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母フローラの祈り

◇◇


この世界には、精霊、魔獣、聖獣が存在する。


精霊は、火・風・水・土より生ずる。

人は、精霊の姿を見ることは出来ない。

精霊は魔法を使い、人は魔力を持っている。

魔力を精霊に捧げ、精霊の魔法をお借りする。

与える魔力が多いほど、使える魔法も強力になる。


魔獣は、不浄より生ずる。

不浄とは、人の強い怨念のことだ。

それ故に、魔獣を浄化することは出来ない。

人だけでなく、精霊や聖獣をも歯牙にかける魔獣は、発見次第、(ほふ)るのみだ。


聖獣は、浄より生ずる。

浄とは、穢れなき清らかな魂のことだ。

浄を宿した獣が変化した姿だと信じられている。

人は、聖獣の姿を見ることは出来ない。

力の強い聖獣は、人語を解する。

その御姿を現し、人に神託を与えることも出来る。


聖獣から愛され、加護を授かったものを、〈魂の片割れ(ツインレイ)〉と呼ぶ。

ツインレイ(twin ray)とは、元々一つだった魂が二つに分かれて生まれてきた、対になった存在のことだ。

出逢ったら、離れられない。

お互いの魂が一つになることを望む。

同種族であれば番い、異種族であれば加護する。


◇◇


 シルヴィアは魔力の鍛錬に励んだ。毎日、枯渇寸前まで魔力を放出し、少しずつ許容量を増やす。徐々に、より強い魔法を使えるようなっていった。


 同時に、精霊たちとの交流にも精を出した。正確に言うと、結果としてそうなった。


 二つの記憶が混在するシルヴィアの摩訶不思議な魂に、好奇心旺盛な精霊たちは吸い寄せられた。


 精霊は魔力を吸う。シルヴィアの魔力は、特殊な媚薬のように精霊を魅了した。精霊たちは、シルヴィアに、惜しまず加護を与えた。


◇◇◇


 シルヴィアは、腕力や握力の強化を、早々に諦めた。幼くなったことで身体が軽くなった利点を、最大限に活かすことにした。


 努力と精霊の助力の御陰で、軽業師のように、木に登り、枝を飛び移り、三階の高さからひらりと舞い降りることもできるようになった。


 シルヴィアが三階から飛び降りた瞬間を目の当たりにした家人(けにん)達は大混乱に陥った。ある者は度肝を抜かれて腰を抜かし、またある者は血の気を失い失神した。


 その日から、シルヴィアの監視は厳戒態勢となった。しばらくの間、苦手な刺繍三昧の日々を余儀なくされた。


◇◇◇


 シルヴィアは、絡み合う糸と悪戦苦闘している。


「まるで人生のようですわ」

「ふふふ。ヴィーは詩人ね」


 シルヴィアの母フローラは、絡み合う刺繍糸を人生に例え、嘆いている四歳の幼い愛娘が、愛おしくてたまらない。


「ハンナ」

「畏まりました」


 ハンナは直ぐに、ヴィーの新しい刺繍道具を用意した。


 フローラ専属侍女(レディーズメイド)のハンナは、阿吽の呼吸で、言わずとも的確に意図を汲む。


 優秀すぎて、手放せないわ。たまに、心を読まれているのかしら、と勘ぐりたくなるほどだわ。


「お母様、ハンナ、ありがとう存じますわ」


 シルヴィアは、「はぁー」と溜息を吐き、真剣な面持ちで、新たに刺し始めた。十六歳のシルヴィアにも、刺繍は避けられない試練だった。


「ヴィーは、何を刺しているの?」

「馬ですわ」


 見ると、言われてみれば馬かも知れないわね、と思われる線で表現された何かが刺されている。


___〃

\―― ―

 / \  \



「これは、・・・・・・ダークナイトかしら?」

「お母様!左様でございますわ!」


 歓喜するシルヴィアと、この線から個体までをも特定したフローラの睦まじい様子を、ハンナは微笑ましく見守る。


 穏やで幸せな一時がこのまま続くことを、フローラは祈った。


◇◇◇

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