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初夜

◇◇◇


 ノアは寝台にマリーを横たえ、「はぁ……」と大きな溜息を吐いた。


 どうすればよいのだろう。気を失ったままのマリーに触れるのは、夫婦になったとは言え、いけないことのようで気が咎める。


 ふぅ……。焦ることはない。今日から毎夜、マリー嬢との同衾を許された身なのだから……。毎夜、マリー嬢と、同衾……。想像するな!落ち着け!頼む、落ち着いてくれ!


 自分で自分を宥めながら、チラリとマリーを見た。初めて見るマリーの麗しい寝顔から、身体へと、自然に視線が移り、ドキリとした。


 婚姻衣装のドーリス式キトンはとても肌触りの良い最高級の綿で仕立てられている。

 柔らかい布は、横たわるマリーの身体を、まるで吸い付くかのようにぴったりと覆い隠しながら、布越しに、その妖艶な肢体の存在をありありとノアに見せつけた。

 素肌を隠しながらも、上下する胸の形や細い腰、すらりと伸びる脚と局部に纏わり付く。一糸纏わぬ姿よりも、かえって艶めかしい。


 ノアは慌てて視線を逸らし、マリーの靴を脱がせ、動かして、布団を掛けた。


「……温泉にでも入るか」


 ノアは呟いて、とぼとぼと部屋を出た。



 ノアは浴室で身体を清めると絹布を腰に巻き直し、露天風呂へと移った。十一夜の月と星空を眺めていると、誰かが入ってきた。


「ノアなのか?もしや、マリーも来るのか?私は邪魔か?」

「エド。マリー嬢は来ないので、どうぞ」

「お、おぉ、そうか。……どうした?まさか、もう夫婦喧嘩なのか?」

「違う!そうじゃなくて……。はぁ……」

「なんだ?不満や不安は吐いておけよ。心労を溜め込むと病の元になるからな」

「私は…、どうすればいいんだ!」


 ノアは、マリーの愛らしさを、堰を切ったように語り出した。口を挟まず聞いていたエドワードだったが、とうとう声を上げた。


「ノア、落ち着いてくれ」


いつの間にかノアは、押し倒さんばかりの勢いで、エドワードに詰め寄っていた。


「あっ……、すまない」

「安心したよ。義弟(おとうと)よ、マリーを頼む」

「お任せ下さい、義兄上(あにうえ)


 風呂からの帰り道、「それにしても、あのマリーが」と、エドワードは幼かった頃の話をノアに語った。


「明朝、発つよ」

「エド、道中気を付けて」

「ああ。再会できる日を楽しみにしているよ」

「私もだ。ありがとう」


 抱擁と就寝の挨拶を交わし、二人はそれぞれの部屋へと向かった。



「ただいま戻りました」


 ノアの声に応える声はない。寝台には、マリーが安らかに眠っている。そっと額に口づけ、隣に横たわり鑑賞していると、マリーは寝返りを打ち、背を向けてしまった。プラチナブロンドの長い髪はまとめたままだ。そっと解き、艶やかな長い髪に口づける。「抱きつくくらいは、許してもらえるのだろうか…」と思ううちに、マリーの甘い香りに包まれ、ノアはいつの間にか深い眠りに落ちた。



 暗闇に色彩が加わる。春告鳥は稽古を重ね、上手にさえずりと谷渡りを聞かせてくれるようになった。ヒガラやゴジュウカラも負けじと歌いだした。

春眠暁を覚えずとは言うが、ナイトレイ領の朝晩はまだ冷える。


 シルヴィア様もアルバート様も今日の鍛錬をもう始めていらっしゃるだろう。私も起きなくては。でも、布団の温もりが、心地良いわ。


 布団を引き寄せようとしたが動かない。ゆっくりと隣を窺うと、ノアが眠っていた。


 マリーは心臓が止まってしまうかと思った。ノアの寝顔を見るのは初めてだし、同じ布団に眠っているなんて、恥ずかしすぎて堪えられない。


 慌てて起き上がろうとすると寝ていたはずのノアに腕をつかまれ、引き寄せられた。


「おはようございます。マリー」

「ご、ごきげんよう。ノア」

「目覚めの口づけをお願いできますか」


 切なげに訴えるノアに、マリーは覚悟を決めた。愛しいノアの頬を指先でゆっくりと撫でた。そのままその指を滑らせ唇に触れた。指先で触れる唇は、唇で触れるときとは柔らかさが違うように感じた。


 ノアは、マリーの指が頬に触れた瞬間、ぞくりと痺れた。半開きになった唇に触れたマリーの指をくわえ、味わった。


マリーは、心臓とお腹の辺りを鷲掴みにされたような感覚に襲われた。指をしゃぶる舌の感触に、腰が抜けた。ノアの鍛え上げられた肉体に抱かれ、マリーは快楽に身を委ねた。


◇◇◇

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