2-26光の精霊が祝福する
「俺は大魔法使いだ、だからできる、できるはずだ!!『転移!!』」
ジーニャスの命をかけた上級魔法は発動した、そして一瞬あとには僕たちは領主の館の傍に移動していた。全く信じられないことを時には人間はするものだ、『転移』は上級魔法となっているが実際にはとても難しい魔法で、失敗すると壁の中や土の中に出てしまった例もあった。それを三人も一度にこれだけの距離で成功させるとは、人間とは短い時間しか生きないが恐ろしく成長が早い生き物だった。
「……リタ、……エリクサーを……、シャールに……」
「分かりました、ジーニャス。エリクサーを預かりますよ」
「リタ様、ジーニャスさんは私が背負っていきます」
大魔法を使ってジーニャスは死にそうなほど衰弱していた、元々失血で弱っていたのだから彼の魔法が成功したのが不思議なほどだった。それだけシャールの事を、妹のことを大事に思っているのだ。デビルベアから逃げる時に『転移』を使わなかったのは、失敗する可能性が極めて高かったからだ。僕は素早くジーニャスの鞄からエリクサーを預かった、ソアンはジーニャスを背負って三人で領主の館についた。
「……この二人を、……早くシャールの部屋に」
ジーニャスがそう言うと領主の館の門番はすぐに通してくれた、礼儀としては悪いが急いでいたのでそこから走らせてもらった。何人かの使用人を驚かせてしまったが、でも僕たちにとって非常時だから許して欲しい、僕は光の精霊から早く早くと呼びかけられていた。とうとうシャールの部屋についた、僕はノックをする暇も惜しくてすぐに扉を開けた。
そこには青白くなった顔色のシャールがベッドに寝ていた、僕たちが来たことも分かっていなかった。光の精霊がチカチカと輝きながら、シャールの命を繋ぎとめていた。僕はすぐにシャールに近づいて、その冷たくなってしまっている体を支えて薬が飲めるように起こした。まわりの侍女たちはざわついていたが、ジーニャスがいることに気づいてどうにか落ち着いた。
「……リタ、しゃん? ……ジーニャス……兄しゃま……?」
「そうだよ、シャール。君のための薬を持ってきたんだ、さぁどうにか飲んでおくれ」
そうしてシャールが薬を飲もうとした時に、誰だかしらないが邪魔が入った。威厳のある男性の声がして、そしてシャールに向かってこう言ったのだ。
「その薬を飲んではいか……」
「申し訳ありませんが、僕は急いでるんです。『沈黙』」
僕はそれが直感的に領主自身だと感じて、無礼を承知で魔法でその言葉を遮った。それだけシャールには時間がないのだ、ジーニャスが命をかけてかせいでくれた時間、それを少しも無駄にはできなかった。僕が薬瓶をシャールの口元にあてがうと、彼女はコクリコクリとゆっくりとそれを飲み込んだ。そうして変化は劇的にすぐに起こった、シャールの顔色がバラ色のように良くなり、冷たかった小さな手も温かさを取り戻した。
「リタさん!! ジーニャス兄さま!! ソアンさん!! それに父さま?」
「………………」
エリクサーで元気になったシャールはしっかりと僕たちの名を呼んだ、それから父親のことにも気がついたがその父親はエリクサーが使われるのを見ると、何も言えずにシャールの部屋を出ていってしまった。光の精霊が元気になったシャールを祝福するように舞い踊った、そうしてから最後にジーニャスを近づいて光をふりまくとその精霊は精霊の世界へと帰っていった。
「不思議だ、体の不調が全て消えた。シャール、どうだ凄いだろう。俺の仲間であるリタはついにやったぞ、エリクサーを持って帰ってくれたぞ!!」
「はい、ジーニャス兄さま。リタさんはすごいでしゅ、ソアンさんにまた会えて嬉しいでしゅ」
ジーニャスの体を治して光の精霊は帰っていった、本当に慈悲深く優しい素晴らしい精霊だった。僕は精霊の世界に向かって深い感謝を捧げた。ジーニャスとシャールは抱きあって喜んでいた、シャールの心臓の病気は完全に回復していた、さすがはエリクサー最高の万能薬だ。僕とソアンは目が合うと喜び合う兄妹を見て微笑みを零した、そうして本当に良かったと僕は心から思った。
エリクサーで僕の病気を治す夢は消えたけれど、それ以上に大きな夢がこれからのシャールをまっている、そう思えて素直にそれを祝福し喜ぶことができた。そんな僕にソアンが今度は満面の笑顔で抱き着いてきた、僕もソアンと無事にここまでこれたことが嬉しくて抱き返した。それからシャールのところに二人でいって、四人でシャールが無事に助かったことを喜んだ。
「リタさん、私を助けてくれてありがとうございましゅ!!」
「いや、シャール様。貴女を助けたのはジーニ……」
「そうだ、シャールを助けたのはリタとソアンだ。シャール、ソアンにも礼を言うのだ」
「ソアンさん、ありがとうございましゅ!!」
「いいえ、どうしたしまして。良かったですね、これからは元気に過ごせますよ」
ジーニャスはなぜかエリクサーを手に入れたのが自分だと言わなかった、僕に目配せしてそれを言わないようにさせた、理由は分からなかったが僕はジーニャスを信じて彼に従った。
「リタさん、またあの曲を歌ってください。私はソアンさんと踊りましゅ、ジーニャス兄さま見てて」
