1-30理由を問いかける
「いるのは分かっている、大人しく出てきてほしい、…………寂しくて悲しいネクロマンサー」
僕の呼びかけにしばらく返事はなかった、だがその部屋の奥の方で誰かが動く音がした。僕たちが帰る様子がないと判断したのか、その人物はゆっくりといつもの白く清らかな神官服を着た姿で現れた。
「またお会いできてわたくしはとても嬉しいです、リタさん」
「僕はこんな形でお会いすることになって残念です、ユーニーさん」
「改宗して神官長になる件を考え直していただけましたか?」
「今夜はそんな話がしたいんじゃない、貴女が使ってしまった死霊魔法のことを聞きにきました」
「あらあら、神殿の神官であるわたくしにはそんなことは何も分かりません」
「いいえ、貴女が今回のネクロマンサー本人です。そしてフェーダーの魂を弄んだ犯人です」
僕が犯人だと訴えたユーニーはいつものように、にっこりと美しく微笑んでそれを否定した。それで僕はフォシルの書斎にあった証拠品、そう言い訳が許されないその物をユーニーに見せた。
「あら、まぁ、聖印ですね。誰の落とし物かしら、どこで見つけてくださいました?」
「フォシルのダンジョンにある、フォシルの書斎の本の山の中からやっと見つけ出しました」
僕が聖印を見つけた場所を告げると初めてユーニーは微笑むのを止めた、少しだけ眉をひそめてそれから僕たちに向かって静かに問いかけてきた。
「聖印には各自の番号が刻んであること、それを貴方はもう知っているのですね。リタさん」
「ええ、ステラが以前に教えてくれました。フォシルのダンジョンの隠し部屋に落ちていた聖印、それは貴女のものだユーニー」
「そう、わたくしもその聖印をずっと探していました、きっと誰かが拾って持っていった。そして、そのフォシルのダンジョンの中で落としたのでしょう」
「では僕はこのゼーエンの街の領主に頼みます、これ以外の他の証拠が出てくるように、この部屋を彼らに隅々まで捜索してもらいましょう」
ユーニーが自分の落とした聖印を自分の物だと認めないのなら、このユーニーの部屋を調べてもらえばきっと別の証拠がでてくるはずだった。フォシルの書斎からはかなりの量の本が持ち出されていた、このユーニーの部屋には普段は誰も入らないという情報を聞いた、だったら恐らくフォシルの死霊魔法の本たちがここにあるはずだった。
「あらあら、それは困りますわ。……わたくしも死霊魔法をまだ極めてはいないのですから」
また楽しそうに微笑みながら、ユーニーがそう言いだした。自分がネクロマンサーであることを認めたのだ、だがそれでもユーニーの余裕のある態度は崩れなかった。まるで僕たちが悪いことをした子どものようで、ユーニーはそれを叱る母親のような態度だった。その口調に惑わされそうになるがそれは絶対に違う、ユーニーは邪悪な魔法を使って多くの遺体を辱めた。それに再調査が行われたフォシルのダンジョンでは、やってきた冒険者の一部をゾンビに変えていたネクロマンサーだ。
「やはり貴女が犯人ですね」
「うふふっ、初めはただの偶然でした」
「偶然だけでは全て片付けるのは無理です」
「私が個人的に勉強していて古代文字を、それを読み解いたことが始まりなのです」
そうして静かに微笑みを絶やさないままにユーニーの過去が語られた、まだユーニーが若い頃にフォシルのダンジョンで古代文字を解き隠し部屋を見つけ、それに続いてフォシルの遺体や彼が残した死霊魔法の本、ユーニーはそれらを見つけてしまった。聖印はフォシルのダンジョンに行った時に失くしてしまったものだった、探したがどうしても見つからずに神殿から叱られてまた聖印を貰った。最初は神殿に全てを報告しようと思ったけれど、ずっと神殿で過ごすうちに少しずつ考えが変わっていった。神殿とは神の前での人々の公正さを語っておきながら、そんな清浄な組織では決してなかったからだ。
「この神殿では孤児は評価されません、ましてやそれが女性であれば尚更そうなのですよ」
「それが貴女が死者たちを利用した理由ですか!? たったそれだけのことが!?」
「そうたったそれだけのことです、高貴なエルフの貴方にはきっと分からないでしょう」
