されたのはポエットだった。ティスタの親友が殺されてしまったのだった、僕は悲しくて胸が痛くなった。


「リタ様!! ご無事ですか!!」

「ソアン、ああ。君にまた会えて良かった、本当に良かったよ」


 やがて牢から出た僕をソアンが僕を迎えにきてくれた、久しぶりに見たソアンを僕は思わず抱きしめた、ソアンも僕のことを抱きしめて優しく触れてくれた。そうしてもらって僕はようやくティスタやポエットが亡くなったのだと、彼女たちが死んでしまったのだと理解した。僕は無言でソアンの肩に顔をおしつけて泣いた、そんな僕をソアンはずっと優しく抱きしめていてくれた。


「リタ様、無理はなさらないでください」

「うん、ソアン。今はとても悲しい、とにかく悲しくて堪らない」


「それがリタ様の心です、正直な心の反応なのです」

「ああ、ティスタにポエット、彼女たちに会いに行かないと……」


「ご葬儀は親しい方たちで済ませたそうです、後で一緒に彼女たちの眠るお墓に行きましょうね」

「そうだね、そうだ。どうか僕と一緒に行っておくれ、ソアン」


 僕とソアンはそうして領主の館に戻った、そこにいる皆は事情を全て知っているようで、落ち込んでいる僕をそっとしておいてくれた。僕はとにかく疲れていて、その夜は眠り薬が効いて深い眠りに落ちた。夢の中では牡丹の花とスミレの花が一緒に咲いていた、でもその花たちは僕の手の届かないところにあった、光に包まれた花たちは美しくて同時にどこか寂しさを感じさせた。


 やがて光が夢の中を埋め尽くして、花々はその光の中に消えていった。でも花たちは消えてしまったのではない、また咲くために一時的に大きな光の元へと戻っていったのだ。僕はそれを嬉しいと思うと同時にとても悲しかった、牡丹の花に手を伸ばして触れようとしたが、僕にはそれができなかった。もう花々は光の中に飲み込まれていた、大きな光だけが僕の手が届かない遠くで輝いていた。


「さようなら、ティスタ。僕の初めての恋人、そして君は僕のとても素晴らしい友人だった」


 僕は涙が溢れて止まらなかった、生き物が世界の大きな光に戻っていくことは知っていた。でも両親が亡くなった時のように、僕は悲しくて堪らなかったのだ。ティスタ、彼女は優しくて美しいそして強い女性だった。でも連続殺人犯に無残に殺されてしまった、どうして彼女がそんな目に遭う必要があっただろう、僕にとって彼女は幸せに生きるべき人間だった。


 いや連続殺人犯に殺された人々は皆がそうだった、世間から少し離れた世界で生きていたが、誰一人として殺されていい人間などいなかった。皆が名前があってそれぞれの思いがあり、そして一日一日を一生懸命に生きていたはずだった。誰も無残に殺される理由はなかった、そんな理不尽なことは許されなかったのだ。


「必ず連続殺人犯を捕まえる、ティスタ。君の勇気を分けて欲しい、僕がそれをやり遂げられるように」

読み終わったら広告の下にある☆☆☆☆☆から、一話ごとに★をください、★は何個でもかまいません、貴方の気持ちを★の数にして贈ってください。


例:★大嫌い ★★嫌い ★★★普通 ★★★★良い ★★★★★とても良い などでどうぞお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