「ふふっ、いいですよ。シャール様」
「おう、しっかりと見ていてやるぞ。シャール!!」
「私と一緒に踊りますか、シャール様。では、最初の曲はこうですよ」
その晩の僕たちは時間はもうとっくに夜になっていたのに、そんなことは関係なく喜びが溢れて止まらなかった。僕はクレーネ草の薬の副作用がでるまで、シャールの為に楽しい曲を歌い続けた。ソアンとシャールは嬉しそうに曲に合わせて一緒に踊り、ジーニャスがそれをとても満足そうに見ていた。僕とソアンはその日は領主の館の客室に泊まった、僕はクレーネ草の薬の副作用が出て寒さに襲われた、場所は違っていたが温かいソアンの体をしっかりと抱きしめて夜を過ごした。
いや僕は眠り薬がないとよく眠れないから、朝が近くなって仕方なく起きて庭にある広場にでて花を眺めた。そうしていたらさっきシャールの部屋にきた領主、彼がやってきたので僕は慌てて礼儀に従って膝をつこうとした。だがそれを彼から手で遮られた、やってきた領主である男性はなぜか満足そうな顔をしていた。2本目のエリクサーを王に献上できなくなったのに、それを少しも怒ってはいないようだった。
「プルエールの森の民に感謝する、私の娘の命を救って貰った」
「いいえ、シャール様を助けたのは……」
「私の娘を助けたのは息子のジーニャスではない、それでは私が困る。2本目のエリクサーをどうして王に献上しなかった、そう言われては困るのだ」
「そうですか、ええ。分かりました、エリクサーを見つけてシャール様の命を救ったのは僕です」
「それでいい、それで良かったのだ。地位に雁字搦めにされている私には息子が羨ましい、もう一人の息子は領主としては正しいが、人としては間違ってしまった」
「フォルクを助けにいくのですか? 彼は弟であるジーニャスを殺そうとするような人間です」
僕の問いに領主である男は寂しそうな辛そうな顔をしていた、何かを間違ってしまってその間違いを正そうとして更に間違ってしまった。そんな顔をして考え込んでいた、ジーニャスたちと同じ黒髪に黒い瞳をしていたが、その髪には白いものが混じっていた。そうしてかなりの時間が経ってから領主である男は僕の問いに答えた。
「助けないわけにもいかんが、助かっても廃嫡となって放逐されるだけだ。それがあいつがしたことに対する正当な裁きだろう」
「そうですか、それでもジーニャスはきっと助けに行くでしょう」
「あいつは教えてもいないのに、とても優しい良い男に育ってくれた。いずれは私の跡を継ぐ、プルエールの森の民よ。そなたが望んでいるとおりにな」
「ええ、僕たちプルエールの森の民はジーニャスとの良好な関係を望みます」
「高貴なるエルフの友人までもっている、あいつは幸せな男だ。それだけに長男が不憫でならんな、どこで何を間違えてしまったのか、今更言ってももう手遅れだ」
「…………生きているのなら領主にはなれなくても、それでも幸せにはなれるでしょう」
領主である男は僕の言葉に笑った、まだ世間を知らない者を笑うような笑みだった。確かに僕が言っていることは甘いのかもしれない、でも死なないですむのならば誰にでも幸せになれる、その可能性は残されているのだった。フォルクが廃嫡されて庶民になれば彼は父も弟も恨むだろう、だがその恨みを捨てて彼に残されているもので、それらを大切にして幸せをつかむことができればいいのだ。
「ジーニャスから話は聞いた、デビルベアの王がいるらしい。兵を無駄に死なせることはできん、だから一度だけしかフォルクの捜索隊は出さん」
「そう一度きりの機会なのですね」
「フォルクは既にいろいろなものを壊した、剣士や魔法使いたちを無駄に死なせ、弟の命まで狙って殺そうとした。一度きりでも十分過ぎるくらいだ、このまま見捨ててもいいくらいなのだ」
「貴方は父親であり、でも厳しい決断を求められる領主なのですね」
「いや私は父親としては失格だな、手をかけたフォルクは歪んで育ってしまった。なぜか自由にさせていたジーニャスは領主としてふさわしく育った、そんな失敗した人間なのだ。プルエールの森の民よ、ジーニャスを手伝うのは構わんが決して死んではならぬぞ」
「ええ、僕の命も大事なものですから、簡単に死なないように約束しているんです」
そう言って領主である男は、いやジーニャスの父親は庭の広場から去っていった。彼もシャールを助けたいと人としては思っていたのだ、でも領主としてはエリクサーを王に献上したいと思っていた。どちらも同じ人間の考えていることだった、そうして彼は今回は人としての願いが叶った。それを僕の功績にして、そうして王からの追及を逃れるのだ。
領主というのも難しい立場なのだ、ただの人としては生きられないのかもしれなかった。僕もいつかプルエールの森に帰る、その時の僕はどうなるのだろうか、追放される可能性も低いがあった。故郷の森に帰れなくなるのは辛いが、それでもどこか他の地で幸せを見つけて生きたい。でもプルエールの森に帰れるのなら、そこの一員として今度はゆっくりとただのエルフとして生きてみたかった。
「帰れる場所がある、それは幸せなことなんだ」
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