表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

お祭り

作者: kaHo

トラウマを克服って大変ですよね

それはそれは、弥生時代からの昔話。

八月八日戌の刻の初刻。

とある巫女に男共は呼び出される。

そして、巫女はこう言ったのだ。

『今から村長の家まで行き、とてもこの世とは思えない勾玉が村長の家の前にある。それを最初に触れたものには、想い人と仲睦まじく生涯過ごすことができよう』

と。

巫女の言うことは絶対と信じられていた時代。

男共はこぞって、我先にと勾玉めがけて走り出す。

そして、きらびやかに光る勾玉を最初に取った男は、村一番と言われる村長の娘と初夜を過ごしたのだとか。

それから巫女は十年に一度、この村でその政を取りはからったという。

その政は巫女の名を取り『はつ祭り』と言われ、今現在平成の時代でも行われてる。

ただ違うのが、村長の家だったのが今では神社に変わり、お祭りの屋台やらが賑わうようになっている。

また、巫女が男共を呼んだところには長細い石が立てられている。

子供の頃は、同じクラスメイトのあかりちゃんが好きで参加したが、大人に敵うはずもなく。

勾玉はあっさりと大人に取られる始末。

十年に一度の恋は敗れ去った苦い思い出だ。

ーーー

そんな俺は今や十七の高校二年生。

そんな祭りより、部活に青春を謳歌している。

放課後、柔軟を終えリフティングをしていると、

「なぁなぁ、期待・・のMFの明渡くん。ちょっとお願いがあるんだけどいいかな?」

と、小学校からの幼なじみで本当の期待・・のエースのFWの山田が言い寄って来る。

こういう時の山田はなにか企んでいる。

「お前なぁ、ユース代表に選ばれる素質あんのに、練習さぼんなよ!」

と、俺は呆れながらも言った。

まぁまぁいいじゃんかとすっとぼける山田。

はぁと深いため息をしながら、頭を抱える俺。

なんでこんなにも真面目に練習しているやつより、こんな素っ頓狂なやつがエースなのか?

理解に苦しむ。

「なんだよ、いい情報持ってきてやろうってのに」

と、山田が口を尖らせる。

やれやれどうせつまらないことだろうと思いながら、

「で、何?」

と俺は言うと、

「じゃーん、なでしこJAPANのユースメンバー発表だよーん」

俺は、わけがわからず、

「これが何?」

と問う。

「おい、よく見ろよ! ここ! ここだよ!」

と山田は指をさす。

「えっと……いと、う、あか、り? へ!? 灯ちゃん?? あのときの?」

つい、大声を出す俺。

「大当たり!お前が好きだったあの灯ちゃんでーす!!」

と、ケラケラと笑うがそれも一瞬で、真剣な目になる山田。

「なぁお前もさ、そろそろユースに入ってもおかしくないんだよ。あのときのこと引きずってんなら、お前は置いてけぼりだからな?」

そう言うと、山田は紙をヒラヒラさせてどこかへ行った。

それを言われて俺は昔のことを思い出す。

ーーー

俺たち四人・・は、小さい頃からサッカーが好きで、お互い一緒のジュニアのチームにいた。

小学二年生のときだろうか? 

俺はそのジュニアで、本当に期待の星だった。

覚える技も早く、将来有望だった。

特に灯ちゃんの兄、中学生一年生の明くんにはよくしてもらってた。

でも、俺ら四人はバラバラになることとなるなんて、誰も予想してなかった。

ある日、凄い大雨で小学校の高台に皆避難していた頃。

俺たち家族は、妹が盲目であったため遅れて逃げていた。

あと少し、あと少しで小学校だったんだ。

高台途中まで登り体育館も見えた。

皆手を振ってくれている。

もうすぐだった。

妹の朋美が、転んだのだ。

その時白杖をどこかにやってしまった。

親は先に行けというが、兄として妹は見過ごせない。

それを見ていた明くんがこっちにきてくれ、

「朋美ちゃん、こっちだよ。もう少し頑張ろうね」

そう後押しして高台まで登ってこれた。

皆ホッとしたのだったが、俺はバカな一言を発してしまう。

「あっ朋美の白杖だ!」

そう言ってしまったのだ。

朋美はどこどこと明くんを制した。

明くんは僕に、

「取って来るから朋美ちゃんお願いするね」

と、暗い大雨の中に明くんを一人を行かせてしまった。

待てど、すぐ来ない。

明くんの影が現れたときは良かった。

でも、明くんは利き足を怪我してしまい引きずっていたのだ。

大雨の中きちんと治療できず、明くんの利き足はもう走ることはできなくなっていた。

ーーー

あの日がきっかけで、灯ちゃんや明くんと会っていない。

明くんの治療のため、二人は家族と引っ越したのだ。

あれから、明くんのことを思うとサッカーに青春を謳歌してはいるものの、バツの悪さから自分なんかがサッカーしてもいいのかと後ろめたさもあって。

試合中は、相手とトラブルが生じないようにしていつもボールを渡していたのだ。

いつまで経っても技術は磨けてはいるが、相手に気を許してしまう。

そんなこと、わかってるんだよ!

