3-20儚く散ってしまうものもある
「父さま、お休みなさい。大きな世界の力に帰るまで、緑の木々に守られて、多くの精霊が見守る、豊かな森に感謝して、そう優しい風が頬を撫で、光が私たちを照らす……」
僕はシャールの子守歌を聞いて驚いた、おそらくはソアンもそうだった。だからジーニャスを父親から離れないように寝室の隣の執務室に呼んだ、シャールはそのまま父親に子守歌を歌っていた。僕たちはそうしてジーニャスと小声で話した、シャールに新しいお友達が恐ろしい連続殺人犯だと教えたくなかったからだ。
「ジーニャス、犯人はやはり人間ではないと思います。あの子守歌は大いなる種族しか知らない、人間には伝わらなかったものです」
「私もリタ様のお母さまから聞きました、大いなる種族以外では伝わっていない曲です」
「歌は広まることも多い、だからそう簡単に断言はできんが……」
僕たちは無邪気に子守歌を続けるシャールを見ながら無力さを味わっていた、完全に犯人に弄ばれているような気がしていた。ジーニャスは一応はこの街に来て間もない者、それで大いなる種族と呼ばれる人間でない者を調べると言った。僕は同時に『飛翔』の練習をするとジーニャスに言った、このままでは連続殺人犯を見つけても捕まえることができなかった。
翌日も僕は体調が良かった、だから午前中は『飛翔』の練習をした。連続殺人犯よりも高く早く飛べるように、急激な方向転換や物凄い速さに耐えれるように訓練した。それにはクレーネ草の薬の効果が強い物が必要だった、そして一刻練習すると薬が切れ副作用が出るので一刻は休んだ。それからは街にまた殺された人のことを調べに行った、次に殺されたのも娼婦で生きていた頃は路上生活をしていた。
手がかりがありそうな近くの店や住んでいる人に聞きこみをした、すると大抵の人間はとても美人だったが近くの路上で生活されたのは迷惑だと言った。子どもや親族はおらず、殺された娼婦には何も残っていなかった。路上にあった作った家のようなものも、今は別の浮浪者が勝手に住み着いていた。その浮浪者も何も知らないと言った、僕はそんな被害者の女性を寂しい人だと思った。
「ソアン、家も家族もいないなんて、なんだかとても寂しいね」
「はい、リタ様。でもそうせざるを得ない、きっと事情があったのでしょう」
「人間の世界はとても難しい、一度枠組みから外れると下に落ちてしまう」
「エルフの世界では仲間同士は助け合う、上も下もあまりなかったですからね」
「ああ、唯一違うのが長など外と接する者くらいだ」
「人間の世界と接するには、いろんな経験がいるんでしょう」
次に殺された娼婦も同じような人間だった、彼女は家は持っていたが家族はおらず、路上で連続殺人犯に襲われて息絶えた。周囲の人間の反応も同じようなものだった、美しい人間だとは誰もが認めたが、やはりあまり職業のせいか歓迎されていなかった。家も既に別の人間に貸し出されていて、借りている人間も何も知らないと言っていた。
そうしているうちに夕方になったので僕たちは帰ることにした、帰る途中に裁縫屋があってティスタのことを思い出したが、今は会わない方がいいだろうと寄ってみたりはしなかった。そうして領主の館に帰って、今日は収穫がなかったことをジーニャスに報告した。ジーニャスの方では何人か、犯人の条件に合う候補を探し出していた。その中に知っている名前を二人見つけて、僕たちはそのことに少し驚いた。
「アウフ? 彼は獣人族だったのか、気がつかなかった」
「それにイデアさんの名前があります、まぁエルフですから当然ですか」
「明日、二人に話を聞いてみよう」
「そうですね、他にもリストに載っている他種族に話を聞きましょう」
ジーニャスは自分が動けないことが不満そうだった、それに領主の父親が倒れたことで仕事が山ほど増えていた。だから、その代わりに僕たちに頼むと言っていた、そうしてもう一つ興味深い話を聞かせてくれた。それはこの周辺の貴族の話だった、なんでもこの周辺の貴族の間では代替わりが続いていた。もしくは誰か跡取りが亡くなっている、そういう恐ろしい可能性の話だった。
「連続殺人犯とやらは移動している、貴族を殺してまわっているようだ」
「それは本当なのですか!?」
「それじゃ大事件じゃないですか!?」
「貴族は醜聞を好まない、たとえ殺されても隠す者も多い。なんらかの後ろ暗いことがある、もしくは王家に弱みを見せたくないんだ」
「それをいいことに連続殺人犯は移動している」
「この街からもいなくなるかも、もう逃げてしまったかもしれません」
「ソアンの言う通りに逃げ出している可能性もある、だが俺の勘ではアイツは仕返しとやらに拘っている、俺に対してもまた向かってくる気がするな」
「『飛翔』の練習をします、二度と連続殺人犯が逃げ出せないように」
「リタ様の聞きこみの方をお手伝いします、私にできるのはそれくらいですから」
その夜、僕はまた夢を見た。それはとても美しい夢だった、幻月花という僕たちのエルフの世界の花が咲いていた。この花は何年もずっと蕾をつけることに力を注いで、それから枯れる前の一日だけ咲いて花をつけるというものだった。僕も故郷のプルエールの森で見たことがあった、花が咲いたのを見たことはなかった。それを見たのはこの夢が初めてて、思わず息を飲むような美しい花だった。
しかしとても悲しいことにその幻月花は咲いて、そしてから儚く散っていった。そのことが悲しくて僕は思わず涙が出た、とても大切な者を失ってしまったと感じたのだ。そして何故か散ってしまった花びらたち、幻月花は牡丹の花びらのような形をしていた。咲いていた時も大輪の牡丹の花のように見えていた、図鑑で見た幻月花の姿とは違っていたのだ。この花を失ってしまって悲しい、とてもそれが悲しくて僕は目が覚めた。
「ソアン!?」
「………………ふぁ~い、リタ様。何でしょう?」
「ああ、良かった。……ただの夢だったのか」
「ええと、また怖い夢をみられたんですか?」
「いや美しい夢だった、とても美しいが儚い夢だった」
「それは良かったような、寂しいような夢ですね」
翌日僕は思わずソアンの名前を呼んで飛び起きた、だがソアンは僕の腕の中でのんびりと起き出してきた。思わず安堵して涙が出そうになった、また連続殺人犯と繋がる夢を見たのかと思ったのだ。でも違った、ただの美しくて悲しい夢だった。でも何故そんな夢を見たのか不思議だった、僕は幻月花に対して何も執着するような思いはなかったからだ。
僕はソアンに幻月花の話をした、ソアンはその花に似ている花があると言っていた。僕はエルフだから植物に詳しい方だが、ソアンの話してくれた一年に一日だけ花をつけるという話も面白かった。世界には色んな植物があるものだ、ただどうして幻月花の花を夢みたのか、そしてその意味は僕にはその時は分からなかった。
そうやって起きて昨日のように『飛翔』の練習をした、何度も空を飛んで空中を舞う感覚を身につけていった。そんなことをしていた時だった、ソアンが慌てて僕を呼びに来た。彼女の顔色は真っ青だった、だから僕は何が起きたのかと思って空から降りた。ソアンは最初は声にならないようだった、でもようやく絞りだした小さな震える声でこう言った。
「リタ様、ティスタさんが……、ティスタさんが……、あの連続殺人犯に殺されました」
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