恋煩い
◇◇◇
ガルシア伯爵夫妻到着から二日目の夜
シルヴィアは寝台に横たわり、ルフの暖かな体温と心の落ち着く香りに包まれながら、今日の出来事を話した。無論、ルフはシルヴィアに関すること全てを承知しているのだが、他には全く興味がない。
「ルフ、聞いて下さいまし。マリーは、また悋気を起こしておりますのよ」
『シルヴィアはいつも、楽しそうだな』
「まあ!ルフには私が楽しんでいるように見えまして?」
ルフに膨れっ面をして見せるシルヴィアは、やはり楽しそうだ。
「ノアはたった一日で、ご両親にすっかり気に入られた様ですの。なのにマリーは、ご両親をノアに、ノアをご両親に盗られるようで寂しいのかしら」
『人は寂しいと悋気を起すのか?』
「そうなのかもしれませんわ。大好きな殿方を大好きな家族も好きになってくださるなんて、こんなに素敵なことはないと私は思いますのよ」
『我はシルヴィアのみを欲する。他は要らぬ』
「あ……」
シルヴィアは赤面した顔をルフの胸に埋めた。
(もう、ルフったら、私の心の臓を止めるおつもりですの?)
『其女が逝くなら、共に逝く』
「なりませぬ!」
ルフの言葉に、シルヴィアの目からは涙が溢れ出した。
『済まぬ。我は其女の側を離れぬと言いたかったのだ。泣き止んでおくれ』
ルフに抱き寄せられ、シルヴィアは堪えきれず、とうとう噦り上げだした。
◇◇
魂の片割れとは、元々一つだった魂が二つに分かれて生まれてきた、対になった存在のことだ。
出逢ったならば、もう離れられない。
お互いの魂が一つになることを望み、死すらも二人を分かつことは出来ない。
◇◇
生まれたものには、必ず死がある。シルヴィアは、既に壮絶な死を体験している。理だと分かっていても、恐怖に狼狽した感情を抑えることが出来ずにいる。
シルヴィアが泣き疲れて眠るまで、ルフは全身全霊で、シルヴィアが落ち着くよう努めた。ルフはシルヴィアに出逢い、〈恋〉という厄介で温かい感情が自分の中にあることを知った。
ルフの神力で、シルヴィアが悪夢に魘されることはなくなった。ルフはシルヴィアを悲しませた自分自身を滅したいほどに、許せなかった。だが、シルヴィアの側を離れられない。シルヴィアがルフの全てだ。
もう二度とシルヴィアを悲しませぬ。
シルヴィアの安らかな寝息を聞きながら、ルフは猛反省した。
◇◇◇
同じ夜
夕餉の後、マリーは両親の使用している部屋へと招かれた。
シルヴィアとルフに就寝の挨拶をし、客室を訪れると、既に両親とノアが談笑していた。まるで、本当の親子のように。その喜ばしい光景を目にして、マリーは嬉しいのに寂しいような感情に囚われた。
マリー自身にも、制御できないこの不思議な感情に〈悋気〉と名付けたシルヴィアの顔がふと浮かんだ。
ノア様に家族を、家族にノア様を奪われると思い、悋気を起している私は愚かで、果報者だわ。素直に気持ちを伝えてくださるシルヴィア様のように、私もなりたい。
腹を括ったマリーの行動は素早かった。開口一番に、こう言い放った。
「お父様、お母様。お願いがございます。私の婚姻をお許し下さい」
この言葉に焦ったのはノアである。抜群に勘のよいノアなのだが、マリーに関しては、当てにならない。マリーの幸せを願っているが、他の誰かに譲りたくはない。顔面蒼白になったノアはマリーの前に跪き、必死に嘆願した。
「マリー嬢、愛しています!どうか、私に機会を下さい」
「私もノア様を愛しております」
頬を染め、恍惚とした表情で、マリーが自分を見つめてくれている。マリーの言葉に、ノアは我を忘れた。
ノアは吸い寄せられるように、マリーに口づけた。
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