「ええ、分かりません。僕は自分が高貴だとも思いませんが、貴女の気持ちが分かりたいとは思いません」
「うふふっ、殿方は皆そうです。ご自分たちが簡単に踏みにじっているもの、それに気がついていないのです」
「そうでしょうか、確かに神殿という組織で孤児で女性であることは重荷でしょう。でもそれは逆に考えれば孤児や女性の気持ちが分かる、そんな素晴らしい神官に貴女はなれたはずです」
ユーニーは過去を話し始めてからとても嬉しそうな笑顔だった、ようやく何でも話せる相手がいたとばかりに雄弁だった。でも僕の最後の言葉を聞くと、今度は怒りをこめた視線をこちらに向けてきた。
「千年を生きるというエルフに、ただの人間の女の何が分かるの?」
「孤児だと馬鹿にされる気持ちが、それが分かったからといって何になるの?」
「結局は神殿で最高の地位は得られない、わたくしが女性である限りは無理なことなのよ!?」
ユーニーは僕のことが憎くて堪らないような顔をしていた、でもやがて彼女はまたいつもの慈悲深そうな微笑みに戻った。そうして、最初からソアンのことは無視していたが、僕のことだけを見つめて恐ろしいことを話しかけてきた。僕はミーティアが言っていたフォシルのダンジョンのこと、『ネクロマンサーはその力で当時の若き王の体をのっとろうとした』、というおぞましい言葉を思いかえした。
「だからリタさん、わたくしにその体をください。美しく高貴なエルフの血筋に豊富な魔力、これほどわたくしに相応しい体はありません」
僕が密かにそれが目的かと考えていたことが当たってしまった、ユーニーはいつの頃からかは知り得ないが、自分が乗っ取ることができる最高の体を探していた。そして、建国祭での僕が国民から称賛される様子を見て、僕の体を乗っ取ってしまおうと決めてしまっていたのだ。だから、僕に信者になれば神官長になれるなどと言って誘惑した。
ユーニーは自分が僕の体を乗っ取ったなら、長い寿命を得ることができると思った、それに自由に強い魔法を使うことができるとも考えた。元々の孤児であるという経歴も同時に消えてなくなり、その代わりにプルエールの森で生まれた、高貴なエルフという立場を手に入れられるのだ。そして、女性ではなく男性になることで、神官長になることも今度は夢ではなくなるのだった。
「お願いです、リタさん。貴方の体をわたくしにください、その後にそのハーフエルフと聖印をどうにかすれば何も証拠はなくなり、わたくしは今度こそ自由で本当に幸せになれるのです」
「それは……」
「全てお断り致します!! リタ様はリタ様自身であるから、だからこそ大切なお方なのです」
「ハーフエルフの小娘さん、わたくしはリタさんに話しています。ちょっと黙っていてもらえるかしら、貴女のことは後でじっくりと始末してあげる」
「冗談じゃない!! 僕の大切なソアンを始末なんてさせない!!」
「ありがとうございます、リタ様。ほらリタ様もこう言っておられます、フェーダーさんの為にも貴女をこのままにしておけません!!」
そう言い放ったソアンは大剣を抜きかけたが、狭い室内では大剣では不利だった。だからソアンは拳を握り締めて戦う姿勢をとった、僕は短剣を抜いて油断をせずに構えた。そんな僕たちをユーニーが眉をひそめて不快そうに見ていた、どうして自分の崇高な目的が分からないのか、そのような顔をしてまた僕らに優しく微笑みかけた。
「あらあら、怖い。とても勝てそうにないわ、だからこうしましょう」
そう言うとユーニーは素早くなんと窓を開けてそこから飛び降りた、ここは三階にある部屋なのにそのまま飛び降りたのだ、それだけだったら彼女の命も危ないはずだった。でも僕らが慌てて窓から外を見るとユーニーは『浮遊』の魔法で、ゆっくりと下に無事に降り立っていた、僕たちも慌てて同じ魔法を使って追いかけた。だが少しだけ僕たちの行動は遅過ぎたようだった、僕らが地面に降りたったと同時に、ユーニーが禁忌の魔法を唱え終わっていた。
「その綺麗な体をいただきましょう、『魂移』」
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