俺だって、俺だってーーー

余計相手に気を取られているのか、今日の試合はボロ負けだった。

そんなとき、山田が、

「なぁなぁ、合コンってのしないか?」

といきなり帰り道で言われた。

「はっ?俺らまだ高校生だぞ?」

「そんなのわかってるよ! たださカラオケするだけだから。人数合わせだよ人数合わせ! な、お願い!」

と言われ、どうせ最後は俺が折れるんだからと、はいはいと適当にあしらった。

ーーー

合コン当日。

まぁ、高校生同士ということもあり、真っ昼間からすることに。

相手は誰かわからない。

人数も不明。

どうすればいいんだ!

俺が頭を抱えながらいると、山田が俺の背後から背中を押し、

「おっ待たせー♪」

とラフな格好で現れる。

「げほっげほっ。あのさ、普通に現れてくんない?」

と、俺は山田を問う。

山田は俺の質問を無視し、カラオケに。

うん、もういいや。

山田に付いて行くことにした。

受け付けに行くと、十番の部屋まで案内された俺たち。

誰かいるようだが、歌ってはいないようだ。

ギィと音を立てながら、入る。

そこにいる人たちを見て、俺は立ち止まったが、山田が、

「早く入れよ!」

と、勢いよく押された。

「わっ!」

と、素っ頓狂な声を出し、転ける俺。

近くにいたTシャツにスエウェトの効いたパンツを着ている男性が、ゆっくりと俺の方へ来て、

「大丈夫かい?」

と、手を差し伸べる。

俺は冷や汗で前を向けない。

すると、レースの白のトップスにミントのスカートの女の子が、

「ほら、何ぼさっとしてるの知久ともひさ君!」

と、俺の腕を掴みあげて立たせる。

「いや、これはあの……どういう」

目が泳ぐ俺。

「どうもこうもねぇよ! お前があの頃のまんまだからじゃねーか!?」

と、山田はふんどりかえる。

「そうだよ!洋介君から聞いてるよ?なんで?なんで知久君はユースに入ってないの?」

と、女の子に言われた。

男性が、

「まぁまぁ、お前たちも落ち着けって。知久、なにはともあれ久しぶりだな。苦しませてたみたいで悪かった」

と、頭を下げる男性。

「な、何言ってるんだ!明くんの人生壊したの俺なのに!明くんに謝りもできてないのに、お、俺……」

涙が溢れる。

みっともない。

でも、そこにいたのは、昔と変わらない灯ちゃんと明くんだった。

そこから話はスムーズだった。

俺は謝り通したが、明くんは俺がしたかったことだからとお互い一点張りで、残された二人はクスクス笑っている。

ある程度一点張りが続いたところで、

「ところで知久。サッカーやめてねーんだろ? なら、俺の分もしっかり活躍してくれよ!」

と、肩を組んでくれた明くん。

それから、穴を埋めるようにお互いの

話をした。

楽しかった。

またあの四人で話せる日が来るとは思わなかったから。

明くんも気さくなところは何も変わってない。

誰のせいにもしない、俺の憧れの人まんまだった。

山田にもちゃんと感謝しねーとな。

そんなとき、

「ねぇねぇ知久君。このあと、あの祭りでしょ?その、なんていうか……ほら、勾玉!あれ取って来てほしいな、なんて……」

と、灯ちゃんが顔を真っ赤にして俺の服の裾を摘んでくる。

俺は、さらに赤くなり、

「灯ちゃんがいいなら……」

と、俺は照れながらいると、

「おぅおぅ、お熱いねーお二人さん?」

と、山田が俺の首をしめてくる。

苦しい。

軽くじゃれ合っていると、もう十八時ではないか!

「行っておいで」

と、明くんが優しく言ってくれた。

「ごめん、明くん山田!俺灯ちゃんとお祭り行くからこれで!」

と、灯りちゃんの手を取り早々とカラオケを後にした。

十九時前。

なんとか、スタート地点に俺は追いついた。

ここからが、本番。

太鼓の音がなる。

スタートの合図。

カッと目を見開き、ダッシュする。

もう、迷いもない。

これは、明くんと灯ちゃんが見てるんだ。

無様なことしてられない。

俺は色んな男性たちをするりと交わしながら、前だけを見ていた。

ここを左に曲がれば、あとはこの階段だけだ!

はぁはぁはぁ。

また、太鼓の音がなる。

終了の合図だ。

俺の右手にはきらびかやかな勾玉が握られていた。

ーーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