1-23下水道にいる
「リタさん、ソアンさん、大変なのです!!」
僕たちに声をかけてきたのはステラだった、白い髪と赤い瞳を持つ神官である彼女は、また息をきらせて走ってきた。そして、僕たちにこう言った。
「フェーダーさんのお墓が荒らされて、それと他のお墓も同じようになっていて、とにかく大変なのです!!」
「ああ、ステラさん。今日フェーダーの墓参りに行ったから、僕も知っているが驚いたよ」
「リタ様はとっても優しいエルフなのです、私も一緒に行ったからもう知っています」
「ああ、そうなんですか。それじゃ、これから下水道に向かわれるんですね」
「下水道? えっ、それは知らない。何故、下水道なんだい?」
「ええっ、下水道ですか!? それはあまり行きたくない場所ですね」
「うわぁ、私ったらまだ依頼出してなかった。あのですね、詳しくはこれから冒険者ギルドの掲示板で分かります!! それでは、また!!」
「ステラさん!? 慌てん坊な神官さんだな、下水道とは一体なんだろう??」
「下水道と言えばアレ、私とっても嫌な予感がしてきました……」
そうしてしばらく待っていると冒険者ギルドが騒がしくなり、ギルドの職員が掲示板に新しい大きな張り紙をした。『下水道にいるアンデッド退治、参加者には銀貨1枚。ただし貴族の遺体の場合は無傷で持ち帰ること、そうすれば1体ごとに特別報酬あり』僕たちもその場にいた冒険者たちに混ざって、その新しく神殿が出してきた依頼を見た。そうかあんなに沢山の遺体が消えたと思ったら、その遺体たちは下水道に潜んでいたのか。
貴族の遺体に限り特別報酬が出るということは、神殿の威信に関わる問題だからだろう、神殿の墓地でも安らかに眠れないとなったら大問題だからだ。それからもう一枚、冒険者ギルドの職員が依頼をまた貼っていった。『ネクロマンサーを捕獲、もしくは討伐した者には金貨20枚』これでステラが慌てていた訳が分かった、邪悪なネクロマンサーの存在を神殿が認めたから彼女は慌てていたのだ。
ネクロマンサーが本当にいるのなら、フェーダーの墓のように遺体に死霊をつけて、ゾンビにしてしまうのは難しくないのかもしれない。死霊魔法については詳しくないから、どのくらいの魔力でどんな魔法が使えるのか全く分からないのだ。ただ本当にネクロマンサーがいるのなら、自分が作り出したアンデッドに守られている可能性が高かった、だが僕たちは下水道にはいけない理由があるのだ。
「り、り、りりりり、リタ様。私は下水道だけは!? アレの住居に踏み入るのは嫌です!?」
「それはよく僕は分かっているから、とりあえずは落ち着いてくれ。ソアン。」
「本当ですね!? 約束ですよ!! リタ様も絶対に下水道には行かないでください!!」
「それも分かっているよ、短剣しか使えない今の僕には、ただのゾンビでも強敵だ」
「そうですよ、リタ様が分かっていらっしゃって良かったですぅぅ!?」
「僕たちはこの依頼を受けない、だから下水道にも行かないから、まず落ち着きなさい。ソアン」
ソアンがいうアレというのはあの黒くて平べったい虫だ、水場などにいることが多くて素早い動きで、時には空を羽で飛んだりするやつのことだ。ソアンは子どもの頃からあの虫が嫌いで、出てくる度に悲鳴をあげて僕に泣きついてきたものだ。下水道なんてあの虫が大量にいそうな場所にソアンは連れていけない、それに僕一人で行くというのも戦力的に無理な話だった。
フェーダーの遺体を無事に回収してやりたいが、僕たちにはそれはできないことだった。できるだけ損傷が少ない状態で遺体が戻ってくるといい、おそらくは無理な願いだろうが祈ることしか僕たちにはできない、残念なことだが個人の力には限界があるのだ。僕はガタガタと震え出したソアンを冒険者ギルドから連れ出して宿屋へ帰った、帰る間中もソアンは僕の手をしっかりと握って離さなかった。
「師匠は下水道にはいかへんのん、ソアンちゃんはどうや?」
「僕たちはあの神殿の依頼を受けないよ、ミーティアはどうするんだい」
「み、ミーティアさん。下水道とはアレの住居です!! 縄張りです!! 危険地域です!!」
「うちもなぁ、高額な依頼金は欲しいねんけど、ちょっと匂いがうつるから下水道は嫌やな」
「そうか、ミーティアもいかないのか」
「良かったです!! ミーティアさんも女の子は皆アレが怖いですもんね!!」
「そやな、ゾンビは魔法が凄く有効やけど、あれは怖いモンスターやな」
「そうなんだ、僕の短剣じゃ不利過ぎて戦いに行けないんだ」
「リタ様をあんな恐ろしい場所に、たったお一人で行かせられません!!」
僕とソアンとミーティアは宿屋の酒場で噛み合っているような、そうでないような会話をしていた。ソアンはまだあの虫が怖いようで、暗がりで何かが動きそうなものなら、その場から飛び上がりそうだった。僕はそんなソアンに無理をさせるわけにはいかない、だからフェーダーには悪いが遺体の無事を祈るだけにした。ああ、僕は本当に無力になってしまった、昔だったなら広範囲の浄化魔法が使えていた。
僕は昔は魔法が自由に使えていた、中でも得意だったのは回復や浄化など、世間では光属性に関する魔法だった。もちろん他の属性の魔法も自由に使えたが、僕が得意だったのはそういう魔法だった。今、病気になる前の力があったなら、おそらくこのアンデッド騒ぎも簡単に解決できた。でも、それは危険なことでもあったが、そんな大きな魔法を使えるエルフを国は危険視するだろうからだ。
僕はやっぱり無力で何もできないのだ、そうやって自分の無力感に苛まれている僕の手にソアンが触れた、そしてふるふると首を何度も横に振って僕の手を優しく握りしめた。ソアンは無力な僕のことを気遣ってくれたのだ、その時ふと気づいたとばかりにミーティアがこう言いだした。
「それにしてもネクロマンサーなんやて、なんかフォシルのダンジョンに関係あるんかいな」
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