3-19風のように逃げ去る
「リタさんもソアンさんも酷いです、もう一緒に遊んであげないのでしゅよ」
「それは寂しいです、シャール様」
「そうですよ、シャール様」
「それじゃ、一緒に新しいお友達と遊ぶのでしゅ!!」
「ああ、新しいお友達ができたのですか」
「どんなお友達なんです?」
「白いローブを被っているのでしゅ、お外からベランダに飛んできたのでしゅ。とても優しくてお話が上手いでしゅ、そして綺麗な高い声で歌うのでしゅ」
「シャール様、その子は!? ソアン、ジーニャスを呼んできてくれ!!」
「はい、リタ様はシャール様のお傍に!!」
シャールは自分が何を言ったのか分かっていなかった、僕とソアンは一度は連続殺人犯に狙われたが、まさか領主の館までやってくるとは思っていなかった。僕は慌ててシャールを抱き上げて、それから彼女を預けることができる者、そんな者がいないか執事に聞いた。執事はシャール様付きのメイドのティアが良いでしょうと答えた、そのやり取りの間中シャールは不思議そうな顔をしていた、でもなんとなく不穏な気配を感じたのかこう言った。
「新しいお友達はどうかしたのでしゅか?」
「シャール様、少しだけメイドのティアと一緒にいてください」
「新しいお友達とは一緒に遊ばないでしゅか?」
「僕たちとジーニャスで、三人でまず新しいお友達に会ってみます」
「優しいお友達なのでしゅ、リタさん。どうか、酷いことはしないで」
「ええ、シャール様。お約束します、新しいお友達が何もしなければ何も起こりません」
そこでソアンが慌ててジーニャスを呼んで連れてきた、彼も領主の館が狙われるとは思わなかったのだろう、とても顔色が悪かったがすぐにいつもの顔に戻ってシャールに話しかけた。
「シャール、少しだけ良い子でお留守番だ」
「ジーニャス兄さま、本当に少しだけでしゅか?」
「ああ、少しだけだ。すぐにまた戻ってくるからな、シャール」
「はいなのでしゅ、待っているのでしゅ」
それからメイドのティアという女性にシャールを預けて、僕たちはシャールの部屋に向かった。そこにはシャールが言った通り、ベランダに白いローブを被ったものがいた。間違いなく探していた連続殺人犯だった、背格好が一致していてそれにこんな場所に普通の人間は入れなかった。領主の館はいつも厳重に警備されているからだ、その白いローブを被った者は高くて綺麗な声で言った。
「あの子は無垢で汚れていない、それに子どもは殺さない。俺が殺すのは美しく恐ろしい者だけ、そして権力をふりかざす汚れた貴族。そう、お前だけだ」
そう言って白いローブを被った者はジーニャスを指さし、次に何故か別の方向を指さした。僕たちには分からなかったが、ジーニャスはそれでハッと気がついたようだ。連続殺人犯と対峙しながら、僕たちにこう頼んできた。連続殺人犯が指さしたのはジーニャスだけではない、彼の父親である領主も殺す対象だったのだ。
「リタとソアン!! 今すぐに父上のところへ!!」
「分かりました、ジーニャス決して油断はしないでください!!」
「そうです、相手は上級魔法の使い手ですよ!!」
僕たちはシャールの部屋を飛び出してすぐに領主の部屋に向かった、場所は以前にジーニャスから聞いたことがあって覚えていて良かった。ドアを叩いても返事が無いので、ソアンと二人で力づくでドアを押し開いた。そうしたら領主であるジーニャスの父親が血まみれで倒れていた、慌てて僕はクレーネ草の薬の効果が強い方を飲む、そうして上級の回復魔法をすぐに領主にかけた。
「『完全なる癒しの光!!』」
僅かな時間の差だったがまだジーニャスの父親は生きていた、酷い傷だったが上級の回復魔法で助けることができた。もう少し遅かったら失血で死んでいた、いやまだ危ない状態だった。だからソアンをその場に残して、近くにいた使用人を呼んだ。そしてすぐに医師を呼ぶようにと頼んだ、それからジーニャスが心配だったので、またソアンとシャールの部屋に戻った。
