3-16ずっと見つめられている
「顔の美しさだけじゃ人間は分からない、心の美しさがどうなのか知らないといけない」
「そんなものはまやかしだ、とても残酷で容赦がない。それが美しい者たちだ、お前たちはそれを知るべきだ」
僕は独り言を言ったつもりだったのに、どこからか高い美しい声で言われたことを否定された。僕もソアンもベッドから飛び起きて周囲を見回した、すると少しだけ窓が開いており声はここから聞こえたようだ。窓を開けて周りを見回したが、もう誰も周囲にはいなかった。僕とソアンはずっと眠っている間、連続殺人犯に見られていたのだろうか、だとしたら宿屋すらもう安全ではなかった。
「これは!? 犯人の挑戦状か、それとも警告なのか」
「酷い嫌がらせです、私たちを嘲笑っています」
そうして身支度を整えて部屋を出てみたら、血で部屋のドアに×印が書かれていた。間違いなく連続殺人犯は僕たちのすぐ傍まで来たのだ、血文字のことは宿屋の主人に言って片づけて貰った。もっと戸締りを厳重にした方がいいとも僕は言った、宿屋の主人も最近の続いている殺人のことは知っていて頷いた。もし宿屋で殺人など起こったら、その宿屋は廃業に追い込まれてもおかしくなかった。
宿屋すら安全でなくなってしまった、僕たちはこれからどうしようかと困ってしまった。ここは宿屋の中でも治安の良い場所にあった、でも連続殺人犯はここまできて血文字を残していった。もし連続殺人犯が殺そうと思えば僕たちは殺されていた、これはもうここの宿屋にはいられないようだ、どこか他の安全な場所を探さなければならなかった。
「ソアン、ちょっと財布には痛いけど、家を借りるのはどうだろうか」
「それはどうでしょうか、リタ様。いろんな人が多くいる宿屋の方が、むしろ安全かもしれません」
「あとは無理だろうけど、ジーニャスに頼んでみようか」
「ああ、領主の館なら確かに一番に安全です」
「問題は僕たちを泊めてくれるかどうかだ、たとえ滞在費を払っても難しそうだ」
「そうですね、連続殺人犯に狙われているのはどの市民も一緒ですから」
僕たちは一応ジーニャスに頼みに領主の館に出かけていった、もう顔なじみなので門番は僕たちをすぐに通してくれた。後はジーニャスがいればいいのだが、彼はこの辺りの領主の跡取りだから、出かけている可能性も高かった。でも運が良いことに僕たちはジーニャスを会うことができた、そうして今までの連続殺人犯のことを彼に話した。
「連続殺人犯、そんな恐ろしい者がいるとはな。まったく頭が痛い、でも現実だから仕方ない」
「僕も最初は信じられませんでした、でも随分と簡単に信じてくれるんですね」
「私のテレビ……本で読んだことを信じるなんて、それは一体どうしてですか?」
「実際に一定の期間をおいて殺人が続いている、しかも同じような傷口を必ず残しているんだ」
「ああ、あの顔につけられた×印ですね。ステラもミーティアも同じ傷を負っていました」
「犯人は何か目印を残したいんです、自分がやったことだと認められたい」
「それに体がめった刺しにされているのも同じだ、しかも被害者は何か持っていた物がなくなっているんだ」
「体が何十回も刺されていることは知っています、でも遺品がなくなっているのは初耳です」
「それは記念品ですね、あとから犯行を思い出すために持って帰ったんでしょう」
僕よりもソアンの方が連続殺人犯には詳しかった、本で読んだだけの知識だと言うが幾つも一致する点があった。だからジーニャスは僕とソアンの話を詳しく聞いてくれたのだ、領主の跡取りとしてこのゼーエンの街の治安を彼は守らなければならなかった。ジーニャスはソアンに幾つも質問していた、ソアンは答えられないものもあったが、大体の質問にはすらすらと答えた。
今のところ分かっていることはこうだった、犯人は美しい者から酷い目に遭ったことがある。美しい人間を殺すのはその惨い仕打ちに対する恨みをもった仕返しだ、いや僕たちが狙われていることからエルフも殺される可能性があった。とにかく高くて美しい声を持った者が犯人で、女性らしいと言われているがはっきりとはしていなかった。
「リタとソアンよ、遠慮なく客室に泊まって行け。連続殺人犯が捕まるまで、気にせず何日いてもいい」
「ありがとう、ジーニャス。それは助かります」
「どうもありがとうございます」
「礼はいらん、体で返して貰う。連続殺人犯をお前たちで見つけ出せ、こちらも独自に調査を進める」
「連続殺人犯を見つけ出せですか、それは厄介な依頼ですね」
「とても危険な行為ですが、あのまま宿屋にいるよりは安全だと思います」
「ついでにシャールの相手をしてやってくれ、元気になったのはいいが今は街にも連れていってやれん」
「ええ、それは喜んで。シャール様の相手をしますよ」
「こんな時は無邪気な子どもは癒しです、シャール様と思いっきり遊ぼうっと」
こうしてしばらく僕とソアンは領主の館の客室を借りることになった、以前にも来たことがあるが豪華な部屋だ。一度宿屋から必要な物だけを持ってきた、宿屋の主人にミーティアが来たらしばらくは領主の館にいると伝言を頼んだ。そして、部屋は借りっぱなしにしておいた。この連続殺人犯の騒ぎが収まったら戻るつもりだったからだ、この街に来てあの宿屋の部屋はとても過ごしやすい場所だった。
「そしてまたこれか、僕は肝心な時に役にたたない」
「リタ様はいつも役に立っています、今日は具合がちょっと悪いだけです!!」
「連続殺人犯の声も聞いたのに、それが誰かも思い出せないなんて」
「私も一緒に声を聞きました、でも誰だかちっとも思い出せません!!」
「自由に動くことのできる体が欲しい、こうしているとあの恐ろしい夢を思いだすんだ」
「今日は偶々リタ様は具合が悪いのです、怖い夢を見ないように私がしっかり見張っておきます!!」
領主の館に来てすぐに僕の心の病気の症状が出た、体が鉛のように重くて動けないというやつだ。こうなると悲観的なことばかり考えてしまう、今はこの間に見たおそらくは犯人の過去、その恐ろしい夢が忘れられなかった。本当に犯人の過去を夢みたのかは断言できない、でも僕の勘ではそうだと感じていた。
そうなると犯人は世界の大きな力を使える者だ、エルフや人間もしくは他の種族で魔力が高い、そしておそらくは上級魔法まで使いこなすことができる者だ。僕はこのことは大切なことなのでジーニャスには伝えてあった、上級魔法の使い手はとても強くて戦うのなら手強かった。大魔法使いだと自称するジーニャスでも一対一で戦えば、その勝敗は分からないとしか言えなかった。
「上級魔法を使える者か、そんな者がやけになると何百人も殺すかもしれない」
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