第一章 あの日の余韻
急かすようにして流れる涼しげな風。瞼を執拗に刺激してくる日の光が俺の意識を鮮明にさせてくる。
意識がハッキリしていくと同時にさっきまで見ていて夢の映像が波の様に揺れ、次第にあやふやになっていく。
重たい瞼を開いた時にはもうなにを見ていたか分からない。もう思い出すことのできない夢の余韻に浸り、天井を見つめる。
「……俺も…」
無意識に出した言葉に自分でも驚く。忘れることのない夢。伝えられなかった言葉。
胸の中から込み上げてきた後悔と懐かしさを誤魔化すようにしてベッドから起き上がり、洗面台へと向かう。
顔を洗い、部屋の前に掛けてあった真新しい制服を着る。
慣れない制服に着心地の悪さを感じながら、ふと机を見るとピタっとラップが掛かった朝ご飯に、一枚の置き手紙。
何度も書き直した跡が目立つくしゃっとした手紙を手に取り、俺は思わず頬を緩める。
『今日から高校だな 頑張れよ』
「お父さんらしいな。」
たった一文の手紙に嬉しさを感じながら、俺は座り慣れた椅子に背もたれをかけた。
そう、今日から俺は高校生だ。俺は、胸の虹色に光る石のネックレスにそっと手を添える。
あの人は今、どこにいるのだろう。なにをしているのだろう。
玄関に座り、買ってばっかりの靴に足を通す。幼い頃から見慣れた玄関のドアを開ける。
「いってきます。」
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