「人殺しめ、『抱かれよ煉獄の熱界雷!!』」
「だから何だ、『耐えぬきし雷への結界』」
ジーニャスが得意の雷の上級魔法を使っていたが、連続殺人犯はそれを対抗魔法で防いで見せた。そうしてから僕たちに気づいて、あの高くて美しい声でこう言った。
「大いなる種族は汚れてはいけない、こんな貴族と関わってはいけない。そうだ、貴族はいずれ酷いことをする、人間はとても恐ろしい者たちなんだ」
そう独り言のように僕たちに言うと、白いローブを被った者は『飛翔』の魔法で空へと消えていった。ジーニャスはそれを追わなかった、そう追うことができないほど素早かったのだ。あれだけ『飛翔』の魔法を使い慣れている者はいなかった、僕もあんなに早くは飛べなかったのだ。
「父上は!?」
「失血が酷いですが、命はなんとか助かりました」
「ジーニャスさんも、その肩の傷!?」
「上級魔法を使えるとは聞いていたが、あれほど風の魔法に長けているとは思わなかった」
「少しだけじっとしてください、『大治癒』」
「シャール様が無事で本当に良かったです、もうどこも油断ができませんね」
領主が襲われたので館は大騒ぎになったが、ジーニャスが医師を呼び皆を落ち着かせていた。こうなるとジーニャスは領主の傍から、父親の傍から離れられなくなってしまった。何故ならあの連続殺人犯は貴族を恨んでいて、そして上級魔法の使い手に対抗できるのは同じ上級魔法の使い手だけだ。子どもは狙わないということからシャールは心配なかった、連続殺人犯が子どもを殺さない者だったのは僅かな救いだった。
「それで何が分かった、これからは俺は父上の傍を離れられん。お前たちだけがあの犯人と戦える、あいつは一体何者なんだ?」
「それではあまりしたくないですが、これから犯人と共有した僕の夢の話をします」
「犯人のことが分かる夢の話です、辛い話ですが聞いてください」
僕たちは夢の話も含めてジーニャスの分かっていることを全て話した、ジーニャスはその話を聞いてよく考えていた。僕たちが犯人に殺されなかった理由も分かった、大いなる種族とは人間を除いたエルフや獣人族それに悪魔族と竜人族など、人間以外の世界の大きな力と繋がっている種族だ。犯人は人間ではないのかもしれなかった、それならば随分と犯人を絞り込むことができた。
「ジーニャス、犯人はあの言いようからして人間ではないかもしれません」
「あまり考えたくないですが、エルフかもしれないですね。リタ様」
「まだ大いなる種族と決まったわけではない、人間でも別種族だという妄想をもった者かもしれん」
「とにかく犯人の姿を見なくては、探しようがないということですか」
「それは危険です、相手は上級魔法の使い手ですよ」
「そうだ、警備隊にも見つけても追い詰めるなと言っておく、俺とリタ以外は殺されてしまうからな」
「思った以上に厄介です、上級魔法の使い手が犯人というのは怖い」
「上級魔法の使い手は数が少ないけど、それだけの大きな力がある方々です」
「お前たちも十分に気をつけて調査を続けろ、そして相手が分かったら俺とリタ。二人で戦うのが一番良い、絶対に単独で戦おうとするな」
ジーニャスは顔色が悪くベッドで眠っている父親を見ながら、僕とソアンの身を案じてそう言ってくれた。しばらくしたらシャールもこの領主の部屋に呼ばれた、犯人が子どもは殺さないと言ったが、それが変わらないとは限らないからだ。シャールは事情を察しているのか大人しくしていた、ベッドの上の父親を心配して傍にいって子守歌を歌い始めた。
「父さま、お休みなさい。大きな世界の力に帰るまで、緑の木々に守られて、多くの精霊が見守る、豊かな森に感謝して、そう優しい風が頬を撫で、光が私たちを照らす……」
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